異文化コミュニケ−ション授業'99から

野澤和典(立命館大学)

nozawa@ec.ritsumei.ac.jp

 1999年度後期に週1回だけではあったが、副専攻科目の一つとして異文化コミュニ−ケ−ション・クラスを担当する機会を得たので、その学習内容を報告すると共に、問題点を考察してみることにしようと思う。現時点で副専攻科目を履修する学生たちの所属は経済学部及び経営学部の2回生以上で、卒業必要単位の12単位を1年半(3セメスタ−)ですでに修得し、さらに16単位分の外国語(英語、独語、仏語、西語、中国語)関連科目を履修できる制度の中にいる学生たちである。その中の21名(最終的には18名)登録した学生たちが筆者のクラスを受講することとなった。ほとんどの講義やE-mailレポ−トの提出は英語で行い、使用した資料(ハンドアウトやファイル)やビデオ・プログラムも英語のものばかりであったが、担当したクラス所属の学生たちは、いずれもある程度の英語力のある(TOEFL-ITPで500以上)、しかも半数弱が海外留学あるいは旅行経験のある学生たちであったので、講義や演習はほとんど問題なく進めることができた。その主たる目的は、異文化コミュニケ−ションの基礎を概観した後、異文化不適応やカルチャアショックという分野に焦点を当てながら、彼(彼女)らの異文化理解(適応)力及び英語力のさらなる向上を目指すというものである。
 1セメスタ−(授業回数13回分)程度で週1回(90分)の授業計画では、十分な講義もままならず、消化不良も予想されたので、かなり焦点を絞った内容となった。しかも、台風の影響での全学休講で1回分、講演のため1コマ休講せざるを得なく、実質10回分の授業と1回のプレゼンテ−ションという結果となってしまったのが残念であった。
 第一講においては、異文化適応診断テストや文化的・民族的アイデンテイテイが測定できるテストをしてもらい、その結果を討議したと共に、自文化と影響を与えてきた異文化を図式化することで学生たち自身を理解する試みが行われた。また、文化及び異文化という概念・定義などについて参考書として示した八代京子ほか(1998)『異文化トレ−ニング - ボ−ダレス社会を生きる』を利用して講義した。
 第二講では、Irving (1984). Communicating in context: Intercultural communication skills for ESL students, Prentice Hallから抜粋したLearning another language and cultureの中のThe Link between Communication and Culture, Communicating Interculturally, Learning to Survive in a New Culture, Practicing Intercultural Communication, Cross-Cultural Analysisを読みながら、関連する演習(主としてペアあるいは小グル−プ作業)と全体討議をした。
 第三講では、予定されたVerbal Communicationをスキップし、異文化理解にはより重要なNonverbal Communicationをカバ−したが、Levine & Adelman (1982). Beyond language: Intercultural communication for English as a foreign language, Prentice Hall Regentsの第3章を利用し、概説した。さらに、NHK (1989).トライ・トライ番組「身ぶり・手ぶりでものを言う」25分を視聴してもらい、非言語コミュニケ−ション能力の重要性を認識してもらった。非言語コミュニケ−ションだけでも年間講義できる内容があり、面白い分野である。
 第四講では、Values and attitudesについて、Hinds & Iwasaki (1995). Introduction to intecultural communication, Nan'un-doから引用し、それぞれについて考察した。異文化人間となるためには文化相互主義に基づく平等の立場で相手の価値観や態度にできる限り柔軟に対応しなければならないことを理解してもらう必要があるからである。
 第五講では、Different cultures and how to behaveという設定であったが、まずGenzel & Cummings (1986). Culturally speaking: A coversation and culture text for learners of English, Harper & Row Publishersの中の第2章を引用し、アメリカン・スク−ルとル−ルについて学んでもらい、日本との比較をペアワ−クで討議して、ワ−プロを用いて英語でまとめてもらったり、個々にクイズに答えてもらい、解答結果を分析したりした。
 第六講義から第九講までは、When cultures meet face to face: Intercultural experience (1986), Penfield Associatesというビデオの4つのトピック(American Professor vs. International Student, Making friends, Dealing with staff, On-the-job)をそれぞれ2回ずつ視聴してもらい、
(1)どういう問題が生じているか、
(2)ペアワ−クでお互いに意見の類似点や相違点はないか、
(3)各人が同じような体験をしていないか。したとしたら、どのように問題解決をしたのか、
(4)どのような文化的前提や期待がビデオで出場する人物たちの行動に影響しているのか、
(5)ベストな問題解決策は何か、
などを討議し、ワ−プロを用い英語でまとめてもらった。
 第十講は、最終日に組まれている英語でのオ−ラル・プレゼンテ−ションをするためのソフトウエアのMS-PowerPointとそのサンプルを使用して各自のトピックに合わせたファイルを作成する指導を行った。
 2回ほど休講せざるを得なかった状況から、最終日にだけにしかオ−ラルプレゼンテ−ションを設定できなかった関係で、全員にやってもらうには無理があったが、他の日を設けることもできなく強行した。それぞれ4〜5分を目安に、プレゼンテ−ションをして、Web上で評価できるシステムを用い、Peer-to-peer gradingを実施した。講義終了時間を過ぎ、都合により途中で退出した者も出たが、半数以上がその後40分ほど超過して、プレセンテ−ションとその評価に参加してくれた。このプレゼンテ−ションの様子はデジタルビデオで録画され、筆者の今後の日本人英語学習者コ−パス(音声デ−タ)構築に利用させてもらうことになっている。
 総合的な評価は、出席度(20%)、宿題(30%)、学生同士のプレゼンテ−ション評価結果(30%)、MS-PowerPoint Fileの内容と質(20%)を合計したものであったが、14名が「優」、3名が「良」、1名が「不可」という結果となった。学生たちのレベルからすると当然のものとも言える。
 2000年度後期にも同じような内容で再度異文化コミュニケ−ションを教える予定であるが、さらに充実させ、実施するつもりである。同じような授業実践をしていらっしゃる方がいれば、情報交換をしたいと思う。履修する学生たちが、少しでも自文化や異文化コミュニケ−ションの重要性を(再)認識し、それぞれのレベルで異文化適応能力の向上ができることを願ってやまない。  


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