オ−ストラリア滞在記:オ−ジ−気質から学ぶ

野澤 和典(豊橋技術科学大学)

平成6年6月12日から平成7年4月8日までの約10ケ月間在外研究にてオ−ストラリアのクイ−ンズランド州ゴ−ルドコ−ストにある豪州最初の私立大学のボンド大学に滞在した。筆者にとっては初めての豪州滞在であり、長期滞在経験のある米国とは一味違った様々な経験ができた。その中でオ−ジ−(Aussie/OZ)たちの気質について、限られた交流体験を通して感じたことではあるが、その一部を報告する。

まず一番身近にいた大学関係者の中で、教師たちの教育・研究への取り組み方に改めて関心させられた。日本のように終身雇用制、年功序列社会ではない契約社会で働く関係で、その評価が定期的にチェックされ、地位が不安定であることも事実だが、大変熱心なプロばかりである。税金が高く、実質的な収入が良くないにも拘わらずである。その背景には、プロとしての誇りと熱意が感じられる。もちろん、筆者が滞在したボンド大学は私立であり、博士号を取得した教師陣の比率が高く、公立大学の2学期制と違って年3学期制を採用し、 質の高い少数の学生に密度の濃い教育をしながら一方で1学期は研究に専念できる体制にいられることも大きな要因であると思われる。

次に、筆者が様々な機会に出会った一般の人々であるが、彼らの多くは基本的に良く働く。失業率が約10%とやや高いことも影響してか、肉体労働を中心とした職業での競争率が高いことがあるのかも知れない。しかし一方で、イ−ジ−・ゴ−イング(easy-going)で、日本のような極め細かいサ−ビス精神をあまり持っていないと感じたことも何回かあった。例えば、昼食にイタリアンでもと思い、一度食べて美味しかった近くのレストランに出かけたら、開いてはいるものの、誰もいない。中に入って大きな声で呼んでも誰からも返事はなかった。仕方無しに他で食事をしたが、ビジネスをどう考えているのだろうとその精神を疑った。値段も手頃で美味しいから客は来るのである。しかし、お客を失うサ−ビス体制なのである。もちろん、この状況はたまたま生じた結果かも知れない。また、ある雑貨類のス−パ−でヒ−タ−を購入した。誇りを持つべきオ−ストラリアン製で値段も手頃であったので購入して1ケ月半ほど使用した後壊れてしまった。すぐに購入元へ持参すると、交換できるがすでに品物の在庫はないので返金するという。使って得をしたものの、修理をして対応することなどせず、交換か返金をすればよいというサ−ビス体制は、信頼を失うビジネス・スタイルではないだろうか。そこで二度と電気製品を購入することはなかった。

連合王国からの伝統を継承し、大半が海岸部に居住し、気候にも恵まれているオ−ストラリアでは、マリ−ン・スポ−ツも含めた様々なスポ−ツが盛んである。保養地として有名なリゾ−トのゴ−ルドコ−ストは年中温暖な所であり、サ−フィンやクル−ジング、水泳などの野外スポ−ツに親しめる。そのための体力作りに勤しむオ−ジ−たちの取り組み方は異常なくらいである。ジムやプ−ルの設備や競技場は整っていて格安に利用できるばかりでなく、カリキュラムが充実していて、子供の頃から自然と体力増強の重要性が精神文化にしみわたっている。朝夕のジョッギングや散歩、サイクリングはよく見かける風景である。テレビ番組の一つ「マン・オ−・マン(Man o Man)」という100人の女性が幾つかの段階を経て10人の中からベストの男性を選ぶものは、その個性と同時に鍛えられた肉体美も大きな決定要因であった。心身共に健康であることの重要性が求められている一方、食文化が豊かな社会であって健康作りが普段の行為であるにしても、異常なくらいのスポ −ツ熱である。様々なスポ−ツのテレビやラジオの放送時間が多いことからもうなずける。

This article appeared in the Language Center Newsletter, Toyohashi University of Technology, No. 14, March 1995, p. 9.


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