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鳥山 寿之 先生(理工学部)

2022.05.01


『Fracture and Society』
Masateru Ohnami著(Ohmsha、IOS Press c1992)

本学の元総長による大著が、本棚の片隅に静かに眠っているのは非常にもったいない。S.P.ティモシェンコの本は20世紀初頭までの材料力学の歴史を記述しているが、この著書はマイクロメカニックスと命名された21世紀に繋がる材料力学の新しい展開の示唆に富んでいる。また、西洋の歴史のみならず、我が国における歴史を詳細に記述している点が興味深い。我が国は100年以上も前に西洋からの自然科学を導入し、他のアジア諸国と異なる独自の材料力学の学問体系を形成してきたことが理解できる。著者の学問に対する気迫は、若い研究者や学生に前を向いて進む力を与えてくれる。

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『ジェットエンジンに取り憑かれた男』
前間孝則著(講談社、1989)

我が国における航空用ガスタービンエンジン開発の歴史を概観できる貴重な著作である。批判されるべき厳しい時代背景もあり、我が国が第2次世界大戦当時に航空用ガスタービンエンジンと搭載機体の試作に成功していたことは広く知られていない。その技術伝承が、ブルーインパルス、エアバス、ボーイングに搭載される国内開発や国際共同開発エンジンへ繋がったことが興味深く描かれている。私が若いころ、この著書のエピソードの1つである潜水艦輸送作戦の登場人物から職場で昔話を聞かせていただいたことを思い出す。

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『大空への挑戦 : 航空学の父カルマン自伝』
カルマン[著] ; 野村安正訳(森北出版、1995)

ハンガリーの小さな国民学校で教育を受けたカルマンが、ドイツのアーヘン、ゲッチンゲン、そして米国のカルテックで過ごした生涯が記述されている。ゲッチンゲン時代のプラントルとの風洞試験による境界層理論確立の日々や、第2次世界大戦後に渡米したカルテック時代での米国空軍やNATOの科学技術に基づく近代化への貢献が描かれている。旧川西財団の招聘で日本にも滞在し、航空機製造会社の風洞や金属製プロペラ設計のコンサルタントを行った記述も非常に興味深い。

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『材料力学史』
S.P.ティモシェンコ著 ; 最上武雄監訳 ; 川口昌宏訳(鹿島研究所出版会、1974)

現在の材料力学が学問として形成される過程が興味深く記述されており、初めて手にしたとき、気付かないうちに相当数のページを一気に読み進んでしまった。特に19世紀のコーシーとポアソン、対するナビエとヤングの数理弾性論の戦いの記述には引き込まれる。結論としてコーシーとポアソンの理論が正解であり、今日の標準教科書の記述の根底を形成している。20世紀までの材料力学の歴史を学ぶだけでなく、論争から学問が形成されてゆく過程を体験できる本である。

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『大学教育について』
J.S.ミル著 ; 竹内一誠訳(岩波書店、2011)

100年以上も前の昔、はるかな遠い異国の地スコットランドでのお話である。精神を形成する文化や信仰する宗教も異なり、直ちに我々に当てはまることはないと思えてしまう。特に理工系では人文社会学系の教養の必要性や役割はぼやっとしているであろう。しかしながら、これから一般教養を受けようとする学生、あるいは既に受講している学生にとって、その重要性を考えるヒントをミルは与えてくれる。大学における教養教育が、専門の職業学校との明白な境界を形成していることや、大学の教育に対する使命とその上限(限界)が描かれている。この考え方は現在でも通用するのではないかと私は思う。

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