多様な専門領域にわたる学際的な環境が魅力

岡田 学部生にとっては、大学院生が何を学び、どんな毎日を送っているのか、分からないことがたくさんあると思います。そこで本日は、学部生と学年が最も近い前期課程1回生の皆さんに、大学院生活について率直に語っていただきたいと思います。まずは本研究科に進学した動機と研究テーマを聞かせてください。

鈴木 大蔵さん
鈴木 大蔵さん
[応用社会学専攻 高度専門コース 博士課程前期課程1回生]
立命館大学産業社会学部卒業。卒業論文では、漆原ゼミで、社会科教育における評価方法と学習方略の関係について研究する。教職課程では、高校地理歴史・公民、中学社会の教員免許を取得。趣味は古着屋めぐり。高校時代は公式野球部で甲子園を目指す。

鈴木 僕は、中学校の社会科教員になるのが夢で、教育学の中でも社会科教育に着目し、憲法学者の解釈などを研究しています。最初は多くの人と同じように4回生で教員採用試験を受けるつもりでした。しかし教育について研究を始めて、現代の教育界に自分の知らないたくさんの課題があることを学び、勉強不足を痛感。もっと多くの知識を身につけ、多様な問題を踏まえた上で教壇に立ちたいとの思いが膨らみ、大学院進学を決意しました。

山根 私は4歳から日本舞踊を続けていて、将来はその普及に携わりたいと思っています。社会に出る前に日本舞踊についてもう少し造詣を深めたいと考え、大学院進学を決めました。当初は芸術系、あるいは舞踊系の大学院に進学しようかと迷いましたが、日本舞踊そのものに焦点を絞るのではなく、日本舞踊と社会との関わりを掘り下げたいと思い、本研究科を選びました。研究では、日本舞踊を観賞している人の脳波を測定し、鑑賞者が日本舞踊をどう認知しているのかを明らかにしようとしています。

三谷 僕が大学院進学を考えたのは、4回生の時、体育の教師を目指して教育実習を体験したことがきっかけでした。実習中、生徒の前で何度か授業を行ってみて、自分が思い描いた通りに授業を進められないことに、もどかしさを感じました。

中村 介さん
中村 介さん
[応用社会学専攻 研究コース 博士課程前期課程1回生]
常翔啓光学園中高から立命館大学産業社会学部へ進学、卒業。学内進学方式で社会学研究科に進学。高校時代はサイエンス部と剣道部に所属し、国立研究開発法人科学技術振興機構のサイエンスキャンプに参加。学部時代には教職課程を修了し、院進学後も専修免許を取得中。産社学会院生委員会の委員を務めながら、研究活動の勤しむ。

とりわけ違和感を抱いたのは、「スポーツ」と「授業」との間の「距離が遠い」という感覚。教師になる前にこの違和感の正体を明らかにしたいとの思いから大学院に進学しました。現在は「軟式ボールを使ったスポーツの誕生と受容」をテーマに、軟式ボールを使ったスポーツを近代スポーツの改変系として捉え、それが人々にどのように捉えられているのか、どう捉えるべきかを研究しています。

中村 僕は幼い頃から科学に興味があって、早くから将来は研究者になりたいと考えていました。立命館大学産業社会学部で現在の指導教員である山口 歩先生に出会ったことに加え、社会学研究科では、社会学をベースに学際的な研究が行われているところに魅力を感じ、本研究科を志望しました。現在は、紙の書籍から電子書籍にメディア媒体が移動した時、文芸作品の意味や内容にどのような変化が見られるかについて研究しています。

留学生、社会人、他大学など多様な学生に刺激を受ける

岡田 それぞれ目標や希望を抱いて社会学研究科に入学した皆さん。実際に入学してみてその印象はいかがでしたか?

鈴木 まず感じたのは、「いろんな人がいるな」ということです。授業中のディスカッションや研究の合間に同期生や先輩と話をすると、自分の関心がさらに広がったり、ものの見方や考え方が一変するような意見を聞くことも少なくありません。そうした仲間に毎日大きな刺激を受けています。

山根 確かに、本研究科には留学生も多く、多様性を感じますね。

三谷 留学生だけでなく、他大学から、あるいは社会人経験を経て入学した人など大学院生のバッググラウンドもさまざまです。それぞれの考え方や価値観の違いを知るのもおもしろいですね。

中村 入学前に期待した通り、同じ社会学領域でも、先生方の専門は非常に幅広いことを改めて実感しました。そうした先生方から指導を受けることで、学部の時以上に研究が深まる手ごたえを感じています。

山根 入学前は、自分の研究テーマと社会学領域がかけ離れている気がして、授業などについていけるか、正直不安でした。でも入学してみると、授業は少人数で、先生がそれぞれの関心にひきつけられるように進めてくださるので、安心しました。

