教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

時には世の中さえも動かしてしまう——。 そんな文学と文化の不思議な力を探る。

日本文学専攻

日本文学研究学域
教授

内藤 由直

文学、文化という言葉には、どこか繊細でナイーブな響きがあります。また文学を、現実とは無関係の空想と考える人もいるでしょう。でも過去の文学作品や日本文化を探っていくと、実は文学や文化が現実世界と密接につながり、良い意味でも悪い意味でも、世の中を動かす大きな力になったことが分かります。

例えば今から100年ほど前、小林多喜二が書いた「蟹工船」は劣悪な環境で酷使される労働者の窮状を社会に訴え、やがて演劇や美術、音楽など文化芸術活動にも影響を与え、待遇改善を求める大衆運動へと発展しました。一方で昭和10年代には火野葦平の「麦と兵隊」をはじめ戦意高揚の戦争文学が多数つくられ、人びとを戦争へと駆り立てます。文学や文化のどこに、そんなパワーがあるのか。なぜ多くの人を引きつけ、心を動かされるのか。

近代日本の文学作品や文化芸術活動を題材に、それを明らかにするのが私の研究テーマです。

戦前・戦時下の本・雑誌 (左から)『文学界』1942年10月号(特集「文化綜合会議 近代の超克」)、小林多喜二『蟹工船』戦旗社 1929年、火野葦平『麥と兵隊』改造社 1938年、日本左翼文藝家総聯合編『戦争に対する戦争──アンチ・ミリタリズム小説集──』南宋書院 1928年

授業やゼミでは、学生たちが固定観念や思い込みにとらわれず、広い視野を持ち、物事を柔軟に考える力を身に付けられるように指導しています。 例えば研究室のゼミでは、近現代の日本の文学または文化に関することであれば、学生自身が自分の興味関心にそって自由に卒論のテーマを選ぶことができます。過去には、谷崎潤一郎からJ-POP、アニメ、スポーツ、ダンスまで、さまざまなテーマが取り上げられました。

日本の文化といえば、みなさんは歌舞伎や和食を思い浮かべるでしょう。でもそれはほんの一部で、日本文化は私たちの想像を超えて多種多様です。でもそこに固定化された考えや枠をかぶせてしまうと、本当の姿は見えなくなる。大切なのは既成の考えや枠組みに批判の目を向け、いったんそれらを取り払って考えること——。 そこで学んだ広い視野と柔軟な思考力は、社会の幅広い分野で必要とされる本質を見極める力や課題解決の力を育てることにもつながります。

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ZOOMを用いたWEB授業風景(専門演習/3回生ゼミ)

授業やゼミには、日本の芸術文化に触れてみたいという理由で海外からきた留学生も参加しています。日本人学生にとっては、異なる文化や価値観に触れるまたとない機会。互いに率直な意見をぶつけあい、そこで新たな発見に出会うという相乗効果が生まれています。

また留学生の中には、コロナ禍でやむをえず一時帰国した人が何人もいます。日本人学生の中にも、さまざまな事情や考えから授業に参加できないという人も少なくありません。そこで、インターネットのリモート会議機能(ZOOMなど)を利用して授業を生中継する取り組みをスタート。 新型コロナの影響が長引く中で、より多くの学生に学ぶ機会を届ける環境を整えています。

さらに文学研究、文化研究では、文献や資料が膨大で多岐にわたるため、必要な情報に素早く適切にアクセスするITのスキルが求められます。そこで情報検索のテクニックを伝えるオリジナルのポータルサイトを実習用の教材として構築。学生のITリテラシーの向上にも力を入れています。

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実習授業用ポータルサイト「情報収集基礎知識」 自作サイトはこちら

文学や文化のもとになっているのは言葉。

より多くの言葉を学び、それを自分の中に取り込むことで見える世界は広がり、人生は豊かなものになります。 私たちはなぜ文学や文化によって心や体を突き動かされるのか。一緒にその難問に挑戦しましょう。

PERSONAL

内藤 由直

専門領域:
日本文学
オフの横顔:
コロナ禍で遠出が難しいので、最近は京都市内をブラブラ歩くのが半分趣味のようになりました。勝手気ままに歩いて、途中本屋さんに立ち寄ったり、あたりをうろつく野良猫を写真におさめたり。いつもと違う光景に出会うこともあって、とても楽しい時間です。