教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

日常に深く根をおろす信仰心。 宗教が分かると、アジアが見える。

現代東アジア言語・文化専攻

東アジア研究学域
教授

佐々 充昭

皆さんは、心配事や不安があると自然に手を合わせたり、心の中で願い事をしたりしませんか。自分を超越した存在に対する信仰心は、時に人の心を癒し、支え、強くもしてくれます。特に海外に目を向けると、日本では想像もできないほど、宗教が日常生活に深く根付いている国が数多くあります。

私は、そんな宗教を客観的にとらえ、東アジアの国々の社会や文化、さらには政治や経済とどう結びついているのか探る研究をしています。その国でどんな宗教が生まれ、どのように発展を遂げたのか。また現在の社会で宗教がどう位置付けられ、人々の生活とどう結びついているのか。宗教について理解を深めることは、その国の成り立ちや伝統、さらには現在の社会や文化のあり方をより深く知ることでもあります。

私が特に関心を寄せているのは、近現代における韓国・朝鮮の宗教です。500年あまり続いた朝鮮王朝(1392~1910)の時代は、儒教(朱子学)が社会に浸透し、絶対的な世界観として受け入れられていました。しかし、19世紀末の開港によって、欧米からキリスト教が本格的に流入し、また近代化の過程で「政教分離」の考え方が定着していきました。こうして、儒教的な価値観は相対化されていきます。しかし、1905年に日本の保護国となり、さらに1910年に日本の植民地支配が始まると、天道教(東学の後身)や檀君教(後に大倧教)などの新宗教が登場し、民族独立を勝ち取りたいと願う人びとの心の拠り所となりました。このように朝鮮近代の歴史において、宗教は重要な役割を担っていました。

研究で扱うのは、過去のテーマばかりではありません。韓国での留学体験を生かし、現地でのフィールドワークを行いながら、現代韓国の宗教についても研究を進めています。皆さんは知っていますか? 韓国は、いまやクリスチャンが国民の3分の1を占めるキリスト教国であることを。ソウルの街を歩くと、1万人を超える規模の大型プロテスタント教会がいたる所にあります。また、グローバル化による消費文化が発展する中で、ヒーリング(癒し)や占い(タロットカードなど)が人気を集め、ウェルビーングやヨガブームといった新種の宗教運動も広がっています。日本では想像もできないほど、宗教が日常生活にとけ込んだ韓国。研究は、新たな発見と驚きの連続です。

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汝矣島(ヨイド)純福音教会(信徒数56万人、韓国最大のキリスト教会)の日曜礼拝

毎年10月3日「開天節」の日に行われる、大倧教の祭天儀式(江華島摩尼山の頂上にて)

授業では、現代韓国社会と宗教との結びつきから過去の歴史的な事柄まで、幅広いテーマを扱っています。教材はビジュアル重視。韓国のテレビ局が制作したニュース番組を見たり、韓流ドラマのある場面を切り取って、その背後にある宗教的な価値観などを解説したりします。K-POPをはじめ映画やドラマなど、いまや世界中で爆発的な人気を得ている韓国の大衆文化。儒教的な「家族関係」やキリスト教的な「人間理解の深さ」も、その人気を支える大切な要素であると、私は考えています。 宗教は人間の生活を支える文化的資源として、また道徳倫理の根源として、科学万能の現代においても根強く生き続けています。「宗教」という視点から東アジアの文化・社会について理解することは、グローバル化が進む現代に必要な幅広いものの見方や、異文化を観察・分析する力を獲得することにもつながります。

PERSONAL

佐々 充昭

専門領域:
宗教学、朝鮮近現代史
オフの横顔:
夏は水泳をよくします。ただプカプカと浮かんでいるような感じで、ゆっくりゆったり泳ぐのが好きです。また、近くの山や草木の多い場所を散策することも大好き。何も考えずに「無」になることで、いろいろなアイデアがひらめきます。