学部長からのメッセージ
学部長からのメッセージ

ご卒業、おめでとうございます。
皆さんの船出に心よりお祝いを申し上げます。
今年、立命館大学は、新型コロナウイルス感染症の感染状況に鑑み、卒業式・学位授与式、学部別並びにゼミ別授与式の開催を中止することといたしました。

皆さんは、この学位授与に向かって学業に励んでこられました。この人生の大きな節目である 卒業の喜びを、一緒に頑張り歩んできた友と分かち合いたかったことと思います。また皆さんを慕っ てきた後輩より祝福を受けられ、また、彼らのこれからの歩みにエールを送りたかったことでしょ う。私たち教職員も、皆さんの学びと成長を心より祝福する場としての、卒業式・学位授与式を中止 せざるを得なかったことが、皆さんの安全を守るためとはいえ、たいへん残念でなりません。

現在のグローバル化の波は、あらゆる出来事を瞬く間に世界規模で拡大させていきます。今から100年前、世界は戦争がもたらした悲劇を悔やみ、平和を追求すべく、法の支配の下、国際社会を統括す る国際連盟を設立して、国際秩序を構築しようとしました。そうした国際秩序構築の営みは、幾多の 困難を乗り越えながら、平和を願う世界の人々の手によって現在に受け継がれてきました。そうした 一方、今、自国ファースト、ナショナリズムが世界各地で台頭し始め、国際秩序そのものが大きく変 化しようとしています。こうした流れは、国の社会的、経済的孤立化を生み出していきます。そして こうした社会的意識は、個人の「孤立化」も創出していきます。世界が、非常に不安定な状況にあ り、混沌とした世の中において、どのように歩み進んでいくか、こうした「孤立化」の状況の中では 答えを導き出すことが困難に思えてきます。
このような世の中では、どうしても目の前の情報に飛びつきたくなります。自らの考えや気持ちに寄り添う情報だけを選択して表現し又は行動したくなります。しかしながら、こうした混沌とした状況であるからこそ、物事を俯瞰するために一度立ち止まり、あらゆる情報を検討していくことができる適切な時間的感覚を見失わないでください。

法学部の教員は、皆さんがこれから社会という荒海に漕ぎ出していくための術を身に付けていただくために、自らの学問を社会との関連の中でお伝えし、また、皆さんと共に研究してきました。「蓋然性」「因果関係」「歴史的視座」「批判的な思考」といった言葉はすべて、物事を目の前の情報だけで判断するのではなく、時間をかけ時間軸を意識しながら答えを導き出していくための思考方法です。法学の学びは、単に学術的な概念を身に付ければいいというものではありません。あらゆる情報を収集し検討し行動していくための答えを導きだすことができるという、本当の意味での「知識」を私たち法学部教員は伝授しようと努めてきました。法学部で学び、そして身に着けた法的思考力・論理力、バランス感覚そしてコミュニケーション力は、世界に共通する、様々な世界で活躍するためには不可欠な力です。
これを武器にこの不安定で混沌とした社会の中で、誤った情報に惑わされることなく自分の進むべき道の指針を導き出していってください。こんな時代だからこそ、法学部で学んだ術を大いに活用して、どうか皆さん、恐れず、ひるまず、前向きにチャレンジしてください。
また道に迷いそうになった時には、立命館大学法学部・法学部同窓会という港に遠慮なく立ち寄ってみてください。皆さんがこれから進むべき航路のきっかけをつかむことができるはずです。

新型コロナウイルス感染症の感染状況が収束した時期には、卒業生の皆さんと関係者が集う場を設定したいと思っております。
法学部の教職員一同、いつまでも皆さんを応援して見守っております。皆さんの無事の航海をお祈りしております。

2020年3月
立命館大学法学部長
德川 信治