授業レポート#02

映像制作で養う新しい「視点」

映像制作のおもしろさと影響力を体感する

映像メディア実践入門 (GV)

いまやスマホが一台あれば、誰もが簡単に動画を撮影し、おもしろい映像を作ることができる時代。身の回りや街中にもありとあらゆる映像があふれています。そうした映像はいったい私たちに何を伝え、どのような影響を与えているのでしょうか?「映像メディア実践入門」では、企画から制作を通して映像に潜むさまざまな意図やテクニックを学習。映像の作り手となってそのおもしろさ・楽しさとともに映像メディアの影響力を体感し、映像を見る多角的な視点を養います。

映像やアニメーションは
どのように作られるのか?
ゾートロープで原理を知る。

「アニメーションは、どのような仕組みで作られるのか? 実際に自分で作って原理を知ろう」

そんな課題から始まった「映像メディア実践入門」。1、2回生を中心に文系・理系を問わず多様な学部・学年の学生が受講し、ゼロから映像制作を学びます。

最初の3回は、座学とグループワークを通じて映像メディアをめぐる理論や基本的な映像制作のテクニックを学習します。まず「アニメーションの源流と原理」について講義を受けた後、学生に与えられた最初の課題は、アニメーションの原型といわれるゾートロープ(回転のぞき絵)を作ることでした。

「ホントに動いた!」

見よう見まねで絵を描き、初めてゾートロープを作った学生たち。自分たちが描いた絵が動き出すと、感動の声があがりました。

ゾートロープは、少しずつキャラクターの動きを変えたり、形を変化させた12枚の絵をつなぎ合わせてクルクル回すと絵が動いているように見える仕組み。原理は単純だけれど、描き方によって、まるで生命を得たように生き生きと動くこともあれば、ぎこちない絵の連続のまま終わってしまうこともあるから不思議です。

何をどのように描いたら、おもしろい動きを表現できるか。学生たちはグループで話し合いながらストーリーや動きを考え、絵を描いてゾートロープを完成させました。

続く第3回の授業のテーマは、テクニックを学ぶこと。ストップモーションやマルチスクリーンといった基本的なテクニックについて学んだ後、実際にストップモーションアニメーションの制作に取り組みます。

「物を生きているように見せる」のが課題。学生たちはスマートフォンにコマ撮り動画制作のアプリケーションをダウンロードし、1時間でアニメーションを制作しました。

「いまやスマホが一台あれば、簡単に動画を撮影し、編集することもできます。しかしだからこそ何を作るか、どう見せるかに作り手の発想や技術が如実に表れます」と授業を担当する増田展大講師は説明します。学生たちはそれぞれが持ってきたキーホルダーや人形からストーリーを発想。人形の動きを真上から撮影してテレビゲームのような動きを表現するなど、グループでアイデアを出し合いながら表現方法を試行錯誤し、アニメーション制作のおもしろさ、むずかしさを体験しました。

映像表現のテクニック 「ストップモーション」の作例

身の回りにあふれる映像。
「制作者の目」を通じて
映像が与える影響を知る。

「私たちは日々、ありとあらゆる映像を見て生活しています。テレビや映画、インターネット上にあふれる動画コンテンツはもちろん、街に出れば、動画広告、交通の案内表示などさまざまな映像が目に飛び込んできて、知らないうちに私たちにさまざまな影響を与えています」と増田講師。「映像メディア実践入門」で映像制作に取り組む理由をこう語ります。

「自らが映像の作り手になることで、日頃目にする映像がただ楽しいかどうかだけでなく、どのような意図で作られているか、また見る人にどのような影響を及ぼしているのかを実感してほしい」。「制作者」の視点を養うことで、身の回りにあふれる映像をそれまでとは違った角度から見ることができるようになるのです。

第4回以降は、グループに分かれていよいよ映像制作に挑戦します。まずはターゲットの設定から。誰に向けて映像を作るのか、「家庭・生活向け」「大学・教育向け」「社会・公共向け」の3つから選びます。さらに先に挙げられたテクニックのどれか一つを取り入れて最長3分間の映像を完成させるのが課題です。

グループでディスカッションを重ねて構想を練り、テーマやストーリーを考案し、中間発表に臨みます。原稿やスライドを用意して説明するものの、「テーマと映像がマッチしていないのでは?」「本当に構想通りの映像を撮影できるの?」など、発表を聞いた教員や学生からは次々と質問や厳しい意見が投げかけられます。そうした客観的な意見を聞いて自分たちの計画を見直し、構想を固めたら、いよいよ撮影開始です。

教室を飛び出して映像を撮影。
編集や画像処理を加えて
完成を目指す。

学生たちはスマートフォンを手に教室を出て、キャンパスで映像を撮影。タブレットやパソコンに取り込んで編集したり、画像処理を加え、映像を制作していきます。ただし高価な機材やソフトウェアを購入することなく、手持ちのデバイスや身の回りの素材だけで作成することを目指します。