社会学研究科 院生座談会イメージ01

研究、授業、課外活動、アルバイトに忙しい毎日

岡田 皆さんがどのように毎日を送っているのかも聞かせてください。

中村 先生の講義を聞くことが中心だった学部時代とはガラリと変わって、大学院の授業では、プレゼンやディスカッションなど先生や学生同士の双方向のやりとりが中心です。最初はその準備にずいぶん時間がかかりました。

鈴木 自分の言葉で意見を述べたり、論理的に問題提起する機会が増え、僕も最初は「大変だな」と思いました。もともと文章を書くのが苦手だったのですが、毎週のようにレポートを書いたり、プレゼンのための資料を作るうちに、いつしかその楽しさにも気づくように。今は、楽しみながら悪戦苦闘しています。

山根 悠希さん
山根 悠希さん
[応用社会学専攻 高度専門コース 博士課程前期課程1回生]
4歳より日本舞踊を始める。平成24年楳若流に入門し、楳若仔一郎に師事。平成26年に名取取得し、楳若仔朝の名を許される。立命館大学産業社会学部卒業。卒業論文は漆原ゼミで、日本舞踊鑑賞を通して日本舞踊に対する印象や演目の理解がどのように変化するのかについて、外国人留学生と日本人学生を対象に研究。大学院進学後も様々なフィールドで伝統芸能の普及に向けて積極的に活動している。

中村 自習や研究の時間は学部時代とは比べものにならないほど増えました。僕は通学に片道2時間近くかかるので、通学の電車の中で課題の文献に目を通すなど、時間を有効に使うよう心がけています。

山根 私の場合は、日本舞踊や伝統芸能に関わる専門書や脳波に関係する先行研究など、社会学研究科の授業では直接扱わない内容についても時間を見つけて勉強するようにしています。

鈴木 大学院に進学して圧倒的に増えたのが、本を読む時間ですね。自分の研究に関わる文献はもちろん、それ以外に最近は、社会学の古典といわれる文献を読むのがおもしろいんです。

山根 実感するのは、とにかく忙しいこと。 前期課程1回生は授業数も多く、各授業で出される課題やプレゼンなどの準備に加え、自分の研究、課外ではアルバイトや日本舞踊の稽古もあり、それらを両立させるのに日々苦心しています。

三谷 確かにやるべきことが多すぎて、一日が「速いのに長い」と感じますね。僕は大学院に通う一方で、総合育成指導員として大学近くの中学校に非常勤で勤めています。クラスに入りづらい思いをしている生徒に一日付き添い、教科や体育の指導を行うのが役割です。

三谷 舜さん
三谷 舜さん
[応用社会学専攻 高度専門コース 博士課程前期課程1回生]
小学校4年からソフトボールを始めた。高校で国体優勝、インターハイベスト8。大学時代はインカレベスト4にもなった。現在は京都市立中学校での嘱託職員(総合育成支援員)としても活動している。

出勤日は朝5時半に起きて6時過ぎに家を出て、中学校での勤務と大学での学びを終えて帰宅するのが夜10時、11時になることも珍しくありません。

鈴木 僕も三谷君に誘われて同じ中学校で総合育成支援員として生徒のサポートをしています。現実の教育現場に触れることは、教員を目指す僕にとってかけがえのない経験です。生徒と接して、文献研究ではわからない「教育の根っこ」がぼんやりと見えてきた気がしています。その他、僕を含め、多くの大学院生が、学部生の授業に入り、学習をサポートするTA(ティーチングアシスタント)のアルバイトも続けていますね。

多角的な視点からの指導・アドバイスで研究が深まる

岡田 先ほど中村さんもおっしゃったように、社会学研究科には幅広い領域を専門とする教員が揃っています。皆さんはそうした教員からどんなことを学びましたか。

中村 どの先生と話しても感じるのが、発想力の豊かさです。自分の研究について先生に説明すると、いつも思いもよらない角度から指摘をいただき、「そういう考え方もあるんだ」と目の覚めるような思いをします。専門分野によって先生方のアプローチもアドバイスも多様で、自分の研究のさまざまな側面に光が当てられ、新たな課題も見えてきます。

鈴木 同感です。ふつうは気づかない視点で、しかもクリティカルに問題の核心を突かれるので、いつもはっとさせられます。ある先生からのアドバイスで心に残っているのが、「違和感を大切にしなさい」という言葉です。身の回りに起こっている、「説明できないけれど引っかかる」「何かおかしいな」と思うことにこそ、社会的な問題が潜んでいるとのこと。「他の人が目を向けないところをしっかり見据えなさい」と教わったことが、研究の指針になっています。

山根 社会学研究科に進学して、先生方はもちろん、職員の方々もとても身近に感じるようになりました。指導教員だけでなく、どの先生も職員の方々も、研究のこと、生活や将来についてなど、どんな相談にも快く応じ、熱心に指導してくださるのがありがたいですね。

三谷 それは僕も感じています。専攻に関係なく、どの先生も親身になって話を聞いてくださるし、一度質問しただけでキャンパスで出会うと「最近どうしてる?」と声をかけてくださるなど、いつも気にかけてくださるのを実感します。

鈴木 また大学院生になると、教員と院生という立場を超えて、研究者同士として対等に話してくださる瞬間があります。そんな時は、認められたようでとても嬉しいですね。

岡田 確かに私たち教員にとっても、大学院生は一人の研究者として仲間に近い存在になりますね。

社会学研究科 院生座談会イメージ02

刺激し合い、助け合う同期、先輩の存在が支えに

岡田 一方で、共に学ぶ仲間から学ぶことも多いのではないでしょうか?

