コンピュ−タ利用の外国語教育

- CAIの動向と実践 -








監修者

北尾謙治






編集者

野澤和典  島谷 浩  山本雅代






英潮社







まえがき

コンピュ−タの進歩はめざましく、20世紀後半に最も進歩したものとも言われています。 コンピュ−タに関する昨日の情報は、今日はもう古いことも十分に有り得ることです。このよ うな状況で、コンピュ−タはより速く、より多くの情報を処理し、しかも、非常に小さく安価 になってきました。その結果、専門家以外にも、多くの研究者、教育者やビジネスマンがコン ピュ−タを仕事に利用するようになりました。コンピュ−タを持ち歩き、電車の中やバスを待 っている間に使用するような人も出てきました。10万円以下のコンピュ−タも出始め、価格 競争は激化してきましたので、今後は誰しもがコンピュ−タを種々の目的で購入し、利用する 時代になることが予想されます。 外国語教育の関係者の中にも、コンピュ−タを語学教育に利用して、効果を上げようと試み ている人が少なからずいます。また、何とか利用できないものかと考えている人や、利用する ように依頼されている人は、かなり多くいます。すでに多くの学校にコンピュ−タが設置され、 今後はすべての学校にコンピュ−タが必ず何台か設置され、それを利用した教育が行われます。 そんな中で、ますますコンピュ−タを語学教育に利用する可能性と必要性が高まっています。 そのようなコンピュ−タ不可欠の世の中で、コンピュ−タを使用することが避けられない状 況になった折りに、私どもは何ができるでしょうか。コンピュ−タは非常に強力な機械です。 しかし、機械そのものは何も自らはしてくれません。私たちが使わなければ働かないのです。 上手にコンピュ−タを利用すれば、非常に有効に語学教育ができるでしょう。しかし、間違っ て使用すれば、学習者に非常に大きな害を与える結果に終わることもありえます。 コンピュ−タの急激な発展に比べて、外国語CAIは非常に遅れています。それは、コンピ ュ−タを利用するには、それを動かすソフトが必要で、プログラミングの知識なしでは、自分 の思うように自由自在に利用することはできません。外国語CAIでも、これまでは自分でプ ログラミングができない人々には、利用が容易ではありませんでした。また、この分野でプロ グラミングのできる人々は今なお非常に少数です。しかし、少しずつではありますが、国内外 で語学教育に関係する市販や自由に利用できるソフトが増えてきましたので、多くの語学教育 者のニ−ズに合ったコンピュ−タの利用が可能になってきました。しかし、使用する人々は、 やはりコンピュ−タの長所や短所、コンピュ−タを利用したCAIのあり方、その教材のよさ などの知識が必要です。そして、多くの外国語教育者が、この種の広い知識を持たなければ、 よい外国語CAIのソフトや教材は作成されないでしょう。 現在コンピュ−タを利用して外国語教育をされている人々に、現時点でコンピュ−タを利用 して何ができるのか、どのようにすれば、さらに効果を上げることができるのかを見極め、よ り効果的な外国語教育をする方法を見いだしていただけるように、第4回外国語CAI研究大 会(1993年2月20・21日同志社大学田辺校舎)へ参加することを呼びかけました。多くの人々 の反響があり、40余りの講演、実演、研究発表やデモが行われ、260名の参加者が全国30以 上の都道府県から来られました。 この大会の発表をより多くの人々に利用していただくために、図書として出版することを当 初から計画し、野澤、島谷、山本編集者と英潮社の協力を得て、本書を作成しました。原稿は すべて、依頼ではなく応募方式を取りましたので、大会で発表されたものがすべて掲載されて いるわけではありません。掲載させていただいたものも、選考委員と編集者のコメントなどに 基づいて、修正していただき、さらに編集者により字句などの統一をし、読者の人々に読み易 く、理解し易い図書になるように努力していただきました。本書が外国語教育の改善に役立つ ことを願っております。 多くの人々に真に役立つ図書を出版することは、労力、金銭、時間的に非常に大変なことで す。幸い多くの人々のご理解があり、多くの原稿が集まり、大会から編集費も念出して、本書 ができ上がりました。また、多くの方々からのご寄付もいただきました。選考委員や編集者に は非常に多くの時間と労力をかけて、少しでもよい図書を出版できるように努力していただき ました。このように多くの人々のご理解と金銭、時間、労力などのご協力があり、本書ができ 上がりました。