教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

人生を変える出会いもある。 歴史研究は、ハラハラドキドキの連続だ。

日本史学専攻

日本史研究学域
教授

山崎 有恒

今から160年ほど前の幕末期、日本を訪れた外国人は庶民の暮らしぶりを見て、「日本人は世界一幸せな人たち」と日記に書き留めました。貧しくとも未来に希望を持ち、家族を心から愛し、屈託のない笑顔で毎日を楽しく生きる人びとを、欧米の人びとは驚きと羨望のまなざしで見つめていたのです。でもそれから150年余りが過ぎた今の日本に、そんな光景はありません。経済は低迷し、格差の広がりや児童虐待が社会問題になっています。

みなさんは、明治維新を「日本が近代国家へ生まれ変わる扉を開いた出来事」と学校で習ったはず。確かに明治維新は、世界史に類をみない大変革でした。世界有数の経済大国へ飛躍を遂げた理由のひとつが、明治の近代化・西欧化にあったことは疑う余地のない事実です。でもその一方で近代化を急ぐあまり、日本人は伝統的な文化や価値観を捨て、長い歴史の中で育んだ大切なものまで置き去りにしてきたのではないでしょうか。そんな問題意識を出発点に、急速な近代化がその後の日本にどんな影響を与えるのか、今の日本に何をもたらしたのかを未発掘の史料などを手がかりにして探るのが、私の研究テーマです。

研究では、近代化、西欧化にまつわるさまざまなテーマを取り上げてきました。日本に民主主義がどのようにもたらされたのかを議会制度の導入を切り口に探ったり、薩長政府と政商たちとのつながりを検証したり。自然災害を科学技術で封じ込めようという考え方がどのように形成されたのか、明治以降の植民地統治に競馬場がいかに利用されたかなど、少し違った切り口からのアプローチも試みてきました。

難しい話ばかりではありません。明治期の歴史の面白さを、より多くの方にも知ってもらおうと、2020年4月からYouTubeに「ゆうこうちゃんねる」を開設。「新しい日本史像」と題し、明治期の歴史を楽しく学べる動画配信も始めました。明治6年に「時分秒」で時刻を数える西洋式時法が導入され、日本人に鬱病が広がった話など、近代化にまつわる面白いトピックが満載。ぜひ一度、ご覧ください(チャンネル登録もよろしく!)。

YouTube「ゆうこうちゃんねる」はこちら

歴史の勉強は、過去の出来事を覚えて終わりではありません。いま私たちが生きている社会の価値観も、文化も、生活習慣も、すべては長い長い時間経過の中で育まれたもの。あらゆるものに歴史があり、歴史の結果として今があります。歴史を知らずして今を語ることはできないし、未来を見通すこともできないでしょう。歴史を学ぶこと――。それは「今」を理解し、未来への扉を叩くことでもあるのです。

私には、忘れられない思い出があります。学生時代、卒論のために史料を探していたところ、それまで闇に包まれていた事実を証明する文献を、とある資料館で発見したのです。その時の手に汗握るワクワク感は、今でも覚えています。歴史の探求は、ハラハラドキドキの冒険の旅。人生を変える出会いがきっとあなたにも訪れるはずです。

PERSONAL

山崎 有恒

専門領域:
日本史, 政治学, 交通工学・国土計画
オフの横顔:
研究用の史料探しで旅行に出かけたり、家で中華料理をつくったり、猫と遊んだり。オフタイムは、いろんなことをして楽しんでいます。でもいちばんの趣味は、やっぱり馬。共同馬主になって、中央競馬に出走しています。