三谷 大学院生専用の研究棟「究論館」のオープンスペースで、同期の仲間と話をするのが楽しいですね。互いの研究や最近読んだ文献について情報交換するのがいい息抜きになっています。

中村 僕の研究に関係のある論文や文献を見つけるとわざわざコピーをくれたりと、一緒に学ぶ仲間にはいつも助けられています。大学院生同士でも考え方や研究へのアプローチはさまざま。その違いが互いの刺激になっています。

三谷 中国や台湾、韓国など国によって異なる考えをぶつけ合うのもおもしろいですね。

山根 自国の文化や社会について堂々と話す留学生を見ていて「すごいな」と思うと同時に、「自分は果たして外国で日本や日本の文化についてこんな風に話せるだろうか」と自問することがあります。日本舞踊の普及を目指す私にとっては、留学生の姿勢に学ぶことも多いですね。

鈴木 研究の進め方や論文の書き方をアドバイスしてくれたり、先輩方も心強い存在です。

社会学研究科で研究したからこそ拓ける進路がある

岡田 大学院で学んだ後の将来をどのように描いていますか。皆さんの夢を聞かせてください。

中村 最初に話したように、後期課程に進学し、研究を続けるのが目標。今後も技術史や技術論について研究を深めていくつもりです。科学技術社会においては、たとえ技術的に実現可能であっても、それが「社会にどのような影響を与えるか」を考えずに安易に社会に実装しては大きな危険をもたらすこともあります。そうした社会への影響を考え、科学・技術のあり方について判断できる研究者になりたいと思っています。

山根 私は日本舞踊をもっと普及させたいと考えています。日本舞踊が浸透しない理由の一つは、それを観る機会や場所がないこと。といって、私一人が舞台で踊るだけでは限界があります。まずは日本舞踊とは無縁の人と日本舞踊をつなげる草の根的な活動から始めたいです。社会学研究科で研究したからこそできる方法で、日本舞踊に興味を持っていただける人を増やす礎になりたいと思っています。

鈴木 僕も、学部の4年間だけでは得られない力を身につけて、中学校の社会科教員になりたいと思っています。社会科の教科目標の一つに「自分で問題を見つけ、それに対して自ら考え、判断し、解決に向けて行動していく力を養う」ことが掲げられています。これはまさに今、社会学研究科で磨いている力です。こうした力をしっかり自分のものにして、生徒たちを指導するのが目標です。

三谷 社会学研究科の2年間を経て、将来の選択肢が増えたと感じています。先輩方の姿を見て、後期課程に進学し、研究を続けることや企業に就職することにも興味が湧いています。どの道に進むにしても、研究を通じて深めた専門性と、中学校の教育現場で得た経験の両方の知見を大切にしていきたいと思っています。

常に問題意識を持って社会に関心を寄せることが大切

岡田 最後にこれから社会学研究科を目指す後輩たちにメッセージ・アドバイスをお願いします。

鈴木 「常に問題意識を持って」と伝えたい。研究する上では、社会のさまざまなことに関心を寄せ、クリティカルな視点で問題を見つける姿勢が重要だと思います。

中村 社会学は非常に扱う領域もテーマも広範囲に及びます、大学院に進学する前に、自分が何についてどのように研究していくのか、整理しておくとスムーズに研究を進められると思います。

三谷 僕は中村さんとは反対に、何をしたいか見つからない、あるいはたくさんありすぎて決めかねている人にこそ、社会学研究科への進学を考えてほしいと思います。本研究科でさまざまな研究や学びに触れる中で、予想もしなかった将来の道が見えてくるかもしれません。

山根 中村さんがおっしゃるように、社会学ではどんなことでも研究テーマになり得ます。社会学研究科の学際的な環境で学ぶうちに、自然と物事を多角的に見る目が養われました。将来、社会で働く上でもこうした力が糧になると思うので、自分の武器を得るための選択肢の一つとして、大学院進学を考えてほしいですね。

岡田 皆さんのお話を聞いて、大学院での学びがよくわかりました。後輩の方々にも大いに参考になると思います。皆さんの今後に期待しています。

岡田まり先生
岡田 まり
[立命館大学大学院社会学研究科 大学院・研究担当副学部長]
研究テーマ:QOL向上のための支援のあり方と方法(特に、保健医療・精神保健分野に おけるソーシャルワーク、障害者・高齢者の地域生活支援)
詳しいプロフィール:立命館大学研究者データベース 岡田 まり