現在、日野自動車のタイ販売代理店に出向中で、バンコクに駐在しています。
自動車会社の海外販売代理店というのは、その国の市場に対する販売の司令塔として、地場のディーラーさんと共に販売策を練ったり、故障した車両を修理するアフターサービスを担ったり、また現地の仕様に合致した商品を企画することが主な仕事になります。
バンコクに赴任して1年半が経過しましたが、その間大きく3つの仕事に携わっています。
1.トラックの商品企画
・タイ全土での商品調査を日本と共同で実施したり、月に1度は地方に出張し、ディーラーさんや顧客との会話を通じて商品に対する要望・不満を収集しています。トラックの物を運ぶという役割は永遠ですが、細かい部分で顧客の要望は年々進化していきます。それをいかに拾い上げ、いかに他社に先駆け且つ安価に導入できるかが勝負の分かれ目です。
・その好例が、現在タイで爆発的に売れている天然ガス(CNG)エンジンのトラックです。世界的にオイル価格上昇基調の中、タイ政府はCNGの普及をエネルギー政策の1つとして据えており、乗用車もトラックもバスも国中が猫も杓子もCNGという状態に入っています。リットルあたりのディーゼル価格が30バーツに対して、CNGは政府補助もあり8.5バーツ。物流業者にとっては日本に比べてドライバーの人件費が安い分、相対的に物流コスト比率が高くなる燃料代を如何に節約するかがポイントで、正にそこを突いた商品となりました。
・これは私の前任者が企画した商品ですが、他社に先駆けて商品を導入した好例となっています。私も次代のタイ市場を担う商品を導入することを夢見て、企画を練っているところです。
2. 需給管理(販売予測・在庫管理・車両発注業務等)
・前職のダイハツ、トヨタで徹底的に需給管理の仕事をしてきたので最も得意分野だと思っていましたが、見事に期待を裏切られ日々一番苦労しています。赴任して以降の1年半、常に販売予測に対して実際の受注が上回る状態が続いており、ディーラーさんからは挨拶のサワディーカップ(こんにちは)の代わりに、ストックノイ(在庫少ないよ)と言われる始末です。
・タイは国民の約4割が農業に従事している農業国であり、米・キャッサバ・サトウキビ等の生産・加工が盛んである一方、GDPの4割はPC部品、自動車完成車・部品等の工業製品や農業産品の輸出で成り立っている国です。
・トラック市場は経済の先行指標と言われており、工業品や農産品の生産量、物流量、また値動きがトラック販売に大きく影響します。従い、それらが数ヶ月先にどのように動くかを見極めて、販売を予測することが重要です。しかし、タイ経済はリーマンショックからすぐに立ち直り、その後はハイペースの右肩上がりの経済成長を続けており、良い意味で販売予測を裏切り続けられています。
しかし、今年の5月にバンコクで騒乱が起き、多数の死傷者が出たことは記憶に新しいところで、さすがにタイ経済も減速は必至という論調が一般的になりました。観光産業は大打撃を受けるだろうし、世界からの投資や農産品輸出の減少も避けられないとの見方です。
確かに、アパートから100m程度しか離れていない銀行や放送局は爆破され、会社に向かう道はビルとタイヤが燃えた黒煙が充満していました。また、窓に近づくと狙撃兵に撃たれるので絶対近づかない事との大使館からのお触れが出たりと一時は戦場かと思うような有様で、経済全体への打撃も已む無しという気分にもなりました。
しかし、ディーラーやお客さんと会話をしても、農業・工業関連の輸出ビジネスは一向に衰えていません。寧ろ騒乱前より好調な状況が続いているくらいです。現地現物で掴んだ情報を信じ、今後も在庫を積み増すという強気の姿勢を貫いています。依然政情に不安が残る中当然リスクは抱えていますが、これが当たれば今までいすゞに負けていたタイトラック市場で、トップシェアが取れるチャンスと期待を抱いています。
3.GMS(Great Mekon Sub-region)に関する情報収集
GMSとは中国南部からインドシナ半島一帯に広がる経済圏のことで、メコン川に沿っていることからこの名が付けられています。GMSの進展によって地域の物流導線が今後どのように変わり、それに適した商品・サービス体制をいかに構築するかを検討すべく、データ収集・現地調査に勤しんでいます。
昨年12月には、タイ北部のチェンライからラオス・フェイサイに船で渡り、その後2泊3日かけて、南北アジアンハイウェイを中国の昆明まで車で縦断しました。一番の収穫は中国の持つ国力を肌で感じたことです。
中国南部からラオスにかけては深い山が連なっている為、ラオスでは険しい山道を酔いそうになりながら走行するしかありませんでしたが、中国の国境を跨いた瞬間に景色が変わりました。立派な高速道路がどーんと向こうの方まで貫通していました。でも険しい山々が聳え立っている事には変わりがありません。では、どうやって高速道路を作っているかというと、険しい山にはトンネルを掘り、川や谷には橋をかけ、ほぼ一直線に高速道路を整備していました。13億人が持つ官民一体の国力に凄まじいエネルギーを感じると共に、今後のGMS進展のポイントは中国の影響力をどこまで読むかにかかっていると確信しました。
その他時間を見つけては、何箇所かあるタイ-ラオスとの国境やインド・中東輸出の玄関口を期待されているタイ南西部の港に出張したり、長期休暇は日本に帰国せずにミャンマーに行ったり、陸路でのカンボジア旅行を楽しんだりと、公私を越えたところでGMS現地調査がライフワークとなりつつあります。 |