今、「平和」はどうとらえられているか?           安齋 育郎


 「平和」は、単に「戦争のない状態」を意味するのではないと考えられています。「戦争のない状態」という意味での平和は、時に「消極的平和」と呼ばれます。こんにちでは、「平和」の概念はもっと広くとらえられ、「構造的暴力のない状態」を「積極的平和」と位置づけるようになっています。では、いったい、「構造的暴力」とは何でしょうか。
 
 ノルウェー出身の平和研究者であるヨハン・ガルトゥング博士は、人間の能力が全面的に開花するのをさまたげている原因を「暴力」と呼び、それが、社会のありように根ざしている場合には、「構造的暴力」と呼びました。今日の平和学では、戦争のような「直接的暴力のない状態」だけでなく、「構造的暴力のない状態」を創ることも重要な課題として位置づけられるようになっています。
 
 戦争は、幼い命を含めて多くの人々の命を奪う最も荒々しい「直接的暴力」であり、そのような状態が「平和」でないことは明白ですが、たとえ弾丸が目の前を飛ぶことがなくとも、飢餓・貧困・社会的差別・不公正・環境破壊・差別・教育や医療政策の遅れなどによって人間の能力の開花が妨げられるならば、一人一人が豊かに自己実現を遂げることができません。現在では、多くの平和研究者が、このような「自己実現が妨げられている状態」は「平和ではない」と考えるようになってきており、現代平和学は、「直接的暴力」だけでなく、「構造的暴力」のない社会を実現するための実践的な研究だと考えています。


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