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「第54回:本との出会い」石水 毅 先生(生命科学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 藤原

石水 毅 先生

石水 毅 先生の研究概要

―― 先生は植物糖鎖の生合成・分解に関わる酵素の研究をされていますが、その研究に取り組まれたきっかけは何ですか。

大学時代(大学院時代)、有機化学専攻で生物にも興味があったため、有機化学をしながら酵素の研究をしている研究室を選び、植物の酵素に関する研究に取り組みました。教員になった際、それまでの研究を活かそうと花粉管の伸長に関わる酵素を研究し始めたのが、現在の研究に取り組んだきっかけです。

―― 新しい分野への挑戦に、躊躇はありませんでしたか。

なかったですね。大学院入試を控えた大学4回生の頃に『モリソン・ボイド有機化学』の上・中・下を3回ほど読み込み、章末問題も解いて一つの分野を勉強できたことが自信につながりました。新しい分野に挑むときは、その分野の基礎になる本を読み込めば、躊躇なく、踏み込めると思います。

本を読み込むことを体験した人は、新しい分野に躊躇なく飛び込んでいけるようになると思います。大学時代に専門書を1冊でいいので読み込むことは、自分の専門分野を持つ上で重要です。そのためには、自分の興味のある分野を見つけることが大切ですね。大学時代は、将来について不安が大きい時期だとは思いますが、何者でもないので、この分野の専門家になるのだ、という強い意志を持って努力してほしいと思います。

―― お薦めの図書を教えてください。

1冊に絞り切れないですが…。高校時代から「自分」という存在に関心があり、精神世界や神の存在に興味を持っていました。様々な人が今まで考えてきた事を知りたいと感じて、さまざまな本を読んできました。様々な人の考えが凝縮され、それらを垣間見ることのできる古典的な書籍をよく読んでいました。古典と言われるだけあって、ものすごく考え抜かれているので、時間のある大学生にはぜひ読んでみてもらいたいです。たとえば、ヘルマンヘッセの『シッダールタ』は影響をもらった本の一つですね。

―― 『シッダールタ』のあらすじを教えてください。

「仏教が何か」という内容ではなく、仏教の基礎をつくったシッダールタ(ブッダ)になぞらえて、一人の青年がどのような人生を歩み、自身が求めていた幸福を得て、悟りを開いたか、その過程が書かれた本です。泥臭い人生の末に悟りに至った過程です。
手塚治虫さんも「ブッダ」という作品を描いています。手塚治虫さんは、裕福な家庭に生まれたブッタがたくさん愛情を受けても自分の人生に満足できず、自分探しの旅に出た物語を、彼なりの視点でまとめてくれています。ドロドロにいろんなことを経験した末にしか悟りに至れないことが描かれています。この2冊にはすごく感銘を受けましたね。

―― それらの本から何か影響を受けましたか。

いろんな欲との葛藤を外から見れるようになるには、さまざまな体験を自分でしていくことが避けられないことだと思ったりしました。また、自分の欲や思い込みをなくした時に、初めて本当のことが見えることを、心に留めるようになりました。
研究者として様々なデータを見るときも、この考え方はとても大切です。あるデータを見た際、「このデータはこうあるべきだ」という思い込みが強すぎると、そのデータが持つ本当の意味を見失います。自身の今までの考えをなくしたときに、新しい視点でデータを解釈することができ、発見につながるという経験を今までしています。人との付き合いでも先入観をもって人のことを見てしまうと、うまくいかないことが多いです。聖書にも「自分の固定観念を捨てよ」ということを気付かされるフレーズが多くあります。

―― 本を読んで得た力が、研究にも生かされているのですね。

宗教と研究は、どちらも真理を求めるところが似ています。一方、宗教が最初から答えが与えられているのに対し、科学は一から証拠を積み重ね手がかりを紡ぎ出し、真理を見つけ出す点が、両者の違いです。両者に共通するのは、自我をなくしてひたすら祈るとき、観察するとき、真理をほんの少し見させてもらえる、という点と思います。宗教も研究と同じく、真理に少しずつ気付きながらどんどん進化していくべきです。このことは、童話作家で有名なアンデルセンが『生きるべきか死ぬべきか』で述べられています。宗教も科学も、決まったことを信じていくような態度では、求めていることに出会えないと思います。

―― 様々な種類の本を読んできたのですね。

好きな本・色んな本を読んでもらいたいです。読書の習慣がない人は、読みやすい本から始めればいいと思います。
アイヌの童話であるコロボックル物語(短編集:「だれも知らない小さな国」などがお薦め)は、本の中に入っていけてワクワク感を体験できる本です。科学関係の読み物としてブルーバックスシリーズもお薦めです。また、人生の概観が書かれている神谷美恵子さんの『こころの旅』『人間をみつめて』を読んで、自分の人生をみつめる機会を作っていいと思います。
漫画も読みやすいと思います。宮崎駿さんや手塚治虫さんの作品は命をテーマにした漫画が多いです。手塚治虫さんの「ブラックジャック」や「火の鳥」もぜひ読んでもらいたいです。この世に受けた命の尊さに気付かされます。
宮崎駿さんは、人間とは地球の環境の中のちっぽけな構成要素の一つにすぎないと考えていて、全体を考えるときに、自分の欲や考えを捨ててでしか見えない物を探求している人だと思います。宮崎駿さんは、また人間が活動すれば環境が悪くなって人間にその影響が跳ね返ってくるように地球環境というのは残酷な部分があるけれども、その厳しさの中に自然には寛容さもあるということを伝えてくれていて、地球上にある自分の命を大切にしたいと思わせてくれます。

―― 最後に、立命館大学生にメッセージをお願いします。

大学生時代は、これからの自分を作っていく大切な時期です。自分次第で何にでもなれるので、楽しむことはもちろん、自分のこれからを作っていく積み重ねをしていってほしいです。その一つの手段として、興味のあるところから本を読んでもらいたいですね。本を読むことで、様々な人の人生を見たり、自分が生きていく参考にしたり、苦労して人生を考え抜いた人など様々な人と知り合うような感覚を味わったり、人生の疑似体験ができたりします。たくさんの本に出会うことは、自分がこれから生きていくところの財産になっていくと思います。

―― 本日は貴重なお話ありがとうございました!

今回の対談で紹介した本

『モリソン・ボイド有機化学』
『シッダールタ』
『生きるべきか死ぬべきか』
『こころの旅』
『人間をみつめて』
『ブッダ』
『コロボックル物語(2) 豆つぶほどの小さないぬ』
『ブラックジャック』
『火の鳥』