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第77回:「大学のリソースを最大限に活用してコロナを乗り切ろう!」中鹿 直樹 先生(総合心理学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 森谷、河村、高木

2020.11.29

――中鹿先生の研究分野である、応用行動分析学や対人援助学について教えてください。

行動分析学は心理学の一分野です。人をはじめ、動物も含めて、その行動の原理を探るというのが行動分析の考え方になります。そして、動物で見出された原理が人間にも適用可能だということで、様々な社会的な問題の解決に行動分析の原理あるいは技法を使おうとするのが応用行動分析です。日本では歴史的な経緯もあって、特別支援教育や療育という分野でよく使われていましたが、最近では臨床の分野にも使われていますし、企業や様々な組織のパフォーマンスのマネジメントを行動分析の原理や原則、技法を使って問題解決をしようという分野にも取り組んでいます。そのような行動分析の全体の体系があって基礎的なあるいは実験的な分析をしている人もいれば、同じ原理・原則を社会的な問題に適用して解決しようという人たちが応用行動分析の人たち、あるいはその考え方ということになるでしょうか。対人援助学は言葉の通り、人を助けようということで、我々は行動分析学をベースにして「どう人を助けるか」ということに取り組んでいます。最近は障がいのある特別支援学校高等部の生徒さんに衣笠キャンパスの喫茶店で店員として働いてもらい、その就労支援を行っています。障がいがあるというと「〇〇ができない」というような見方をされることが多いのですが、その人のできることを見つけて、やったら楽しいなと思えることを環境との相互作用の中で見つけて支援していくなんてことをやっています。

――先生が行動分析学に興味を持たれたきっかけを教えてください。

私も皆さんと同じように立命館大学の文学部出身で、その頃も総合心理学部と同じように心理学概論という授業がありました。そこで学習という分野に興味を持って、教授にどんな本がいいか聞いたり、参考文献として挙げられていたものを見たりしていました。『行動理論への招待』という本には、ハトの弁別の実験が本の隅にパラパラ漫画になって載っているのです。そういった本にも工夫があるので面白くて、はまっていきました。

――先生が影響を受けられた本を教えてください。

1つは浅野俊夫先生が翻訳された『オペラント心理学入門』という本です。実験とは何か、実験が何を導いたりするかということが書かれてある本で影響を受けました。『知的生産の技術』という本にも感銘を受けました。国立民族学博物館の初代館長の梅棹忠夫先生が書かれた本で、レポートや論文を書くために、あるいは自分で何か考えるためにどういうことに気をつけたらいいかということをまとめた本で、院生の頃に読んでもっと早く読めたら良かったなと思いました。良かったらぜひ皆さんも。それに関連して、『Macintoshデータ活用術』という本には、コンピュータでデータを作っていくためにはどうしたらいいかっていうことが書いてあって、データの扱い方など様々なところで影響を受けていると感じています。

――先生が大学生時代にどのように図書館を利用していたかを教えてください。

図書館にこもって勉強していたこともあるし、私はSF小説が好きなのでSF小説を週末に借りて読む、なんていうことをしていました。あと、落語も好きなので落語の本も借りて読んでいました。今は無くなってしまった衣笠の図書館の話なのですが、3階の閲覧室は景色が良くて、近くのお寺さんの緑を眺めながら本を読んでいたような気がします。あと、文学部の文献資料室というところに色々な分野の専門書や学術雑誌があったので、そこに行って読んだりコピーしたりと、アカデミックな雰囲気に触れていました。

――大学生へのおすすめ本を教えてください。

1つは『理科系の作文技術』という本です。われわれが仕事で書く文章っていうのはどちらかというと理科系で、誰が読んでもわかるような文章を書くことが求められるので、一度読んでおくといいと思います。卒業論文を書くときに役立ちます。2冊目は『論文の教室』という本で、こちらもレポート作成にとても役に立ちますから、ぜひ手に取ってみてください。分野が心理学でピンポイントになるのですが『初めての心理学英語論文』という本もおすすめです。英語論文とは書いてあるのですが、難しい英語を求められるわけではなくて、むしろ心理学の論文を書くにはどうしたらいいかという内容になっています。好きな本だと『応用行動分析学から対人援助学へ』という本で、行動分析を使った対人援助について書かれています。著者の望月先生と武藤先生は以前立命館大学にいらした先生で、私が先ほど言った障がいのある生徒さんへの支援は望月先生と一緒にしていたので、私に色々教えてくださった先生の最後の本という感じです。

≪ここからはコロナウイルスと関連したお話を伺いました!≫

中鹿 直樹 先生

――現在、新しい生活様式が求められていますがそれに従わない人もおり、そうした人を社会的に罰してしまうような動きがあると思います。このような罰をなくしていくにはどのようにしたら良いでしょうか。

