立命館大学図書館

   
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「第58回:創造の方法学―視野を広げ、全体を知る。―」豊田 祐輔 先生(政策科学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ

2017.07.17

―先生の研究内容を教えてください!

防災、特に地域コミュニティと行う、「コミュニティ防災」という研究を進めています。具体的には、地域コミュニティと一緒に防災活動をしながら、そこで得られた教訓を一般化し、他の地域でも適用していくというものです。これまで、衣笠キャンパス周辺の地域住民の方たちと防災活動をしてきました。

―この分野を研究するきっかけは何ですか?

もともと紛争に興味があり、学部時代は国際紛争や民族紛争などについて研究していました。しかし、勉強するにつれ、国際開発にも興味を持つようになり、どちらを選択するか悩んだ末、結局、大学院では開発を専攻することになりました。博士課程前期課程では、社会開発、つまり地域で協力して物事を達成していくためのプロセスについて研究しました。例えば途上国の人たちのサポートを考えてみると、政府のサポートが不十分で、金銭的な余裕もない、そうした人たちは自分で何とかしなくてはなりません。そうした人たちに必要なものは何なのか、というということを研究してきました。その後、博士課程後期課程に進んだとき、歴史都市防災研究所に、リサーチアシスタントとして働くようになり、そこで初めて「歴史都市防災」という分野に触れました。そこで、防災という学問がどんな分野にも通用するものである、ということに気づきました。学部時代はタイ南部を、博士課程前期課程ではフィリピンを扱ったのですが、両方とも、災害が多い地域でした。経済対策を行うことはもちろん必要ですが、防災をしなくては、それが水の泡となってしまいます。つまり、経済開発を行うためには防災は不可欠であり、そこから災害という分野が多くのこととつながりがあると感じ、それが今の研究につながっています。

―とてもスケールの大きな分野のように感じますが、どんな学問分野がベースとなっているのですか?

学部時代は政治学、博士課程前期課程時代には社会学に近いものをやってきました。ただ、やはり政策科学部自体、扱う分野が幅広いため、いろいろな分野をやっていたと思います。博士課程後期課程では、担当の先生が計画理論をやっておられる方でしたので、こうしたものに計画理論の考え方が加わり、今の自分の研究につながっていると思っています。

―計画理論とはなんですか?

そうですね、一般的には、都市計画などの分野がよくあげられるのですが、私は、住民同士の意思決定を扱っています。昔でいうと、幕府などの政府が全部決めてしまうため、住民が入る余地は全くありませんでしたが、現在では、市長や知事、行政が決めるというトップダウンに加えて、地域で議論しあいながら、物事を決めていくというボトムアップが重要になってきました。そうした意思決定のサポート、つまりはどういった方法が良いのか、ということについて研究する分野です。

―東日本大震災の際に何かされたことはありますか?

研究所として、文化財の面には関わりました。ただ、被災直後の場所に行くのは、地元の大学がやっていることの邪魔になりかねないため、こちらから積極的に関与するのではなく、あくまで「見守る」という立場をとりました。どちらかというと、自分たちは、被災地で得られた教訓を、まだ災害が発生していない場所、例えば京都や茨木に活かしていくということで貢献する立場なのかな、と考えています。

―OICの周辺地域との関わりについてはどのようにお考えですか?

OICについては、今のところ実施していません。これは衣笠キャンパス周辺の地域で実施した際の教訓なのですが、大学が地域に関わりすぎると、頼られてしまう、というか、本来自分たちがやらなくてはならないはずなのに、依存心が出てきてしまう。ですから、そうした点のバランスを取らなくてはいかないということもあり、なかなか難しいと感じています。

―図書館ではどのような資料を利用されていますか?

そうですね、自分の興味のあった分野では、政治学や経済、更には工学など、幅広い分野の本が必要でした。BKCから取り寄せたりもしましたね。立命館は総合大学ですので、かなり幅広い分野の本が手に入ります。それでも足りないものについても、他大学で論文を複写して送ってもらったり、CiNiiなどから論文をダウンロードしたりするなどして情報を集めました。これは役に立ちましたね。

―図書館に対して何か言いたいことはありますか?

図書館といっても、すべての資料を保管することはできないため、ある程度コアになる分野が必要です。そういう点から言うと、開館してまだ1年も経たないOICライブラリーは、ちょうど発展途上です。学生にとっては、自分たちの必要な本を置いてもらえるという、大きなチャンスではないかと思います。私も学生に、自分が必要な本を図書館で置いてもらうよう、購入申請を出すように言っていますが、そうすることで、政策の「コア」というのを作っていく必要があるのかな、と考えます。

―次に、学生の図書館の使い方についてお伺いします。

そうですね、OICライブラリーは、あまり館内を見て回る機会というのが無いため、詳しくは分からないのですが、学生が持ってくるレポートなどの参考文献を見ると、Webを出典とするものが増えていると感じます。学生の全体的な傾向としてですが、本を読まなくなっていると思います。確かに近年は論文もWebで手に入りますし、調べたい情報をすぐに調べられます。Webは非常に便利ですが、本というか紙媒体は、その周囲の情報も調べることができる。これが重要なことだと感じています。物事を考えるためには、それだけを見るだけではなく、全体を捉えることが必要です。

図書館の設備面についてですが、OICライブラリーは、設備が整った図書館だと感じています。しかし、学生がどこまで知っているのか、使い方が伝わっているのかということが課題だと思います。図書館側から、使ってもらう「きっかけ」を作る必要があるのではないか、と感じました。

―今までに影響を受けた本はありますか?

学生のときに影響を受けた本は、「創造の方法学」です。「研究」とは何か、ということを、とてもコンパクトに分かりやすくまとめられています。研究というのは、今まで誰もやったことの無いようなことを発見したり、提案したりするものなのですが、この本では、その手法、というより、もっと大切な「考え方」を説明されています。私の生まれる前に書かれた本で、本に書かれている手法をそのまま使うことはできないかもしれないけれど、考え方としては、今でもまったく同じだという点がすごいと思っています。私は博士課程前期課程時代に、研究方法に関する授業の参考文献としてこの本を紹介されたのですが、学部生にも十分読める本だと思います。

―最後に学生へ一言お願いします!!

立命館は総合大学ですから、かなりの本があります。そうした恵まれた環境を有効活用して欲しいです。インターネットはすぐに色々な情報にアクセスできますが、自分に興味のある情報だけしか集まってきません。つまりは部分的な情報の集まりなのです。それに対し本というのは、自分の知りたい情報を含めた、包括的な情報が書いてあります。ですから、本を読むことで、視野を広げ、全体を知ることができるのです。

また、学生には、与えられたものをただやるだけではなく、むしろよりよくするには「どうすればいいのか」という風に考え、つくり変えることができるよう、学生のうちから考えていくことを勧めます。立命館、特にOICでは設備が豊富にあります。その利用方法を考える、というのも、考えるトレーニングなのではないかと思います。「ルールで決められているから」というのは、思考停止です。そうではなく、ルールを変える提案をしていく、とにかく「考える」ことが重要です。考えることは疲れる作業ですが、それに慣れるということが、今後社会を変えていくためには必要だと思っています。まずは自分のことから。自分の学習や、サークルでも構いません。それを効率的にやるにはどうすればいいのか、といったことから、考えることを始めてみてはいかがでしょうか。

―ありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

『創造の方法学』、高根正昭、講談社、1979年
http://runners.ritsumei.ac.jp/opac/opac_details.cgi?lang=0&amode=11&bibid=TT40128285