科目紹介

国際PBLセミナー

「大学の世界展開力強化事業・国際イノベータ育成プログラム」の一環である 国際PBL(Problem/Project-based Learning)セミナーを2015年度より開講しました。受講生は日本、インドネシア及びタイ出身者で合わせて19名でした。これからタイとインドネシアにそれぞれ留学する本学学生(政策科学部生ならびに経済学部生)、今年1月タイとインドネシアから帰国した日本人の本学学生(いずれも立命館大学政策科学部の学生)、そして、タイとインドネシアから立命館大学に短期留学しているタイとインドネシア人の学生という多国籍かつ多種多様な学生でした。

本科目は前半・後半と2つのパートに別れ、前半の授業は3つのテーマに分かれました。1つ目は日本の歴史と文化、2つ目は戦後日本の経済と社会問題、3つ目は環境政策です。授業においては日本と東南アジアの社会と環境問題といったテーマを学習し問題点を見つけながら、日本、インドネシアとタイ各国の事情を比較しました。受講生は「なぜごみ処理に対する理解と減量はある程度日本で実現できたが、タイとインドネシアではまだできないのか」、あるいは「日本の雇用問題と男女の格差はなぜ東南アジアにはあまり見られていないのか」などについて、自分の経験、観点そして収集したデータを発表し活発に議論しました。また、茨木市環境衛生センターごみ処理施設を訪問しました。ごみ処理の流れや燃焼方法を見学し、センター長と業務員からいろいろ話を聞くことができ、充実した授業ができたと思います。

 後半では、学生はビジネス戦略について事例を通じて学びました。東南アジア各国に焦点を絞り、学生グループが選択した国の社会経済や文化、政治環境の相違に基づいて、当該国で実現可能だと考えられるビジネスの提言を行いました。また、異なる文化をもつ学生間の協力することの重要性に気づかせ、創造性、チーム力などを涵養するため、ゲームを取り入れました。また、アサヒビール工場を見学し、ビール製造工程を学ぶとともに、アサヒビールのビジネスモデルとマーケティング活動について学びました。また、特に東南アジアにおけるアサヒビールの拡大戦略について担当者と議論を交わしました。

 このように、異文化を背景とする学生間での共同作業、フィールド調査、議論、課題である発表やレポート執筆を通じて、受講生は異文化理解に基づいた問題の理解と創造的な問題解決策の提案能力を培いました。

ゲームによるチームビルディングの様子

アサヒビール工場の見学

Gaming Simulation

政策科学部開講科目「Gaming Simulation」では、受講生がゲームを活用した社会・政策の理解とともに、自分たちでデザインしたゲームを受講生に向けてプレイしました。ゲーミング・シミュレーションとは、社会(システム)の重要な要素を抽出した単純なモデルをゲームに組み込み、ゲームを通じて社会の仕組みについて、当事者の立場から体験を通じて理解する教育ツールです。本科目では、防災や意思決定、国際貿易などをテーマとしたゲーム体験を通じて、ゲームと社会の関係について学び、後半はグループに別れてゲーム作りならびに実践をしました。

あるグループは海外における市場での麻薬取引を題材に、警察はディーラーを発見することを目的とし、ディーラーは取引が警察にばれないように振る舞うことによって、闇市の実態をゲーム上に再現しました。別のグループは、資本主義や社会主義などの経済システムをゲームに組み込み、企業間の合併や自由市場などをゲーム上に再現し、プレイヤーはいくつかの経済システムを経験しました。また、 カードを資源(木材)に見立てて宝探しゲームを応用した不法伐採をテーマとしたグループもありました。さらに危機管理をテーマにしたグループは、様々な代替案を用意しておくことが必要であることを、イベントを通じて再現しました。

このように、ゲーミング・シミュレーションを作成することは、ゲームによって楽しく社会について学べることだけでなく、社会(システム)を単純なモデルに置き換え、それをゲームに実装するという、社会に対する深い洞察が必要です。本科目を通じて、受講生はその一端を経験学習することができたと思います。

本科目は「大学の世界展開力強化事業」により派遣された交換留学生への受講推奨科目に指定されており、政策科学部の英語プログラムの学生だけでなく、インドネシアやタイからの留学生も受講しました。

ゲームの重要性についてのプレゼン

麻薬密売人役を逮捕している警察役

GSG (Global Simulation Gaming)