雑誌から世界中の人や風景の写真を切り抜き、それらを組み合わせて世界を旅する映像を作ったり、ミニチュアの自動車やフィギュアを使ってコマ撮りアニメーションを制作したり、各グループがさまざまな工夫を凝らします。

「ロゴ作成の無料アプリを使って格好いいタイトルバックを作るなど、学生自ら必要に応じてさまざまな道具を応用して映像制作に取り入れています」と増田講師。「どういう映像を作るか」「どう見せるか」。画像処理や映像テクニックは、本当にターゲットに「響く」効果をもたらすのか。考えながら撮影を進めていく必要があります。

インスタグラムの影響!?「映像」というと横長の画面だと思い込みがちですが、スマホの縦長の画面で撮影する人が多くてびっくり!「新しいメディアの登場が、映像のあり方も変えている。そんな現状を目の当たりにしました。

辻 俊成さん ES
(Educational Supporter)
辻 俊成さん
映像学部4回生

スマホで映像アプリをダウンロード。視聴者に「響く」映像を作れるかはアイデアと使い方次第。

映像制作を通じて、
組織で強みを生かして
力を発揮するすべを体得する。

「映像制作のもう一つの狙いは、グループワークにあります。シナリオを考える人、撮影方法のアイデアを出す人、あるいはプレゼン用の資料を作ったり、発表を担う人。映像制作を通じてそれぞれがグループの中で自分の役割を見つけ、責任をもって担当しているかどうかが評価されます」と増田講師。

グループで一つの作品を作り上げるには、互いの協力が欠かせません。時には意見がぶつかって思うように進まないこともあります。自分の意見を相手に理解してもらうにはどうしたらいいかを真剣に考えたり、あるいは相手の意見に耳を傾けたり、組織の中で自分の強みを生かして力を発揮するすべも体得していきます。

最終回は、完成させた映像の発表とプレゼンテーション。映像作品としての完成度はもちろん、与えられた課題をふまえ、効果的な応用を行えているか、見る者を惹きつけられているかなどが学生同士の間で厳しく評価されます。またプレゼンテーションも十分な調査に基づいて全体が構成されているか、聞く人に十分アピールできているかなど、説得力やパフォーマンスが問われます。

映像を見た教員や学生からは、作品の企画意図や映像技術について次々と意見が飛び、活発な議論が交わされました。時には制作したグループが想像もしなかった応用方法について他の学生から提案されることもあります。

だれもが簡単に映像を制作できるようになったけれど、「人にメッセージを伝える」という観点から見た時、経験の差は短期間では埋められないように感じました。安直にテクニックを伝えるのではなく、「考えるポイント」、「議論のきっかけ」を提供できればと思って、アドバイスをしました。

辻 俊成さん ES
(Educational Supporter)
辻 俊成さん
映像学部4回生
映像メディア実践入門 SHOWCASE
「Eye Navi」

「ながらスマホ」の防止を単に啓発するのではなく、新たなアプリで解決することを提案した作品。スマホ画面と現実世界、BGMがシンクロすることによって、登場人物が危険を回避していきます。こだわりをみせたアイコンのデザインを評価する意見もありました。

「Beyond Borders」

留学生にうまく声をかけることのできなかった主人公が、単調な生活を飛び出して国際交流をサポートするBeyond Borders Plazaへと飛び込むことに。刺激のない日常生活が白黒で示される一方、想像上の華々しい海外生活はカラフルなストップモーションで、リズミカルに描かれます。

「DeliveRits」

お昼時の学生食堂の混雑解消に向けた提案。お弁当の配達を学生たち自身で効率的にシェアリングする様子が、マルチスクリーンによって表現されています。ディスカッションでは、実用化を望む声も多数上がりました。

「さまざまな角度から指摘を受け、新たな気付きを得られるのが、プレゼンテーションやディスカッションのいいところです。こうした機会を通じて映像を見る多角的な視点が養われます」と増田講師は言います。

映像メディアの普及によって、人々の考え方や行動、ビジネスのあり方も変わりつつあります。数字や文章を睨みながら一人で考えるのではなく、ホワイトボードに図や絵を描いて全体を俯瞰し、次々に書き加えながら議論や思考を深めていく。そんな光景も、学校やオフィスでよく見られるようになりました。

「全体を視覚的に捉えて考えを深めたり、その場にいる全員の思いや考えを共有したり、柔軟な思考や活発な議論を生み出す上でアートやデザインの重要性が指摘されています。映像制作を通じてこうした素養を磨いてほしいと願っています」と増田講師。いわば映像制作を通じて社会で生きる「視点」を培う。それが「映像メディア実践入門」のおもしろいところです。