立命館大学図書館

   
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「第24回:本から『食』の興味を広げる」海老 久美子 先生(スポーツ健康科学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 春山、松山

海老 久美子 先生

海老 久美子 先生の研究概要

―― スポーツ健康科学部の先生にインタビューをするのは初めてです。栄養学について考える上で、何かおススメの本はありますか?

いろいろお勧めしたいものがあり迷ってしまいますが、ます、私たち日本人の食事を考える上で基本となる 「日本人の食事摂取基準」や「日本食品成分表2010」を一度手にとって頂ければと思います。
栄養について関わりの少ない人にはちょっとなじみがない言葉が多いかもしれませんが、少し読み進めていただくと、意外な発見があると思います。食事摂取基準をわかりやすく解説した「食事摂取基準入門:そのこころを読む」もお勧めです。
数ある食品成分表の中でも「646食品成分表」は、通常の成分表が栄養素の数値の羅列になっているのに対し、この本は日常的に使用する食品に含まれる栄養素がグラフで表してあるので、一目で判別できるようになっています。例えばレバーと一言で言っても、豚か牛か鳥で鉄分の含有量がかなり違います。日頃食べている、色々な食材を見比べてみると面白いと思います。

―― 先生の著書である「野球食」「野球食のレシピ」にまつわるお話を教えてください。

早いもので20年以上、野球選手の食事をサポートしてきました。始めた当時は食事の重要性はほとんど考えられていませんでした。そこで、バットやグローブ以上に、一番大切な「体」のために「野球道具の一つとなる食事の本」を作ろうという発想で企画し出版社に持ち込みました。
「野球食」は高校球児の1年間の生活に合わせた食事についての解説とメニューを野球の本らしく「1回の表から延長10回の裏」までに掲載しています。
「野球食Jr.」は小中学生球児を対象とし、子供達の素朴な疑問に答えるQ&Aと保護者の皆様に向けたメッセージとレシピを紹介しています。
また、昨年には、10年間「ベースボールクリニック」という雑誌に球児向けのレシピを掲載してきたレシピから114品選び、一冊にまとめたのが「野球食のレシピ」です。私の研究室を中心に、スポーツ健康科学部の院生・学部生の協力で、4日間で114のレシピを作って、食べつくしました(笑)。

―― 学生時代の図書館の使い方を教えてください

子供の頃は図書館が大好きで、ゆっくり時間を忘れて好きな本を読んでいましたが、大学の図書館は、管理栄養士になるための授業と実習に追われ、そのための調べ物以外はなかなか時間が作れませんでした。

―― 現在はどのように図書館を利用されていますか?

食事は生活の根幹です。私にとって本は、色々な人の生活に出会うきっかけとなるたいせつなものです。その一つが世界の絵本です。今、絵本に出てくるたべものについても研究を進めています。
例えば日本のどの世代においても人気の高い「ぐりとぐら」は、キャラクターが大きなカステラを作る過程を楽しむ絵本です。この本から子供たち一人ひとりが想像するカステラの味や香りはきっとそれぞれ違うと思います。
絵本を通して、子供たちにたべものを楽しく創造する力を培ってほしいですね。

―― 他におススメの本はありますか?

色々な人たちの食生活と出会える「地球の食卓」はいかがでしょう。世界各国の家庭の一週間分の食材が写真と文章で紹介されているのですが、各国の文化がよく反映されています。例えばオーストラリアの都市で生活する家庭の食卓を見てみると、その土地の文化よりも、移民してきたヨーロッパ、特にイギリスの食文化の影響が感じられますよね。この本では、それぞれの家庭の一週間分の食材をリアルに並べることで、現在の世界各国の食生活の特徴を比較することができます。

―― 写真で見ると、各国の食材の違いがよく分かりますね。

食材も違いますし、食べ物に対する認識も異なります。例えば、今年のゼミ生は、食品としての豚の扱われ方を卒業論文のテーマにしました。中国は「鳴き声以外は全て食べる」と言われるほど、豚肉の消費が多い国です。一方で、宗教上の理由等で全く口にしない、国や地域もありますよね。

―― なるほど。興味深いですね。

でも、写真や本だけで食は語れない、とも思います。最近は意外にも、海外に出たがらない学生が多いと聞きます。
本で写真を見て、興味を持った国の食材や料理を食べてみてほしい。できれば現地を訪問し、その空気感と共に、その国を味わってほしいと思います。
例えば、韓国の空港に着いたとき、キムチの匂いを感じる人も多いはず。一方で、日本にきた外国人は「醤油の匂いがする」という人が多いようです。
食は生活の基本であり、文化の基本でもあると思います。食に興味のある学生はもちろん、食に興味の無い学生にも、手にとってほしい一冊ですね。

―― 先生が海外を訪れて、食文化の違いを感じた経験はありますか?

アメリカのケーキには、紫とか青とか様々な色のクリームを使います。初めてアメリカのお菓子を見た時は、「体に悪そう。毒々しい」というイメージだけを持っていました。 実際、人工着色料等の問題はあると思いますが、サンフランシスコで朝市に行った時に少し、別の見方ができるようになりました。
例えば朝市で並んでいるトマトやピーマン。赤や緑といった決まった色だけではなく、一つの果実でも黒・紫・黄・赤・オレンジ・緑と様々な色のコントラストを持っているものが沢山あります。形も色々です。
日本では「トマトは赤」というように、食材に対して画一的なイメージを持っていますが、自然界にはもっといろんな色や形のトマトやピーマンが存在しているのです。その延長が、お菓子の豊かな色彩のイメージに現れている、という一面もあるのかな?と、ちょっと考えました。

―― 最後に立命館の大学生にメッセージをお願いします。

「元気は食から。」食を色んな角度からみると、面白い世界がたくさん広がります。子供の頃や若い時は味覚も敏感です。毎日の食事が皆さんを作っています。何を食べるかで、皆さん自身が変わる、いう意識を持ってほしいと思います。
舌にも体にも心にもおいしいものをしっかり味わう。本がそのきっかけにもなることもあると思います。毎日の食事を楽しんでください。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

地球の食卓:世界24か国の家族のごはん/ ピーター・メンツェル, フェイス・ダルージオ著 ; みつじまちこ訳 TOTO出版 2006
野球食 = Food for baseball players / 海老久美子著 ベースボール・マガジン社 2001
野球食Jr. = Food for junior baseball players / 海老久美子著 ベースボール・マガジン社 2007
野球食のレシピ = Recipe for baseball players / 海老久美子著 ベースボール・マガジン社 2011
日本人の食事摂取基準 : 厚生労働省策定 / 第一出版編集部編 第一出版 2005
食事摂取基準入門 : そのこころを読む / 佐々木敏著 同文書院 2010
日本食品標準成分表<2010> / 文部科学省科学技術学術審議会資源調査分科会編 / 全国官報販売協同組合 2010(大学内に所蔵なし)
ぐりとぐら / 中川李枝子文・大村百合子絵 福音館書店 1967(大学内に所蔵なし)