この機会にご協力くださった方々に心より感謝の意を表します。また、市販す るにあたり、企画の段階で快く引き受けていただいた、英潮社の土岐省三社長にも深く感謝し ています。氏の協力なくして、多くの人々に本書をお届けすることは不可能でした。 第4回外国語CAI研究大会と本書の出版に関しては、同志社大学、同志社大学商学部、同 志社大学情報処理共同研究費と同志社大学学術奨励共同研究費の直接・間接の援助があったこ とも記しておかなければなりません。付属のフロッピーには両共同研究の成果の一部である 『同志社大学の外国語CAI:その現状と課題』と1992年度に改良や開発したプログラムや 教材のサンプルも掲載しました。外国語CAIの研究と実施にあたり、参考にしていただけれ ば幸いです。  本書の作成に当たっては、内容にふさわしく、原稿はすべてフロッピ−・ディスクのテキス ト・ファイルで受け取り、それを基に編集作業をするという、この分野では比較的新しい方式 を採用しました。コンピュ−タの機種や使用のソフトの違い、執筆者の不慣れなどにより、統 一してあったフォ−マットも多少トラブルがありました。しかし、今までの作業よりは、より 能率的で合理的な編集作業ができたのではないかと思います。今後はパソコン通信なども利用 した、より合理的な出版作業が行われることでしょうが、このような新方式の作業をしたこと は、この分野の出版の歴史の1つの曲がり角になるのではないかとも思っています。読者の多 くの方々が、より創意工夫をして、より有意義な出版をされることも望みつつ筆を置くことに いたします。                           1993年3月                           京都にて                           北 尾 謙 治                            (教育学博士)
目次
まえがき                        北尾 謙治 i
第1章 CAIの解説 CAI/CAL/CALL/CALLLとは何か      野澤 和典 3   はじめに 3   CAI/CAL/CALLの定義 4 外国語CL/CALLLとは 5   外国語CALL/CALLLの教材環境 9 教師の役割 10 外国語CAI/CAL/CALL/CALLLの問題点と今後 11
第2章 実証的研究と実践報告 ハイパ−メディア教材における学習履歴の記録とその利用  尾関 修治 15   
はじめに 15   リ−ディングの過程の記録 16   ライティングの過程の記録 21   WritingPadの利用 24   おわりに 26
CALL評価基準:語用論的アプロ−チ   平良 辰夫 27  
はじめに 27   CALLと意志伝達(言語)能力 27   語用理論 28   語用論的CALL評価基準 30   社会的場面英会話学習システム 33   研究報告 35 おわりに 36
CAI用英語教材の開発とCAI授業:久留米工業大学の場合      山内ひさ子・徳永紀美子・井崎浩・吉住孝志 38
背 景 38   教材開発の方針 38   教材作成ソフト 39   教材の実行手順 40   教材ソフト 41   CAI授業実績 43   今後の方針 44   
CAI教材開発とCAI授業実施に関する提言 45
能動的なCALLをめざして   上村 隆一 49   
はじめに 49   導入の経過 49   CALLの実践 50 第1期 (1986〜1989)/第2期(1990〜現在)   CALLの方向づけについて 53  おわりに 56
英語CAIコンテストの実践   島谷 浩 59
はじめに 59 CAIコンテストの目的 59 CAIコンテストの準備 60  コンテスト用ソフトの選択/コンテスト会場と運営協力者の確保/コンテストのための予算獲得と宣伝/その他の準備 CAIコンテストの実施 62  英単語コンテストの概要/英文法コンテストの概要 CAIコンテストの特徴と実施上の問題点 65 おわりに 67
コンピュ−タ翻訳を使った英語学習  中林 眞佐男 69
はじめに 69 コンピュ−タ翻訳システム 70 英語の和訳と学習 71 1次翻訳/2次翻訳 英日機械翻訳システムに対するアンケ−ト結果 75 おわりに 76     
英日機械翻訳システムの実用性/今後の課題 スペイン語教育にパソコンを利用して   堀田 英夫 79
はじめに 79 プログラム 79  