まず、人を罰するというのは様々な弊害を生むので使わない方がいいというのはよく言われています。でも、人を罰するという行動は即時的に目の前の人の行動が変わるので、誤解を恐れずに言うと強化されやすいです。だから、そういう行動っていうのは出やすい、残りやすい可能性はありますね。知識で解決するわけではないのですが、罰を使っても問題は解決しないということを知っておくことは大事かもしれません。我々の社会ではどちらかというと罰を使うことに親和的じゃないですか。日本の組社会は人を褒めるよりもむしろ罰する方向で人の行動をコントロールしようとする傾向が強いように思います。それはおそらく世代とともになくなっているとは思うので、それを少しずつだけど進めていくっていうのが一つの解決策だという気はします。私自身答えはすぐに出せないですけど、行動分析の学会のホームページでは「新型コロナウイルスの影響下でどう動くべきか」ということに取り組んでいる研究もあるようです。

――これから徐々に対面授業も再開していきますが、一人一人が自覚を持ってコロナウイルスに気をつけて生活するにはどのような呼びかけが必要でしょうか。

これも色々な答え方があると思いますが、一つは自覚をもつように、とよく言われるのですが、自覚と言うときはその行動が改まっているかどうかだと思うので行動が変われば良いわけです。極端に言うと、コロナウイルスなんて怖くない、と言っている人がマスクをして手洗いもして人混みへ行かないのならそれでいいわけです。だけど、コロナウイルスに気をつけましょうと言いながらマスクもしないで人混みにどんどん突入していく人は自覚があるのかということになるので、その辺りの介入をどうするかっていうのは一つの問題だと思います。あと、我々が仕入れる情報って悲観的なことが多いですよね、感染者が増えましたとか。それも大事な情報だけど、できればもう少しポジティブな結果を知りたいです。私たちがステイホームをしたことで感染者が減ったとかいうように、そういうフィードバックでうまくいくこともあるので、我々の言葉で言うと「正の強化」を、我々の行動がどういう結果に繋がっているのかということをポジティブな形で見せてくれるような仕組みがあれば我々の行動も少しは維持されると思います。だけど、コロナウイルスってもちろん目に見えないから、対応しても対応しなくても結果事象はすぐには動かないですね。多分それが感染症対策の難しいところで、もし手に黒い点がついていて洗ったら落ちるウイルスであればみんなできるでしょうけど、そうはいかないので手洗いも雑になったりする。最近だと、アプリとか、手洗いのスタンプとかあるじゃないですか。そのような工夫が一つ一つ積み重なっていけば良いのかなという気がします。

――オンライン授業の影響により、今まで大学で勉強していた学生が家で勉強をする機会も増えると思います。そうした学生が家でもやる気を出すにはどのようにしたら良いでしょうか。

行動分析での一般論ですが、例えば図書館に行ったら勉強しやすいっていうのは図書館が弁別刺激になって、そこで勉強する行動が強化されるという刺激性制御をうまく働かせるような仕組みになっています。自宅だと遊ぶのも寝るのもご飯食べるのも勉強するのも同じような環境だから、いわゆる切り替えが難しい。だから少し工夫をして、勉強するときは普段見えている物が見えないようにして、勉強の時だけ見えるような物をかざすようにするとか、明確な手がかり刺激を入れるといいのかもしれません。あと、これは行動分析ではないけどオンライン授業だとみなさん一生懸命見るから余計疲れるのだと思うんですよ。今までだったらうまく気を抜いているとか、適当に聞き流すというのができなくなってしんどくなるので、自分なりのリズムを作っていければ良いと思います。ちょっと気を抜いて、気楽に授業を聞くくらいでも良いんじゃないかなと思いますけどね。あるいは勉強したら自分にご褒美をあげるとか、ご褒美が随伴するようにするなんてことをうまく作っていくと良いかもしれません。ただ、何度も言うけど、あんまり生真面目にやり過ぎるとしんどくなるから。頑張って乗り切りましょう。

中鹿 直樹 先生

――最後に、学生へのメッセージをお願いします。

新型コロナウイルス対策で色々なことが大変だと思いますが、自分のことをマネジメントして、適度にリラックスをしてうまく乗り切って欲しいです。あと、よく授業で言っていたのですが、本だけじゃなくて、パソコンやインターネットの環境とか、様々なデータベースもそうだし、かつ大学のいろんな施設もそうだし、教員も含めて、言ってしまうと大学っていうリソースの一つなので、本を利用するかのように教員も利用してしまえば良いと思うんです。教員を利用できるのは大学生の特権というか権利の一つだと思うので、うまく使ってください。大学の教授ってしゃべりたがりなので1聞くつもりで行くと10くらい返ってくることもあるくらいだけど、色んな先生がいるのでぜひ大学の先生に臆せずいろんなことを話しかけて、色んなことを聞いてみると専門学習や研究の役に立つかもしれないし、大げさなことをいうと人生の役に立つかもしれません。ぜひ教員も含めて大学の環境をうまく利用してください。

中鹿 直樹 先生

今回のインタビューは、感染症対策のためzoomにて行いました!
なお、今回ご紹介いただいた本のうち、Facebookにて掲載しきれなかった本についてはOICライブラリーの特集本コーナー脇に掲載しております。こちらも是非ご覧ください!

今回の対談で紹介した本

『理科系の作文技術』木下是雄、中公新書、1981年
『論文の教室:レポートから卒論まで』戸田山和久、NHK出版、2012年
『初めての心理学英語論文』高橋雅治、北大路書房、2013年
『応用行動分析から対人援助学へ』望月昭・武藤崇、晃洋書房、2016年