立命館大学図書館

   
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「第29回:自分の頭で考える学生になろう!」木野 茂 先生(共通教育推進機構)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 大西 和田

木野 茂 先生
木野 茂 先生の研究概要

―― 学生時代に影響を受けた本はありますか。

エンゲルスの『空想から科学へ』は、マルクス、エンゲルスの時代だから19世紀の本ですね。マルクス、エンゲルスなんていうのは古い先生方の場合はたいてい通ってきている本です。僕は理系の学生だったからそれほどのめりこみはしなかったけれども、やっぱり影響を受けてチラッとは覗くというのが、当時の学生としては普通でした。

ただ僕の場合は、マルクスに行かずエンゲルスに行きました。エンゲルスのこの本は科学的社会主義の入門編なんです。科学的な歴史観を基にして、資本主義から社会主義への移行を正当化していくというものです。そういう科学的社会主義の論理には惹かれましたけれど、実際の自然科学の未来については夢みたいなことしか書いていなくって、「本当はどうやねん」ということはよくわからないなと思っていました。

バナールの『歴史における科学』っていうのは、ちょうど僕が学生時代の頃に出た本で、当時でいえば一番新しい本なんですよ。これは古代から現在までの科学技術の進歩の歴史を社会的背景を基にして、それをどう理解すべきかということをまとめてくれている。そういう歴史書だったので、非常に面白かったですね。

僕は大学の上回生になったころに、下の学生たちと科学史研究会を作って、読書会を始めました。そのときに取り上げた本がこのバナールの本です。当時は自然科学の進歩が著しい時代、そして理系ブームの時代でもあって、科学の進歩は人類にとって幸せをもたらすということが普通に信じ込まれていたんですね。当時その最先端が、原子力でいえば核から原子力発電へ…という頃です。アトムの話が手塚治虫などによってだんだん世間に知られてきていました。そういう夢みたいな話が「ほんまかいな?」ということをみんなで勉強していったんですね。僕は「ほんまかいな?」と半分懐疑的に思いながらも、近代以後の科学の進歩は本当にすごいなぁって感嘆して。それで、僕もそれに夢をかけようと思ったから理系に入ったのですが、その本に書かれたばら色の夢はそのまんまではなかったということが、教員になってからわかりました(笑)

そういうことは今までの研究とか、今やっていることと関係があります。若い頃に図書とか予備知識とか授業とかいろいろなことから受けたことが、そのあとの人生の中でひっくり返ったと。そういう経験を振り返って読書っていうものを考えると、いつひっくり返るかわからないものだな(笑)

僕は、本っていうのは前の世代の人たちが考え抜いた成果であり、作品だと思っています。それをわれわれが読んで、その話いいなぁなどと感じることはいっぱいあるけれども、でもそれは、先人が命がけで考え抜いたことですよね。その成果物に対して、われわれは素晴らしいなと感嘆はできるけれども、その成果にたどり着くまでのその先人の苦闘の歴史はあんまり知る由もないんじゃないかな。

―― 出来上がった結果だけを享受する・・・

結果だけ。だから読書はいいんだけれども、それを読んだ自分がその後どうするかというときには、バイブルのようにただ持っているだけではダメで、あと自分のものにするというプロセスがあって初めて読書は意味があるんだと思いますね。

だから、僕の授業に対するみんなへのスタンスも、今は自分で考えるということを一番基本に置いています。読むことは大事だし聞くことも大事だし理解することも大事だけれども、それを基にして、自分はどう考えるのか?というところに持っていくこと。そのために自分の頭の中をフル回転させる練習をしましょうと、受けてくれる学生の人たちには言い続けてきています。

そのためにある授業で学生に指示しているのは、僕が作った推薦図書のリストの中から、関心がある本を1冊読んで読書ノートを作りましょうということです。読書ノートというのは、本の要約を400~500字くらいで書いて、それからその本を読んだ後の自分の意見とか感想とか考え方を400~500字で書くというものです。これを読書の一つのスタイルにして、以後は自分の関心があるテーマについて読書や調べもので考察しながら、最終的にレポートにまとめましょうと。最初の読書ノートは読んで考えるというスタートであるだけで、次からは自分で必要な文献を探さなければいけない。一番大事なのは、自分のオリジナリティを出すことです。読んだものをピックアップして並べただけではなく、それを基にして、自分で研究したいテーマを考え、レポートに文章として書き上げるということです。そのような形で授業の中では読書を位置付けています。

だから読むことや探し出すことや調べることを決して軽視はしていないんだけれども、それはステップだということをしつこく言っています。やっぱり、レポートというものは他者に見せて「これは!」と言わせて読ませるものでないといけない。いろいろなことがたくさん書いてはあるけれどもどこかから取ってきて並べているだけというものは、誰が見てもわかるわけね。それはよく調べましたね、で終わっちゃう。それで、何が言いたいの?と(笑)

