立命館大学図書館

   
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「第20回:知識を知恵に」高橋 学 先生(文学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 江藤、中島、橋本

高橋 学 先生

高橋 学 先生の研究概要

―― 学生時代に影響を受けた本はありますか?

僕がやっぱり一番影響を受けたのは、中学校の時なのですが、木本正次の『黒部の太陽』です。「黒四ダム」をつくる時の断層破砕帯にトンネルを掘る話ですね。その次に新田次郎の『孤高の人』、加藤文太郎という登山家の伝記です。あとは、エンゲルスの『サルが人間になるにあたっての労働の役割』ですね。

高校生になってからは、遠藤周作の『沈黙』『深い河(ディープ・リバー)』、『私が捨てた女』など「第三の新人」と呼ばれる人たちの本はほとんどすべて読みました。一人で山登り、山頂で満天の星を眺め、地質調査に明け暮れていました。あと、鈴木尚の『骨』『日本人の骨』をむさぼり読んでいました。

遠藤周作は小さい頃に親にいわれてカソリックに改宗するのですが、自分がカソリックであることの違和感をずっと持ち続けていて、果たして日本人にとって神とは何かっていうことを考え続けた人です。彼は、「日本の神というのは、弱い存在なのです。例えば暴力を振るわれたときに真っ先に謝ってしまったり、踏み絵をしてしまったりしてしまう。そして、それによって心に痛みを感じてしまうような人たちに近い存在として考えられていて、そのような信仰が日本人の特性なのではないか」ということをいっています。

―― 大学や大学院時代に影響を受けた本はありますか?

小学校のころに宮沢賢治の『よだかの星』っていう本を読んだときに、他の生物を殺さないと生きていけないのかということをまじめに考えてしまって。僕は小学校5年生から大学に入るまでの間、拒食症だったのです。肉や野菜はもちろんだめ。一日に子どもの茶碗に半分くらいのご飯しか食べられなくなっていました。

大学に入ってからは今西錦司という人を知りました。京大の理学部で、カゲロウの研究をやっていた研究者です。カゲロウは棲み分けをしていて、日本の北にいるやつと南にいるものは違う、そして一本の川でも、上流にいるやつと下流にいるもので違う。あるところでも、川の砂利っぽいとこと砂っぽいところにいるもので違う、さらに昼と夜でも違う。そういうのは、生物の生存競争を前提としたダーウィニズムではなくて、生物が上手に棲み分けているのだという棲み分け理論になったのです。そこから、生物の世界は弱肉強食の世界ではないという考え方を導き出したのです。その今西先生の影響を色々受ける中でご飯が食べられるようになりました。

さらに安田喜憲先生が、1980年に『環境考古学事始』という本を出版しました。もともとは全部英語で、東北大の博士論文だったのですが、それを優しく日本語で書いたものがNHKブックスから出たんです。これを読んだときに、自分がやるのはこれだ!と思いました。

環境考古学っていうのは、ひとつは環境がどのように変わってきたのか、土地開発がどのように行われてきたのか、そして災害がどのように起こってきたのかっていうのを研究対象とするわけですが、そういう過去のことばっかりを研究するだけじゃなくて、今、ここに家を建てたらどうなるか、未来のことを考えるのが本当の目的なのです。今に役立たせるために研究やるわけ。僕はあんまり「地理学」「地理学」って言わない方だと思うけど、大分ましになったとはいえ、地理学に欠けているものは、今、これから、をどうしていくかということを提言できないことです。僕は「災害で人が死なないまちづくり」をするために研究をするのであって、ただ自分が楽しいだけでやるのなら趣味だって思うわけです。

―― 学生時代の図書館の利用頻度、利用方法を教えてください。

僕の学生の頃はね、立命館のキャンパスが広小路にあった時なのですよ。地理の共同研究室のとなりが文献資料室で、ずっとそこに入り浸っていました。そこで知り合った資料室の職員さんと仲が良くなって、本当なら「5時になったらほんとはおしまいだよ」とかいうけど、「もうちょっとだけなら居てもいてもいいよ」、とかそういう人間関係に甘えていました。

休みの日以外は、ずっと図書館にいましたね。とりあえず、最新号の学会誌なんかは、図書館にいって全部表紙をみるわけ。見て面白そうなやつは、当時コピーができないものだから、全部ノートに写すわけ。だから、よっぽど気に入ったやつしか写さないけどね。Science だとか Nature だとか、どんな論文が世界で話題になっているのかっていうのも気にしていました。目次だけには目を通すとかいうふうに。

―― 現在の図書館の利用頻度は?

基本的に毎日学校に来たら、ScienceとかNatureとかの雑誌に目を通しますよね。それと、新聞を読みに。インターネットでも新聞読むのだけど、怖いのはね、インターネットの新聞ってすぐに消えてしまうのが困りますね。データベースで探すのは結構時間がかかるし。研究で必要なデータの多くが、BKCにあるのも、ちょっと困りますね。もちろん、取り寄せてはもらえるけれど。

―― 現在どのような資料を利用しますか?

やっぱりセンサス(統計)類は良く使うよね、人口センサスとか。新聞以外は圧倒的にセンサスです。地理学専攻で具合がいいのは、マップライブラリーがあって、新しい地図がどんどん入ってくるでしょ。あれは、是非もっと充実させていきたいですね。あれは今や図書館の分館みたいになっていて、他専攻他学部の利用者もみんな来ます。地理学の固有施設だと言い続けないといつの間にか、図書館の第二分館にされちゃいそうで心配です。

―― 学生にオススメの本は?

