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JDP特別講義「COP26の主要な成果と意義 -市民社会の視点から-」開催報告

12月14日、JDPの特別プログラムの一環として、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)に関する特別講義が行われました。

お迎えした講師は、認定NPO法人 気候ネットワーク主任研究員 伊与田 昌慶氏です。伊与田氏は、立命館大学国際関係学部、京都大学大学院修士課程で学んだ後、気候ネットワークに勤務。NPOの立場からCOPへ参加し、交渉をモニターしています。

JDP Special Lecture COP26-1
「COP26の主要な成果と意義 -市民社会の視点から-」と題した今回の講義では、2021年10〜11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26の成果や課題などについて、現地で会議に参加した経験も踏まえて解説していただきました。

現実としての気候危機と気候正義
冒頭で伊与田氏は、気候危機が現実に起こっている状況を説明。また、裕福な国や人々が化石燃料を大量消費してきたことで、途上国の人々が被害を受け、若い世代がより大きな気候危機のリスクにさらされると説明しました。 この不公平を正そうとする考えは、Climate Justice (気候正義)と呼ばれています。

「1.5℃目標」をめざして

このような背景のなかで開催されたCOP26の成果のひとつとして、伊与田氏は、気温上昇に関する目標が、事実上「1.5℃」にシフトしたことをあげました。

2015年に採択されたパリ協定は、世界全体の目標として「2℃より十分下回る水準をめざす。1.5℃への努力も追求する」と定めています。しかし2021年のグラスゴーでの合意では、気候変動に対する危機意識の高まりを反映し、「1.5℃への努力の追求を決意する」とし、温室効果ガスの更なる削減をめざすことを明示しました。伊与田氏は、これは重要な政治的メッセージだと評価します。

JDP Special Lecture COP26-2
NDCの見直しと更なる強化
一方で、COP26の会議直前に発表された国連報告書では、国別目標(NDC)と呼ばれる、各国が掲げる2030年までの温室効果ガスの削減目標をすべて達成したとしても、世界全体の排出量は2030年に2010年比で13.7%も増加すると試算されています。そこでグラスゴーでの合意では、2022年末までに、NDCの2030年目標を、2022年末までに見直し、強化するよう要請しています。伊与田氏も、世界のリーダーは早急に目標を見直し、その達成のために政策措置を強化することが必要だと訴えました。

脱石炭・脱化石燃料
また今回、COPの決定に「石炭火力発電」の問題について初めて明記されました。石炭火力の扱いなどを巡っては交渉が難航し、草案段階では「段階的廃止」としていた表現が、インドの提案で採択直前に「段階的削減」へ変更されました。多数の国からそれでは弱すぎると失望の声があがりましたが、それでも、石炭火力の問題について明記された意義は大きいと伊与田氏は言います。

COP26における日本は?
講義の後半では、日本政府の対応についても紹介されました。COP26での日本の評価は、石炭対策に対する姿勢が消極的であることを理由に、国際NGOから、温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」を贈呈されるなど、厳しいものでした。この化石賞受賞や日本を非難するデモの様子は、国内でも大きく報道されました。伊与田氏は、このような運動は重要な政治ツールであり、世間の注目を集めることで、日本により積極的な措置に踏み切らせる狙いがあると話しました。

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学生からの質問
講義の後、学生は複数のグループに分かれてディスカッションを行いました。最後のQ&Aでは、学生から様々な質問が寄せられました。

1.5℃目標を達成するための具体的な施策や実現可能性について聞かれると、伊与田氏は、各国政府に影響を与えるには、企業やNGO、地方自治体の先進的な取り組みが鍵になると期待を寄せました。

日本が気候変動対策に消極的な理由について聞かれると、伊与田氏は、温室効果ガスを大量に排出する企業が政府の気候政策に多大な影響力を及ぼす日本の政治と産業の構造について詳しく説明しました。

気候問題の南北格差解消についての質問には、「損失と被害(Loss and Damage)」について解説。これは、対策をとっても、既に現実となっている気候変動の悪影響に適応できず、現実に発生してしまう被害にどう対処するかという論点であり、途上国への被害について、先進国がとるべき具体的な支援を今後議論していくことがCOP26でも決定していると述べました。

伊与田氏はCOP26のポイントを分かりやすく説明し、参加者ならではの視点で交渉の現状を伝えてくださいました。学生は皆熱心に耳を傾けており、大変満足度の高い講義だったようです。講義の中でも、2030年までの10年間が、1.5℃目標を達成不可能にしないためにも「決定的に重要な10年」になることが強調されました。この特別講義を通じて、学生の皆さんが、より気候問題の理解を深め、関心を高めてくれることを期待しています。