―― その上でのその人個人の視点はどこにあるの?ということでしょうか。

そうそう。よく調べた後に、自分は何を考えたのか、何を言いたいのか、ということに焦点を合わせてもらうのが僕のスタイルです。

―― 読書は受動的になりやすいですが、授業を通じて各人がオリジナリティを発揮していけるように、ということは素敵な取り組みですね。

分野によると思うんですよ。例えば歴史学や古典といった分野においては、読むことやそれをきちんと理解すること、引き継ぐことも重要だと思います。ただ、僕が取り扱っている、環境や生命といった、今どう生きてこれからどうするのかということの方に焦点がある分野では、過去は参考にはなって大事なんだけれども、それを今に引き移してこれからどうするのかということの方が大切だと思いますね。

また僕は、授業を一方的に受けるだけではなく、受けたものに対して返す力が学生には必要であると思います。教員に対してだけではなく、授業の中での学生同士のコミュニケーションにも着目しています。同じ授業を受けた周りの人がどういう風にその授業を受けたかということには、今までみんなあまり関心を持たなかったと思います。自分が受けて自分が理解したことと多分一緒だろうと思っている。だけど、同じ講義を聞いても理解度や意見が全然違うということはしょっちゅうのことです。僕自身の授業では、90分間座席に座ったままではなく、隣にいる人や同じ関心を持つ人とよくディスカッションをしてもらいます。そうするとすぐわかるんですね、いろんな考え方があることを。僕の授業は双方向型授業と名付けているんですが、一方的な受け身の受講ではなく、お互いの意見を交換することで初めて自分の頭で考えることができるようになると言っています。それこそ、主体的に学ぶということではないでしょうか。

これは本に関して言えばちょうど読書会に相当するようなものだと思いますね。同じ本を読んで各々がどう感じるのか、理解するのかということ。学生の中で読書会はあちらこちらで自発的に行われているんだろうと思うけれども、学生ライブラリースタッフで企画してみるといいかもしれないですね。

―― そうですね、大変面白いと思います。

立命館大学の教員が書いた本をもとに、書いた教員と読んだ学生の間で対話をすることは可能ですよね。読んだ学生は「先生これどういう意味で書いたんですか?」と疑問を提示する。逆に書いた教員は「自分の書いた思いは伝わっているのか?」ということを確かめる。読者と著者との対話の場があると面白いんじゃないかなと思いますね。だけど最近一般学生の受講生を見ていると、読書量は少ないように思うんだけれども、どうでしょうか?

―― レポートのために読むという方が多いかもしれないですね。

そうですね。最近はレポートでも引用文献の大半はインターネット上の情報であるわけですが、アドレスが羅列してあるだけで出典がはっきりわからないときがありますね。学生はもうインターネット上のもので十分だと思っている気配もあります。それらは教員として頭が痛いところです。変化期だから非常に難しいとは思うけれども、出版された図書文献と他のものとの区別を、教員はもう少しきちんとつけてあげるべきだと思います。どの授業でもね。

―― 木野先生はどれくらいの頻度で図書館を利用されますか?

現在の研究対象が古典や文献に頼る分野ではないため、立命館大学の図書館はほとんど利用していません。僕は前任校の大阪市立大学に長いこといたので、今の授業や研究に必要なものは全部その図書館に入れたんです。現在も週に1回は授業を兼ねて大阪市立大学へ行っているので、そちらでの利用で足りています。

―― 大阪市立大学と立命館大学とで、図書館の位置づけに違いはありますか?

大阪市立大学は理系学部の比率が大きいですね。理系は文献を自分の手元に置いておきたいという先生の欲求が強いこともあり、学部図書室があります。だからその学部のみんなが使うような雑誌類は大体学部図書室に置かれる。全学図書館のほうにも基本的な文献はあるし、雑誌類は両方にまたがってはいるけども、先生は近くにある学部図書室にすぐ行くという感じです。理系は研究分野から言ってそういうスタイルがあり得る。立命館大学は文社系が中心だから、図書館は一つで十分いいと思います。学部に分属すると煩雑なことになるでしょうね。どこに探しに行けばいいんだって(笑)。

―― 学生にお薦めの本があれば教えてください。

特にこれをという本はありません。何でもよいから関心を持った本を読んでみることです。もし私に関心を持ってくれた人は、私が今やっていることのきっかけがわかる、宇井純編『公害自主講座15年』を読んでください。さらに、今現在やっていることは近著(木野茂編『大学を変える、学生が変える』)にあります。なんか、宣伝みたいですね(笑)。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

空想から科学へ / エンゲルス著 ; 寺沢恒信, 村田陽一訳 / 大月書店 / 2009
歴史における科学 / J・D・バナール著 ; 鎮目恭夫訳 / みすず書房 / 1966
公害自主講座15年 / 宇井純編 / 亜紀書房 / 1991
大学を変える、学生が変える 学生FDガイドブック / 木野茂編著 / ナカニシヤ出版 / 2012