 この授業では、ゲームに参加するアクターが国際政治や国際経済の大きな動きのなかで「課題設定」、「政策立案」、「交渉過程」、「政策行使」という一連のプロセスを擬似的に体験し、国際関係の動向を学習する。GSG当日のゲームでは、約300名の学生が国際社会における主要なアクターに扮して外交交渉を行う。この授業は、2003年から国際関係学部の2回生登録必修科目となった。さらに、2015年度からは、IR専攻学生とGS専攻学生との混合のアクターおよびクラス編成が行われ、それに基づいてゲームが実施されている。IR学生とGS専攻学生が同じ空間で議論をする機会が増えたことは、日本からの視点だけでなく、外国人留学生や外国生活が長い日本人学生などの経験や意見を踏まえる機会が多くなることを意味する。それは、学生が演じる主要アクターの特徴や現地の社会状況を反映することで、よりリアルな国際社会の再現を可能にする一方で、多様な意見や複雑な要素が絡まり合った課題をどのように収拾するのか、さらにそれをいかに英語で説明し、相手を説得し、納得させるかという難題に学生は直面することになった。

 このゲームでは語学能力、交渉能力が要となる。2015年度のGSGにおいては、「資源・エネルギー問題」がゲームのテーマであったが、エネルギーや資源のデータを集めるだけでは不十分である。交渉相手国の特徴やその社会、経済状況、歴史問題、さらには国際情勢も把握しておかなければならない。自国の政策提言や意向を国内アクターの話し合い、調整を通して確固たるものにしても、それが国際社会のなかで100%実現することはほぼ不可能であり、妥協を迫られることがほとんどである。国家アクターに加えて、国際機構、NGOs、多国籍企業といった非国家主体の重要性がますます高まるなか、その複雑な国際社会のあり方を学生はこのゲームを通じて実感する。PBL国際学生からは、講義でなく、学生の主体性や実践を重んじるGSGの受講を戸惑う声が当初は上がったものの、実際にNGOsや他の国家アクターを演じてみれば、自国の特徴を考察する機会やアジア地域の重要性に気づかされるといった声が多くなった。多角的な視野で課題を認識する能力、すなわち「思考ミックス能力」がグローバル化の進展する国際社会において重要であると同時に、自国をいかに理解しそれを対外的に自分の言葉で表現できるか、ということが求められるだろう。GSGは、その機会が提供し、学生が主体的にその能力を向上させる授業になるだろう。

PBLプログラム開講授業について
立命館大学国際関係学部
国際関係学部2回生 藤岡賢也

私は、現在インドネシアのガジャマダ大学経済経営学部に在籍しています。留学前には、立命館大学の国際関係学部創立以来続いているGSGを受講しました。この授業は、国際関係学部の名物授業であり、私達学生が1つの国家や企業、国際機関などのアクターに扮して国際交渉を行うというものです。私が参加した2015年度のGSGでのテーマは「資源・エネルギー問題」でした。その課題に対する知識や教養のある学生も多いかもしれませ。しかし、他国や企業、国際機関などからの視点が含まれていないことが多く、課題をより正確に捉える学生は少ないと言えます。例えば原子力発電を例に挙げると、その稼働国側と非稼働国側のメリットやデメリットに対する意見、原子力開発の技術を提供する企業や国際組織が作成する提案書、アクター毎に異なった考えやビジネスプランなどが存在することをGSGでは再現されます。さまざまな問題に対してアクター内での議論や他国や企業・機関と国際交渉を繰り返しつつ、問題解決の道を探求します。この授業を通して、多角的な視野で国際的な諸問題を捉える能力がグローバル化の進む国際社会において非常に重要です。

国際PBLイノベーター育成プログラムでは、政策課題・社会問題の解決に必要な「思考ミックスの能力」をつけることを到達目標としています。GSGではこの「思考ミックスの能力」が常に要求されていました。国際交渉の席では、他のアクターに対して自身のアクターが抱える問題点を説明し、その解決に向けた政策提案、ビジネスプランの提示、または条約や現制度の見直しを要求する能力が求められます。そのため、GSGを経験することは「思考ミックスの能力」の習得に繋がります。GSGにはインドネシアやタイをはじめ、ASEAN諸国のアクターが多数設けられておりPBL派遣生にとって、ASEAN諸国の諸問題の理解を深める良い機会であると思います。授業では、他のアクターに配布する資料の作成や、英語によるディスカッションや交渉もします。英語力はもちろんプレゼンテーション能力や論理思考力が求められます。

現在、私は派遣先のインドネシアの大学で日本とASEAN諸国間を中心とする国際ビジネスや両国の社会問題、政策問題などを中心に学習しています。派遣前にGSGを経験したことで、多角的な視点から問題を捉えることに努めています。現地の学生と二国間や国家と企業、あるいは国家と国際機関での間における問題点の発見やその共有を図っています。刺激的で貴重な経験を積んでいます。

Special Lecture (Core Related Course)

 この授業のテーマは、日本における文化の再考であった。地元やサイトに深く関与される方の意見を踏まえるため、テーマごとにグループに分かれ、フィールドワークを実施した。そこでの体験やインタビュー内容をもとに授業で発表し、クラス全体で議論した。2015年度春季セメスターには、茶道総合資料館、聖護院八ツ橋、立命館大学大阪いばらきキャンパスにおける里山エリア、京都国際マンガミュージアム、立命館大学平和ミュージアムにてフィールドワークを行った。