1つの課の学習/パソコンでプログラムを起動する/デ−タの準備/パソコンを利用しての学習 パソコン利用の利点と問題点 86 プログラムの試用/スペイン語授業での利用/利点/問題点 結び 89
CAIの試み 徳永 晴樹 92
はじめに 92 CAI研究スタ−ト 92 CAIの共同研究 93 劇画を見ながら英語を読む 95 市販のソフトを使わせる 96
コンピュ−タに板書させる 97 CAIの展望 97 おわりに 98
学習者のCAI授業への評価   北尾 謙治 100
はじめに 100 履修者 101 授業形態と内容 101 アンケ−トの内容と実施 102 アンケ−ト結果 103 おわりに 113
第3章 CAIシステムの構築と紹介 CAIによる統合的英語学習システムの構築と実践 吉田信介・吉田晴世 116
はじめに 116 読解学習用ソフト 116 理論的背景/システム機能[表示方式・表示速度・正答率・ 事前・事後テスト]/学習効果 語彙学習用ソフト 120     理論的背景/システム機能/学習効果 制限英作文学習用ソフト 122     理論的背景/システム機能 統合的学習システム 124 おわりに 125
TELP−CAIシステムの開発と実践  志村 義樹 127
開発の経緯 127 開発の思想 127 コ−スウェアの確立[誤答検索プログラム・レファレンス機能]/コンピュ−タと音声装置の連動:カセットテ−プからCDへ/独自のオ−サリング・システム/CMIシステムの開発[CMIシステムの機能・CMIによる学習評価・CMI集計システム]  TELP−CAIの実践 133 授業でのTELP−CAI/教材ソフトの実例/授業での成果:TELP−CAI学習に関するアンケ−ト  まとめ 137
外国語学習に必要な情報とハイパ−メディア  杉浦 正利 139   
ハイパ−メディア 139  ハイパ−メディアによるリ−ディング教材:HyperLibrary 140  読むという行為に伴うもの/学習者の興味の重視:キ−ワ−ドの利用/学習者が必要とする情報の提供/HyperLibraryの構成/教材の用意  ハイパ−メディアによるリスニング教材:HyperDictation 144  HyperDictationの構成/CDの利用/音声情報と発音記号/カセットテ−プの欠点/音の出る発音Book おわりに 147  
クロ−ズド・キャプションを活用した英語CAIシステム    井出清・奈良浩 150
本システムの概要と目的 150 必要なハ−ドウェア 150 必要なソフトウェア 152 実際の授業 153 事前準備[授業で見せるビデオの編集・デ−タ・ファイルの編集]/ 授業の手順[前時の復習・新出単語のチェック・日本語字幕つきの場面 の視聴・英語字幕(キャプション)つきの場面の視聴・字幕なしの場面 の視聴・聴解テスト・事後指導]/授業後のデ−タ分析 実践の結果と問題点 155 生徒の反応/今後の課題[キ−ボ−ドの習熟の問題・教材の是非の問題 ・ ビデオの編集の問題・ソフトウェアの問題・ハ−ドウェアの問題・英 ・ 語の学力の伸長の問題]    
ネットワ−ク化された自学自習用CALLシステム     野澤 和典 158
はじめに 158 CALLシステム導入の主目的 158  自学自習用CALLシステムの構成 159 コ−スウェア/ソフトウェア 161   自学自習CALLシステム利用の利点と欠点 163  利用状況と今後の課題 164 CALLL/CALLラボラトリ−構想 165 おわりに 165
第4章 自作CAIプログラムや教材の開発 対話シミュレ−ション型英語CAIコ−スウェアの開発と評価 北出 亮 169
はじめに 169 ゲ−ム・シミュレ−ションの定義 170 コ−スウェアの特徴(機能) 170  評価機能[辞書機能・時間制限・解答数]/学習機能[事前学習・解答・解説機能] コ−スウェアの手順 172 [コ−スウェアと機能の説明・ゲ−ム選択・事前学習の選択・ゲ−ム・評価]  コ−スウェアの評価 174 事前・事後テストの結果/アンケ−ト調査の結果  おわりに 180
ハイパ−メディアを利用した外国語学習者用電話会話シミュレ−ション 古賀 友也 182
はじめに 182 ソフトの開発 182 電話会話とCAI 183 日本語電話会話シミュレ−ション「李さんの電話」 184 今後のシステム展望 187
CAIによるリスニングとスピ−キング 根間弘悔・加藤克己 188
はじめに 188 システムの作成 188 セクションの内容 190  導入部としてのセクション/発音のセクション/個々の単語の発音のセクション/短い対話文のセクション/短い文のセクション /ディクテ−ションのセクション  今後の課題 194
