立命館大学 法科大学院 法務研究科 法曹養成専攻

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教育の特色

1リーガルクリニック

松本 克己 教授

司法の現場と学問をつなぐ

法律家は、人と深く関わる仕事です。実務家になったときに役立つのは、自分で苦労して考え、実行し、ときには失敗した経験です。修習生になれば実務修習がありますが、それさえ一人の人とじっくりと関わったり、一つの事件を時間をかけてじっくり掘り下げて考える機会は少なく、事件の表面をみただけで終わってしまうことが少なくありません。そこで、法学教育のできるだけ早い段階から、一人の相談者あるいは一つの事件について、実務家の援助を受けながら、じっくり考える機会を持つことは重要です。それがリーガルクリニックであり、従来の実務修習にはない経験を積むことができる場です。

このクリニックでは、当事者の抱えている問題を整理し、その意思を尊重しつつ、どのような解決方法が望ましいのかを検討することになりますが、これは学んだ法的知識を事案に即して的確にあてはめ、かつ当事者の意思を尊重して、解決策を探っていく作業であり、適切な法的解決の訓練となります。それだけでなく、現行の司法制度や実務の不備や問題点も明らかになり、それを突破していく方法を深く掘り下げて考えていく機会にもなります。法律家にとっては見慣れた多くの事件の一つであっても、当事者にとっては唯一つの大きな事件であることが普通です。法律家のアドバイスがときには当事者の人生に少なからぬ影響を与えることを自覚し、真剣に取り組んでくれることを、期待します。

リーガルクリニックⅠ

法律相談は、相談依頼者と相談者が対面して行うのが通常です。相談の秘密を守るだけでなく、相談資料を確認し、解決内容を説明するには、対面して相談依頼者の様子を見ながら行うことになります。そのため夏期集中で実施する場合には、クリニックを担当する教員と受講する院生は、全員が舞鶴市まで出張しています。後期に朱雀キャンパスで実施するときは、相談依頼者が会場であるキャンパスまで足を運んでいます。

立命館大学法科大学院は、弁護士などの法律家の少ない京都府北部地域にある舞鶴市との協定によって、夏期の法律相談を同市で実施しています。地方自治体は市民への法的支援の幅を広げることができ、法科大学院にとってはクリニックの機会を充実させることができます。こうした方式のクリニックは、全国的にもめずらしいもので、弁護士過疎地域に対する新たな法的支援のあり方としても注目を集めています。

リーガルクリニックⅡ(女性と人権)

「女性と人権」というタイトルをみて不思議に思いませんか。「男性と人権」とは言わないのに、「女性と人権」と言ってことさらに法学教育のテーマにするのは何故だろうと。それは、もともと男性だけが「人権」の主体とされ、多くの事項が男性を基準に考えられてきたために、社会事象においても、法の解釈適用においても、女性であるが故に侵害され無視されてきた人権があるからです。わざわざ「女性と人権」といわねばならない程、人権が守られていないのです。

例えばDVをみてみましょう。被害者の圧倒的多数は女性であり、暴力の内容も、身体的暴行だけでなく、心理的・経済的・性的暴力等が非常に多く見られます。暴力のベクトルは、確実に男性から女性に向けられています。ところが、長年「家庭内のこと」「夫婦げんか」として矮小化してきたのが、法律家を含む社会の大勢でした。ずっと暴力を受けてきた中で被害者は、自信を喪失し、自己評価が下がり、判断力も決断力もなくしています。ところが、その状態を捉えて、今度は、被害者にも悪いところがあったと責任転嫁が始まるのです。被害者は、法的な権利を回復するだけでなく、生きる力を回復しなければなりません。力を振り絞ってようやく相談した法律家に「あなたも悪い」と言われれば、被害者は二度と法律家を信頼せず、回復が大幅に遅れてしまいます。法律家は心理学やカウンセリングのプロではありませんが、当事者の気持ちや行動について十分に学び、謙虚に当事者の話に耳を傾ける必要があります。二次被害を与えることなく、当事者に信頼される法律家になるために、自己の限界をわきまえつつ、視野を広め、学問を深めて下さい。まずは、当事者と同じ目線で物事を見たり考えたりすることを意識して学んでほしいと思います。

リーガルクリニックの実施

実施プロセス

取り扱う案件

刑事事件、また民事であっても係争中の案件を除く、相続・破産・離婚・相隣・交通事故・労働問題等を対象として法律相談を実施します。

具体的には以下のような案件を取り扱いしました。

[リーガルクリニックⅠ]
相続・契約・労働・土地・借地借家・賃貸借・相隣・交通事故・医療事故・成年後見・マルチ商法・著作権・損害賠償請求等
[リーガルクリニックⅡ]
離婚・DV・ハラスメント・雇用差別・婚姻費用の分担・慰謝料請求・相続等