 授業は、国際PBLによるイノベーター育成プログラムの参加者、すなわちインドネシアとタイへの留学予定者および留学修了者、当該国からの留学生を中心に構成されたが、そのほかの日本人学生(IR専攻所属学生、GS専攻所属学生)および国際学生の参加によって、より多様な意見を踏まえた議論展開が可能となった。

 例えば、日本のマンガ文化を調査したグループの発表では、それが多言語に翻訳され、発信されることによって、現地にどのようなインパクトをもたらしているのかを考察したうえで、それを発信する日本の法と倫理規定に関する問題提起および議論が行われた。日本のマンガ文化が海外でどのように受け入れられているのか、それが現地の文化や倫理的価値にそってどのように変容し、再発信され受容されているのか、または宗教倫理の観点からはどうであるのか、などを留学生の意見を踏まえて議論することは、日本のマンガ文化の再考と再発見を可能にした。

 同じ情報が発信されても、解釈、理解は多様であり、異なる意見が飛び交った。自身がもつものとは異なる価値観や文化背景に基づき発信されるほかの学生の意見や考えを尊重しながら、自身の意志を英語で表現することに戸惑いも見られた。特に、留学予定者は、英語能力に加えて日本に関する知見をどれだけ話せるか、そしてそれを踏まえた自身の考えを述べることの難しさに直面したという声が多く上がった。留学する、しないに関わらず、グローバル化が進展するなかでその重要性と必要性を認識できたことは大きな意義がある。それは、留学派遣年度が異なる学生が国際学生と同じ空間で学習するという当プログラムの醍醐味でもある。日本からの視点だけではなく、多様な意見や実情に根ざした問題解決を探ることができるグローバル人材養成に欠かせないことでもあろう。

PBLプログラム開講授業について
立命館大学国際関係学部
国際関係学専攻2回 藤本聡美

 私は現在、インドネシアのガジャマダ大学経済経営学部に所属しています。ここでは、主に経営学を学んでいます。留学前には、Special Lecture (Core Related Course)を受講しました。GS専攻の留学生とともに各自の関心に従ってグループに分かれ、日本の文化について学びました。私は「日本の里山」グループに入り、大阪府茨木市にある立命館大阪いばらきキャンパスの里山エリアで活動しました。メンバーや先生方、茨木市において里山保全活動に取り組んでおられる地域住民の方々とともに植樹しました。当初は、言葉の違いもあり、お互いの間に距離があったものの、徐々に打ち解けました。留学生が里山保全グループの方々のお話を真剣に聞いている様子は微笑ましい光景でした。この経験を通して里山保全活動の重要性と地道さ、大変さを学びました。

 活動後は、発表の準備にとりかかりました。私たちのグループは、ベトナムやインドネシア、中国、パプアニューギニアという多様な国籍をもつメンバーから構成されていたこともあり、各国の里山保全と比較しながら日本の里山保全の特徴を発表しました。同じアジア地域に属する国であっても、その保全のあり方や森林そのものに対する価値観は全く異なるということに気づきました。里山保全体験を通じて日本の里山保全に独自性を感じました。日本という国そのものを見直し、既存のものとは異なる日本の価値を再発見できたと思います。

 留学先では、イスラム教、とくにイスラムがもつジェンダー観、また労働を目的に来日したイスラム教徒と日本社会との関係、イスラム教徒向けのビジネスについて学んでいます。インドネシアは世界第4位の人口を抱えていますが、その約9割の人々がイスラム教徒です。世界最大のイスラム人口国家であるため、学習の場として最適です。

 インドネシア生活を通して留学前に抱いていたイメージが大きく変わりました。私は、イスラム教徒である女性たちが着用しているヒジャブに注目しています。ヒジャブを着用しなければイスラム教徒でないという私の認識は、現地での経験を経てヒジャブを着用するかしないか、またどのタイプのヒジャブを着用するのかは彼女たちの選択であるというものに変わりました。インドネシア人はとても親切なので、疑問に思ったことがあれば積極的に質問します。ムスリマショップ(イスラム教徒の女性向けの服屋)や人気のマーケットなどにも足を運び、イスラム教徒の女性たちの嗜好を調査しています。日本にいては学べないことが多く、留学先としてインドネシアを選んだことは正解でした。

 授業中には、日本企業の経営方針や人材育成のあり方について質問され、説明を求められ、自分が日本人であることを意識する機会が多いです。改めて日本や日本人が持つ価値、また他国との文化的違いに気づかされます。インドネシア人は日本に対して良いイメージを抱いている人が多く、将来日本企業で働くことを希望する若者にもよく出会います。しかし日本とインドネシア間には多くの文化的な違いが存在しています。そうした違いを知り、将来彼らが日本で生活するために貢献していきたいです。