先端科学技術とグローバル・ロー

ナノテクノロジー、AI、ロボット兵器。
科学技術のリスクを
国際社会はどう管理するか。

川村 仁子

川村 仁子国際関係学部 准教授

ナノテクノロジーとAIの
組み合わせが
人類に
新たな可能性とリスクを生む

「先端科学技術のリスク」とは、具体的にどのようなことでしょう?

川村先端科学技術には、AI、ロボット、宇宙技術などさまざまな分野がありますが、私が特に研究しているのは、ナノテクノロジー、1ミリの100万分の1という大変小さなサイズの技術の、開発とリスク管理についてです。

ナノテクノロジーといえば、化粧品や素材などによってすでに身近な存在となっていますが、近年はロボットやバイオテクノロジーと組み合わされるようになっていて、たとえば、ナノサイズのロボットが人の体に入り、がん細胞のあるところで薬を注入するといった技術の開発も進められています。これは人類に大きく貢献する技術である一方、一歩間違えると社会に大きなリスクを生む可能性もあります。ナノサイズのロボットはあまりにも小さいため、自己増殖作用、つまり自分自身で増えていくことによって薬をがん細胞に届ける作用を持たせる技術の開発なども行われています。それが空気中にもれてしまうなどして、予想外の場所で増殖して人間に被害を与えてしまうリスクはないでしょうか?

事が起きてしまってからでは取り返しがつきません。先端科学技術の開発は、必ず運用とリスクの管理と両立させなければならないのです。また、国家間の公平な利益の配分も考えなければなりません。国際的なの取り決めも必要ですが、それとは別に、実際に技術開発を担っている研究機関や民間企業自身も開発における自主規制のルールを設けています。私はそれらのルールを、国家以外の主体が作る法である「グローバル・ロー」ととらえ、国際的な先端科学技術の管理にどのように生かすことができるかをテーマに研究しています。

地球規模で社会と人間のあり方を
考える国際関係学の古典的なテーマ

国際関係学の中ではまったく新しいテーマなのでしょうか。

川村私は、政治思想や哲学が国際関係にどのような影響を与えるかを研究して「先端科学技術の開発とリスクの管理」というテーマにたどりつきました。これまでにない新しい法を作るためには、政治思想や哲学から原理原則を導く必要があります。人類の歴史の中で法がどのようにとらえられてきたのかや、人間の価値や尊厳などについても考えなければならないからです。

国家以外の主体が作ったルールを社会のルールとして機能させるためには、法を社会学的にとらえることも必要です。「先端科学技術の開発とリスクの管理」は、自然科学と社会科学を架橋するだけでなく、社会科学の中でもさまざまな分野にわたるテーマであり、これまでの積み重ねの上にあるテーマでもあると思います。

実際に、国際法の一つである宇宙法の分野では、宇宙空間における国家の責任をどう管理するかは以前から大きなテーマとなっていました。すでに配備されていると言われる、AIを搭載した自律型兵器の管理についても、すでに国連で活発な議論がされています。グローバル・ローの概念も中世の宗教法にさかのぼる長い歴史があることを考えると、「先端科学技術の開発とリスクの管理」というテーマは、地球規模で社会と人間の関係について考えるという意味で、国際関係学においては古典的なテーマといえるかもしれません。古代から蓄積されてきた叡智を私たちが生きていくこの21世紀に活かすことが重要なのです。

具体的な研究の内容を教えてください。

川村現在、ナノテクノロジー技術に関して規制が進んでいるEUでの法整備について資料を集めながら検討しています。自然科学と社会科学の両方で博士号を持つ先生をはじめ、さまざまな研究者にお話も聞いています。先端科学技術の中では、特に軍事的な技術と結びつきやすい宇宙技術やバイオテクノロジーの分野で法整備が進んでいるので、それらを参考にしながら、現状のルールを分析して課題を発見し、加えるべき項目についても検討しています。

現在、大きな課題となっているのが、自律性を持つAIの管理です。人間が命じていないことをAI自身が判断して行動した結果の責任は誰がとるのか、とても難しい問題です。人間とAIが共存する社会で今後どのようなことが起こるかは誰にもわかりません。しかし何かが起こってから対応するのではなく、可能な限り予見しながら最低限のルールを作って管理していくことが大切だと考えています。社会の中で、人間は科学技術と共に発展してきました。今後の社会の中で、人間がどのような形でさらに発展していけるのか、科学技術者をふくむさまざまな立場の方、さまざまな国の方と協議しながら研究を進めていきたいと考えています。

クリエイティブな発想で
自分の問題意識にアプローチする

先生の授業やゼミについて教えください。

川村古代ギリシア以来の政治哲学や政治思想がいかに現在の国際関係で機能しているかを、ルーツをたどるように見ていく授業です。たとえばデモクラシーという考え方も古代ギリシア発祥なのですが、それがどのような歴史を経て今の形になったか、現在の国際社会で散見されるポピュリズムがどうして台頭したかなどを考えています。ポピュリズムへの懸念は、デモクラシーが始まった2000年以上前、すでに存在していました。2000年前の人も私たちも同じ課題に直面しているのです。表に現れていることを見るだけではなく、それらが「どうして現れたのか」という本質を探る授業です。

グローバルガバナンスの授業も担当しています。国連の活動について行政学の視点からとらえるもので、国連職員の仕事、安全保障理事会の手続きの中身について具体的な情報を提供しています。また、グローバル・ローとも関係する非国家主体が中心となって行うトランスナショナルガバナンスについてもとりあげています。

私のゼミのテーマは「国際関係学×創造性」です。クリエイティブな発想で自分の問題意識にアブローチしようという学生が多くいます。たとえば、これまで、科学技術のグローバルガバナンスや、人工知能の発展による人間らしさの変化、「文化」や「女性」といったシンボルをいかに戦略的に活用していくかなど、幅広い分野に興味のある学生たちと知的にわくわくするディスカッションをしてきました。国際関係学部だからといって外務省や国際機関への就職を目指す学生ばかりではありません。日本と韓国の文化交流をテーマにしているYoutuberやフォトグラファーもいます。国際関係学の視点を持つ人材が、国内外でももっと活躍してほしいと思っています。

国際関係学を志す方へ
川村 仁子

川村 仁子国際関係学部 准教授

立命館大学国際関係学部では、関心のあるテーマを、さまざまな分野の視点から多角的に検討でき、希望すればそこから掘り下げて一つの分野を深く専門的に学ぶこともできます。国際経済学、国際社会学、国際政治学、国際金融論などを「教養」のレベルではなく専門的に学べるのは大きな強みです。先生方の専門分野も幅広く、私のようにずっと大学で研究をしてきた先生もいれば、国際機関や民間企業で実務を経験している先生もいて、出身国もさまざまです。学生の出身国、出身地、関心の対象もさまざまです。多様性という意味で他にない学部で、ここにいるだけで一般の日本人社会では経験できないことができる刺激的な学部だと思います。

「先端科学技術とグルーバル・ロー」に興味を持った方へ:BOOKS

ホイジンガ 著、堀越 孝一 訳

朝の影の中に

中央公論社(1975)

朝の影の中に

浦沢 直樹 著

PLUTO(全8巻)

小学館(2004〜)

PLUTO

シェリー・タークル 著、渡会 圭子 訳

つながっているのに孤独

ダイヤモンド社(2018)

つながっているのに孤独