浅羽:先ほど佐藤さんから、3年で「満退」するというお話がありました。この制度には、スケジュールを立てやすいというメリットがある反面、一人前の研究者になるために十分なトレーニングを積めるかという点に疑問が残ります。役に立った大学のサポートはどのようなものでしたか。
自分で研究を進め、指導を仰ぐ。その積み重ね
井出:体系的なトレーニングやサポートがあったというよりも、それぞれが自分で研究を進め、それに関連して先生方に質問し、助言を仰いだという感じです。研究者になる道は、その積み重ねではないでしょうか。
他分野の先生からコメントをいただく構想報告会が役に立った
川村:私も基本的には「研究は自分でするもの」というスタンスでした。研究の役に立ったのは、前期・後期に1回ずつ開かれる構想報告会でした。指導教授以外の先生方や、他の研究分野がご専門の先生方に自分の研究を見ていただき、コメントをいただけたのが、良かったですね。
プロジェクトに参加し、業績を積むことができる
佐藤:国際関係研究科の良いところは、さまざまなプロジェクトが行われていて、自由に参加できること。プロジェクトでは、共著の執筆に携わったり、書籍の翻訳をしたりと、研究業績を積むことができます。また、奨学金や国内外の学会参加への渡航費を負担してくれるなど、財政的なサポートがありました。
基礎理論を学ぶコースワークが必要かもしれない
浅羽:川村さんから方法論をしっかり学んだというお話もありましたが、大学院によっては、専攻にかかわらず、基本的な理論や方法論を学ぶ「コースワーク」を採用しているところもあります。
中戸:アメリカの大学の影響でしょう。アメリカでは基礎理論や方法論を学ぶカリキュラムが体系的にパッケージ化され、修士課程や博士課程の最初に全員が学びます。日本では、体系的なカリキュラムが提供されてそれをこなしていくというよりも、たとえば基礎理論の書籍を一冊精読することで、力をつけるということが多いですね。
ただし、海外の大学院とも競い合っていかなければならない今、国際関係研究科でも体系的に基礎を身につけるカリキュラムが必要になるかもしれません。僕たちも博士課程で体系的なカリキュラムが提供されていたというよりも、結局は自分で必要な勉強をしていったと思います。むしろ先生方からは「教えてもらうという発想では研究なんかできない」といわれたものでしたよ。
佐藤:博士号を取った後、教鞭を取りながら、政治学の古典的名著に関する基礎体力がないと焦りました。その点、海外の大学院で博士号を取った人は、基礎力が身についていますね。
中根:私も正直にいって、今からでもアメリカの大学のようなコースワークを受けてみたいです。おもしろそうです。
中川:コースワークを入れようという話は立命館大学でも出ています。国際関係学部は網羅するディシプリンが広いため、それが難しいというジレンマがあります。
浅羽:統計学やゲーム理論など、どのディシプリンにおいても使える方法論をコースワークとして提供するということは考えられているのでしょうか。
中川:今のところはないですね。現実的には各ゼミで指導教授が独自に教えておられます。私の学生時代は、経済学の古典を、それこそどの章にどんなことが書かれているかを覚えるくらいに読み込んだものでした。今はそこまで徹底的に基礎理論を勉強する人は少ないですね。
川村:私は龍澤先生のご指導のもと、徹底的に古典を読みました。英語以外の外国語の原典を参考文献としてすすめられることもしばしばで、先生から辞書をお借りするのですが、その辞書が、伊仏辞書だったりして、辞書を引くだけでも大変でした。それでも先生の知識についていくために、必死で勉強したのを覚えています。
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