「第6回:学問+αを得る」村上 弘 先生(法学部)
インタビュー:学生ライブラリースタッフ 白石(法学部4回生)
―― 先生にとって図書館はどういう場所ですか。
小さい頃から現在に至るまで、学校図書館・公立図書館の両方をよく利用してきました。
小学生の時は特に『十五少年漂流記』や『ロビンソン漂流記』や、SF小説が好きでした。
しかし、最近は少し足が遠ざかり気味です。というのも、インターネットで得られる情報量が増えたからです。加えて、書店で立ち読みをする技術が身についたことも原因かもしれません(本屋さん、ごめんなさい)。
要点を抑えながら流し読みして厳選した資料を、購入したり図書館で利用したりしています。
―― 立ち読みの技術は是非まねしたいです。図書館の膨大な資料の中から利用価値のあるものを見つけるのに役立ちそうです。
立ち読みだけで全て読んだ気になってしまわないように気をつけてくださいね。特に若いときはやはり自分で買って線を引きながら読まないと、身につきませんから。
―― 確かにそうですね。肝に銘じておきます。
最近足が遠のきがちといいましたが、論文を書く時には必ず図書館に行きます。
―― それはなぜですか。
その分野の本で見落としがないかを調べたり、専門雑誌や年鑑、政府統計のように一般の書店にはあまり置いていないような本を調べたりします。
―― なるほど。個人や書店では収集しきれない大量の資料を、体系的に配列している図書館だからこその強みですね。
情報はうまく使い分けることが大切だと思います。
自分で購入した本・図書館の資料・インターネット情報の長所と注意点を表にまとめてみたので参考にしてください。
長所 | 注意 | |
---|---|---|
自分で買った本 | 書き込みができる 人に貸してあげられる 自分独自の分類整理ができる |
部屋が狭くなる 少し費用がかかる |
図書館の本 | 書架で知らない本が見つかる (大書店にない本も) 一時に必要部分を多読できる レファレンスを受けられる |
大切に扱おう 重要な本は自分で買おう |
インターネット | 検索しやすい 内外の貴重な情報も見つかる 自宅でも使える |
コピーだけのレジュメは不可 玉石混交 ウィキペディア等は責任所在が不明 |
―― 表にすると比較しやすく、とてもわかり易いですね。長所・短所を理解して、うまく使いこなせるようになりたいです。
そのほかにも、リラックスしたいときに面白い本はないか探しに行ったりもします。
―― どんな本がお好きですか。
画集や写真集が好きです。
画集は場所をとるうえに値段も高いので、個人でそろえるのは難しい。図書館には画集が充実しているので、リラックスできていいですね。
私はモネなど印象派が好きなのですが、印象派でも一番大判の画集にはベルギーやロシアの印象派なども載っていて勉強になります。ベルギー印象派のエミール・クラウスに弟子入りした日本人の太田喜二郎さんは、京都市美術館にすてきな作品があるんですよ。
―― 身近なところに意外なつながりがあるんですね。
最近は、公務員試験の一般教養でも美術史が出題されるようです。
趣味や息抜きの中から教養を身につけていくことも大事かも知れません。
―― 先生は学生時代、しばしば図書館にこもっておられたそうですが。
大学時代は学問志向が強かったので、様々な分野の本を読んでいました。
難しくて理解できないものもありましたが、本を読むこと自体を楽しんでいました。
これだけでは健康的ではないので、山歩きなどにも出かけました。
―― 学生時代に影響を受けた本はありますか。
作家を志望する若者が悩む様子が描かれている、チェーホフの『かもめ』が印象に残っています。 本人にとっては深刻な状況でも、他人から観ればプラス面とマイナス面との客観的な評価ができることもあると感じ、自分の悩みを客観化するのに役立ちました。進路展望などで自分に自身が持てない時期に心にしみました。 また、『ロビンソン漂流記』のロビンソン・クルーソーの自己反省の場面も良い教訓になります。
―― ドイツに留学されていたと伺いました。ドイツの大学図書館はどのような感じですか。
ドイツでは二つの大学を経験しましたが、まったく異なりました。
一つは伝統あるケルン大学で、設備は古かったです。学部ごとに図書館が分かれていたので、他学部の資料を探すときは不便でした。
もう一つの大学は比較的新しいコンスタンツ大学で、統合型の24時間図書館でした。図書館を中心に教室や研究室が周りを取り囲むように設計されており、各方面にある入り口から入館することができました。
―― 図書館が学びの礎という考え方が現れていて素敵ですね。
また、学部や授業ごとに教科書や参考書を集めたコーナーがあり、とても便利でした。
この図書館でもこのような取り組みがあるといいですね。
―― 学生にお薦めの本があれば教えてください。
自分の担当分野(政治学、行政学、都市政策)では『現代政治学』、『図説日本史』、『よくわかる行政学』、『まちづくりの新潮流』などが役立ちます。
―― 大学生全般についてはどうですか。
難しいですね。昔は『こころ』や『三太郎の日記』のような教養小説や『罪と罰』のような哲学小説が大学生のバイブルとして読まれていましたが、最近はどうなのでしょうか。現代は多様化しすぎていてバイブルのようなものは定められないかもしれないですね。
なお、すぐれた映画もいろいろなことを考えさせてくれますが、推薦映画(ロマンス、SF、戦争など)のリストは、私が編集した教科書『よくわかる行政学』に入れてありますので、関心があれば見てください。
―― 学生に図書館の使い方・本の読み方についてアドバイスをお願いします。
図書館ではブラウジングを、本については書き込みをすることが大事だと思います。もちろん図書館の本に書き込むのはだめですが。
書き込みについては自分なりの記号を作って使い分けるといいです。線だけを引くと見にくくなりますしね。
また、冒頭または最後の白紙ページに感想を記しておくと、あとで読み返した時に自分の成長を感じることができます。
図書館でのブラウジングでは、思わぬところで素敵な本とめぐり会うこともあります。
効率を考えればデータベースや目録が一番ですが、実際に本を手にとって読んでみることも大切です。
やはり、場面に応じた使い分けが重要なのだと思います。
―― 図書館は、工夫しだいで様々な使い方ができるのだと感じました。
図書館や書店をうまく使い分けて、学問+αを習得していきたいと思います。
ありがとうございました。
今回の対談で紹介した本
十五少年漂流記 / ジュール・ヴェルヌ著 ; 波多野完治訳、新潮社、1990
ロビンソン漂流記 / デフォー 著; 吉田健一訳、新潮社、1998
かもめ / チェーホフ著;湯浅芳子訳、岩波書店、1976
現代政治学 / 加茂利男 [ほか] 著、有斐閣、2007
よくわかる行政学 / 村上弘, 佐藤満編著、ミネルヴァ書房、2009
ビジュアルワイド図説日本史 / 東京書籍編集部編、東京書籍、2006
まちづくりの新潮流 : コンパクトシティ/ニューアーバニズム/アーバンビレッジ / 松永安光著、彰国社、2005
こころ / 夏目漱石作、岩波書店、1989
三太郎の日記 / 阿部次郎、角川書店、1960
罪と罰 / ドストエフスキー作 ; 江川卓訳、岩波書店、1999-2000