そうだね。何がいいかな。学生さんもいろいろいるから。一冊って言われたら、西堀栄三郎さんの『石橋を叩けば渡れない』という本かな。

―― どのような衝撃があるのでしょう?

著者は、南極の第一次越冬隊長をした人です。雪上車の話があって、それはキャタピラーのついた自動車で、南極点目指して移動する時にね、ネジをどこかに一つ落とした。それでもう雪上車が動かなくなった、さあどうしよう。雪上車の中を探すと一つだけネジがあった、が、大きさが合わない。そこで、一度みんなで紅茶を飲んで考えようとするのです。そして、紅茶を飲んでいるうちにふと思いついて、大きさが大きいだけで、雄ネジに対して雌ネジが大きいわけだから、そこに上から紅茶をかけて寒いから凍らせて固めた。それで、隊員たちが「これで安心して帰れますね。」と言うと、「何バカな事いうてんねん、これから南極点までいく。」と言ってそのまま先に進んでいった話とか。学生さんにはね、何かちょっと失敗したからとめげるのではなくて、そのときに冷静になっていれば、必ず何か道は開けるっていう(のを読んでほしい)。西堀栄三郎さん自身が言っていたのは「何かやる時は必ず失敗すると思え」ということで、必ず失敗するから、失敗するのに備えてちゃんと準備しとけと。でも、『石橋を叩けば渡れない』はなかなか手に入りにくいかな。岩波新書に『南極越境記』というのがまだ手に入る。

今の若い人はね、物事をたくさん知っているのだけど、知っているだけ。それの知識が知恵になってないよね。知識が知恵になるっていうのがすごく大切だと思う。

―― 図書館への意見・要望

立命館はよくやっているほうだと思う。よその学校に行くと日曜やってないからね。平日は夕方の五時になったらおしまいだ。それに比べたら随分いいのだけど、でも外国に行くと24時間開館がかなりある。できれば、もちろん24時間がいい。それには「それくらいのことをやってもいいな」と大学側が思うくらいにね、学生がやっぱり図書館使わなきゃね。それとね、やっぱり狭い。学生の人数に比して狭いよね。もっと広い図書館がいいね。

―― 図書館への意見要望などは?

個人的に、理工学部の本を衣笠に取り返したい。以前は衣笠にあった本がBKCにだいぶもってかれちゃって、僕の欲しい本がねえ。もちろん借りられるんだけど、一日二日かかるのね。欲しい時に、欲しい本がないというのがね。僕は、かつて議論された衣笠一拠点賛成派だったのですよ。

―― 他大学、外国と比較して、改善点は?

24時間体制にしてほしいのと、コピー代がもうちょっと安くならないか、ということくらい。これからは、紙の本じゃなくなってiPadみたいなモノで読む本に変わっていくだろうから、そうなってきた時にどういう風にね、みんなの本に対する扱いが変わるのか、というのが問題だね。それと、映画とかさ、ああいうメディアみたいなもののライブラリーはもうちょっと充実してほしい。せっかく映像学部もあるのだから。いつ行っても映画が観られるっていうような図書館がいいね。今もDVDが観られるようだけど、まだまだ少ないよね。

―― どういうものが、入れば理想的なのでしょうか?

どんなものでもいいと思う。DVDなどに関していえば、例えば、極端にいえばAVみたいなやつでもかまわないし。

―― それも図書館に置くんですか?

だって、本やメディアの善し悪しっていうのは読んだ人が決めるのだよ。誰にとっていい本か、悪い本かは違う。なんでもそうだけど、やっぱり色んな本を読んで、自分で判断しておもしろくないからもう読まないっていうのなら、それはそれでかまわないって思う。最初から、この本は良くない本だって決めちゃうのはあんまり良くないね。

うちの息子について話すとね、やっていておもしろかったのは、幼稚園の時かな、1から100まで足すといくつ?というのを教えていませんでした。けれど、息子は、勝手に自分で、「1+99=100、2+98=100、3+97=100、……」という、ガウス数列に気がついた。ほおっておけば、子供は自分で考えるのだと思う。だから、そういうことを考えると、あまり、子供用の本を作らないほうがいい。それと本を子供に与える時に、気をつけたいのが、「わかんない」と聞いてきた時に何も答えないこと。その代わりに、これとこれを調べればわかるというような、調べ方を教えてあげる。答えではなく、調べ方を教える。

本当は、大学でもそれは大事なんだよね。研究入門の時に、答えを教えるような授業をなるべくやらないほうがいい。自分で考えさせて、自分で調べる方法を教える。それを今、Wikipediaに邪魔されてるわけ。そこがかなり問題かなって思う。ネットの8割は意味のない情報だから。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

黒部の太陽 / 木本正次著
孤高の人 / 瀬戸内寂聴著
沈黙 / 遠藤周作著
深い河 / 遠藤周作著
私が捨てた女 / 遠藤周作著
サルが人間になるにあたっての労働の役割 / F・エンゲルス著
骨 / 鈴木尚著
日本人の骨 / 鈴木尚著
よだかの星 / 宮沢賢治作 ; 中村道雄絵
環境考古学事始 : 日本列島2万年の自然環境史 / 安田喜憲著
石橋を叩けば渡れない / 西堀栄三郎著
南極越冬記 / 西堀栄三郎著