クイズのデ−タベ−スを教材とするQuizMaster  フランシス ブリット 197
はじめに 197 QMの操作 198 CAIソフトとしてのQM 201 おわりに 202
中級日本語教育のための検索プログラムの利用法     小森 早江子 204
はじめに 204 帰納的な語法指導 204 自作検索プログラムJ-HOLMESを使った教材作り 205 授業例 207 検索プログラムのもう1つの利用法 209 問題点 209 おわりに 211
第5章 外国語CAIの動向 『第4回外国語CAI研究大会』に参加して  山本 雅代 215
アメリカにおけるCALLの動向 - 第27回TESOL国際大会に参加して -   北尾 謙治 220
はじめに 220 CALL研究部会 220 アトランタ国際大会でのCALLの動向 221  研究発表/CALLホスピタリティ・ル−ム/ソフトの展示/その他のコンピュ−タ利用 おわりに 227
第6章 市販教材や図書の紹介 書評:『はじめてのCAI:よりよい英語教育を求めて』   さいとう みのる 230
はじめに 230   本書の背景 230   本書の特色 231   おわりに 233
膨大な学習量を誇る文法と語彙練習のCAI教材    北尾 S.キャスリ−ン 235
Parlance のCAI教材とは 235 Parlance Grammar 235 Parlance Vocabulary 236 利用方法 237 購入方法 238 CAI英文法『グラマ−マスタ−』の開発  太田成俊・島谷浩 239
ユニコムのCAIの紹介  吉田 典吉 244
英検対策システム『AniVox』:音声波形表示による発音訓練ソフト 横渡将治・白玉貴之 248
第7章 付属フロッピ−・ディスクの説明 北尾謙治・野澤和典 253
付属フロッピ−・ディスクの内容 プログラムの説明 教材の説明 プログラムの起動と教材の利用方法 その他の付属フロッピ−・ディスクに収録されたもの  
学習者のCAI授業への評価:アンケ−トとその結果 北尾 謙治  
同志社大学CAI受講学生の声   
CAI英作文クラス     
CAI英作文のクラスを受講して         兼松 知子     
CAI英作文のクラスを終えて          木村 佳子     
CAI英作文授業を受けた感想          上原 純治   
CAI講読クラス     
CAI講読クラスについて            藤井 康栄     
CAI講読クラスを受講して           池内 宏枝     
英語講読CAIを受講して            蟹江 真子     
CAI英語講読クラスを履修して         黒木 由美子     
CAI講読クラスを受講して           竹村 明子  
英語講読CAIを受講して            山本 陽子  
CAIクラスを受講して             渡邊 浩司  
第4回外国語CAI研究大会のプログラムのハンドブック   
ごあいさつ        鈴木潔・岩山太次郎・斉藤尚久・釜池進   目次   大会に関する諸注意   プログラム   発表要旨 (平成5年2月20日)   発表要旨 (平成5年2月21日)   お楽しみ抽選会   図書の案内   講演者/研究発表者/協賛団体/大会役員   ごあいさつ   北尾 謙治  同志社大学の外国語CAI:その現状と課題  CAI研究会(橋本兼一・石原堅司・木原太源・北尾謙治・ 松井進平・三ツ木道夫・鈴木潔・立林良一・山内信幸)   組織 山内 信幸  外国語CAIに必要な施設  北尾 謙治   CAIのための機器   鈴木 潔   市販CAIソフト・ウエアについて  三ツ木 道夫   プログラム・教材   橋本 兼一   CAI教室とコンピュ−タの外国語教育における利用形態   北尾 謙治   外国語CAI授業担当者と補助者  松井 進平   教務課及び情報システム課に関すること  石原 堅司   ドイツ語のCAI   鈴木潔・橋本兼一   スペイン語CAIをはじめるにあたって 木原 太源
第8章 外国語CAI関係資料  
CAIの研究資料 263  CAIの有益な情報 野澤 和典 265  CAI用語集  野澤 和典 281 執筆者紹介 317 寄付者芳名一覧 324 編集後記   325


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