メディア・リテラシー

世界を理解するためには
メディアへの理解が不可欠

コガ-ブラウズ スコット

コガ-ブラウズ スコットKOGA BROWES Scott
国際関係学部 准教授

メディアの仕組みを知らなければ
情報を正しく受けとる
ことはできない

世界を理解するためにメディアを理解する必要があるのはなぜですか?

コガ-ブラウズ国際事情や国際情勢を知るためには、ニュースメディアを通して情報を得る必要がありますが、ニュースは人が作っている以上、その人の意図や判断によって伝える内容が変化するものなので、その仕組みをきちんと知らなければ、情報を正しく受け取ることができないからです。国際関係学を学ぶなら、ニュースがどのような考え方のもとで、どのように作られているのかを知る必要がありますし、ニュースは現実をそのまま伝えるものではなく、現実の「ひとつのバージョン」だということを理解した上で、その中にある事実を見極めるセンスを磨く、つまりメディアリテラシーを高めることが大切だと思います。

私は日本と英国でテレビ報道の仕事に長く関わってきた経験から、メディアの中でも主にニュース映像についての研究を行っています。人間は、現実を認知し、言語や映像によって再生して人に伝えることができます。それが「コミュニケーション」であり、メディアはその担い手です。言語を使って再生する場合は、選ばれた言葉や作られた文章を通して、伝え手と社会との関係、伝え手の意図が見えやすく、その分析方法も確立されています。一方で、ニュース映像は、どのような意図で作られたのかが見えにくく、アカデミックな世界で分析の方法も確立していません。私の研究は、言語の分析と同じように映像を分析し、ニュース映像がどのように現実を再生しているのかを明らかにする「映像記号論」。特に日本のニュース番組が、ニュース映像を通して日本の社会をどのように伝えているかに関心を持っています。この研究を通して、学生の皆さんにはメディアの仕組みを理解するヒントを提示したいと思います。

BBCのニュースでは
誰の意見かが明確に示される

日本と英国のニュース番組の作り方に違いはありますか?

コガ-ブラウズNHKとBBCを比べると、BBCの番組では、「誰が伝えているか」が常に明確に示されていることがわかると思います。番組の中でビデオによるレポートが挿入される場合は、必ずレポートする記者の名前を紹介し、誰の意見なのかがわかるようになっています。一方でNHKの場合は、ビデオのナレーションをしているのが誰かがわからない場合があります。時には声優の声がかぶせられることもありますね。特定の個人の意見というよりは、「番組の意見」をみんなで伝えている印象です。

日本のニュース番組は、ビデオの中に「ジャンプカット」が入るのも特徴です。たとえば番組の中で専門家が意見を述べているビデオ。不自然なつなぎ目があり、その間がカットされているとわかる時はありませんか? 映像としては美しくありませんが、「カットした」ことを明らかにしているという点では誠実な行為ですね。英国ではあり得ないことです。ビデオをカットした場合は、そこに聞き手の映像を挿入するなどして、スムーズにつながるようにするからです。映像としては美しいですが、もしかしたら視聴者が気づかない間に、大切な情報がないものにされているかもしれません。どちらが良いとか悪いではなく、作り方の違いを知った上で正しく情報を受け取ることが大切です。

カメラマン、プロデューサー
としての
経験をベースに
メディアを読み解く

先生はどうして日本と関わりを持つようになられたのですか?

コガ-ブラウズ日本との出会いは子どもの頃にさかのぼります。ロンドンのビクトリア&アルバート博物館で観た、日本のデザインの展覧会です。さまざまなものが展示されている中で、歌舞伎役者を描いた凧が特に印象に残りました。もともと言語に関心があった私は、日本的なデザインへの興味から漢字も好きになり、大学で日本語を学ぶことにしたのです。卒業後は日本語ができるスタッフとしてTBSに入社、ロンドン支局で働きました。通訳などをしていたのですが、日本人のカメラマンから撮影を教わり、いつしか撮影取材もするようになりました。当時は英国でアイルランド共和軍によるテロが頻発していて、私も一度だけ犯人からTBSにかかってきた爆破予告電話を受けたことがあります。伝えられたパスワードを警察に確認したところ本物だとわかり、すぐさまカメラを持って現場に駆けつけたことを、恐怖と共に記憶しています。

その後、ロイター通信や日本テレビなとでカメラマンやプロデューサーとしての経験を積んだ後、フリーランスとなり、報道、スポーツなど多くの番組の制作に関わりました。同時に、長年メディアと関わってきた経験を活かして研究と教育に携わりたいと考え、英国の大学院で博士号を取得。妻の故郷にある九州大学で特別研究員を務めた後、2012年から立命館でメディア学を担当しています。

私の授業は、メディアがどのように情報を作っているのかを知り、メディアがもたらす情報をどう分析すべきかを考える、メディア学の入門編のようなものです。ここでしっかり知識とスキルを身につけることが、メディアリテラシーを高めることにつながります。

国際関係学を志す方へ

コガ-ブラウズ スコット

コガ-ブラウズ
スコット
国際関係学部 准教授

自分がどの専門分野に進みたいかがまだわからないという人もいるかもしれません。国際関係学部は、幅広く世の中について考え、社会のどんな分野でも必ず役立つ知識とスキルを身につけることができる学びの場です。既存の学問分野の枠を超えて、自分の好きなことを追求できる場でもあります。好奇心のある人、指示待ちではなく自発的に興味のあることに向かって進んでいける人なら、“flowering”な4年間を過ごせると思います。

「メディアリテラシー」に興味を持った方へ:BOOKS

Arnheim, Rudolph

Visual Thinking

University of California Press (1969)

Fiske, John

Television Culture

Methuen(1987)

Tufte, Edward R

Visual Explanations:
Images and Quantities, Evidence and Narrative

Graphics Press (1997)

「メディアリテラシー」に興味を持った方へ:MOVIES

映画

大統領の陰謀

1976年、アメリカ

映画

スポットライト 世紀のスクープ

2015年、アメリカ

映画

ネットワーク

1976年、アメリカ