卒業生からのメッセージ

文学部での学びが社会でどのように活かされているかを、卒業生からのメッセージを通じて紹介します。

2019

マスコミ

業界誌編集者として基盤となった文学部での学び

学際プログラム 2010年卒業

株式会社 髪書房 書籍編集部 編集者・ライター

関西の芸術・文化に興味を持ち、立命館大学文学部へ

私は福岡県出身なのですが、昔から、宝塚歌劇団や関西のお笑いが大好きでよく見ていました。将来的には言葉や文化を扱う職に就きたいと思うようになり、人文学的知識と芸術・文化が学べる立命館大学文学部の学際プログラム(学際プログラムは募集停止。一部教学内容を変更し、現・文化芸術専攻に継承)へ進学しました。入学してみて驚いたのですが、先生方はみんな良い意味でクレイジー。自分の知に対して貪欲な人が多かったです。先生がフィールドワーク先でマラリアに罹り休講になったり、仏教美術をガンダムと絡めて解説する先生がいたりと刺激的な経験をさせてもらいました。また、スタンダールというフランスの小説家の原文を読みたくて、副専攻でフランス語をみっちり学べたこともいい経験です。

編集者・ライターとしての基盤となったゼミと卒業論文

私は3・4回生の時、宮本直美先生のゼミ(現・専門演習)に所属したのですが、宮本先生には感謝しかありません。特に私はテーマを緻密に見つめ、それを検証し説明するというアプローチが非常に苦手でした。その状態から、今読めば破り捨てたくなるような稚拙な論文ではありますが、よくぞきちんと人文学論文の体につくりあげてくださったなと……。あの経験がなければ、私は自分の書いた文章が世に放たれることの畏れを持たぬままにこの仕事に就き、消費されるだけのライター・編集者になってしまっていたと思います。

具体的な卒業論文のテーマは、「舞台装置とジェンダー」です。歌舞伎や宝塚歌劇団といった、基本的に同性のみで構成される演劇に興味を持ちました。それぞれ舞台上で演者自身の性別と異なる性別を演じることに着目されるジャンルですが、それを支えるのは演者自身の同一性を演じる役者の“男性性/女性性”のさらなる掘り下げという面もあり、そのバランスで現実と近いようで遠い仮想ジェンダーが構築されています。それらは所作などの型に体系化されてきたこと、仮想の性を演じることと脚本や物語世界との関連を分析して論じました。

また、ゼミでは、音楽や演劇、サブカルチャーなどの「1つのコンテンツ」をゼミ生それぞれが考察していったのですが、隣の人が自分とはまったく違った想いを持って見ていることは楽しく鮮やかな発見でした。そしてそれらを、宮本先生がどんなに小さな発見や思考でも帰納法的に導いてくださるプロセスを体感できたことで、人文学的なモノの見方が会得できたように思っています。

卒業論文とゼミを通して、本来隣の人は自分とまったく違うモノの見方をするという視点を獲得できました。これは、編集者・ライターとして重要なスキルです。現在、耳障りが良いだけで扇動的な表現が増えていると感じています。しっかりとエビデンスを確認することの重要さを実感しています。特に日本語は主語がなくても成立するような曖昧な言語です。言葉や文化に携わる人間として、責任を持って発信する力を養っていただいたゼミでの授業は、私にとって貴重な2年間でした。

考え抜いたそのとき最も正しい情報・責任あるオピニオンが求められる「業界誌」

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就職活動では、出版社を志望していたのですがご縁がありませんでした。そのため、将来的には出版社で働くことを意識した上で、情報・人・お金が集まるところで経験を積みたいと思い、某放送局に入社しました。入社後は営業部に配属され大分県に赴任しました。大分放送局は人数も少なく、選挙速報、災害報道、イベントの司会など、様々な経験をさせていただきました。入社して2年半が経った頃、出版社への転職活動を始めました。こだわりやカルチャーを生み出せるような仕事がしたいと思い、業界誌に絞っていき、現職の株式会社髪書房に転職しました。

現在の仕事内容は、美容師向け書籍の制作・販売です。カットやヘアカラーなどの具体的な美容技術書を始め、それらの基盤となる毛髪科学書、接客コミュニケーション、美容室経営や人材教育といった、美容室の中で起こるすべての「困った」や「知りたい」を解決するための専門書をつくります。著者となりうる人材を探したり、読者ニーズを探ったりする市場調査や企画売込対応による「人材発掘」、それらをどのようにまとめるかを考える「企画立案」、具体的なページ制作や原稿執筆を行う「編集」まで基本的にすべて行います。

販売部数が重要な一般誌でもなければ、アクセス数が重要なWebメディアでもない専門誌だからこそ、エビデンスに基づいて考え抜いた情報発信が求められる部分に、責任とやりがいを感じています。

これから挑戦したいこと

「今売れるもの」だけに囚われず、後生に継ぐべき技術や哲学・美容史を着実に紙で遺せる会社でありたいので、逆説的に紙媒体の売り上げに頼らない収益構造にしていきたいという想いがあります。そのために、他メディアでの発信やコミュニティづくりなどにも尽力しています。

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