体内時計(概日時計、生物時計) Circadian Clock 

生物は、地球の自転周期である24時間を測る機能を備えています。私たち人間だけでなく、動物、植物、そしてバクテリアでも、時計によって一日の生活を調整して生きています。体内時計がいかに生物の生活を豊かにしているかを理解したいと考え、体内時計をもつ最も単純な生物であるシアノバクテリアを用いて、そのしくみを明らかにするために研究しています。

地球上にすむほとんどすべての生物は、24時間周期の昼夜の環境変化に合わせて生活しています。生命は細胞内に時計をもち、遺伝子発現、生理的反応に24時間の振動、概日リズムがみられます。この時計を体内時計(概日時計、生物時計)とよびます。私たちは、シアノバクテリアの体内時計システムの解析を通じて、生命が地球の自転周期を細胞内に記憶している仕組みを解き明かそうとしています。

光合成原核生物であるシアノバクテリアは、体内時計としての性質が備わった最も単純な生き物です(1)。以前は、バクテリアに体内時計があるとは考えられていませんでしたが、研究が進むにつれ、その精緻な時計の仕組みには驚くべき発見がなされてきました。3つの時計遺伝子kaiA、kaiB、kaiCが1998年に発見されました(2)。kaiは回転の「回」から命名されました。さらに、2005年には試験管内での時計再構成系が発見されました(3)。これは、3つの時計タンパク質とATPを試験管の中で混ぜるだけで、24時間のリズムが発生するという驚くべき発見でした。このリズムは、細胞がもつ時計としての基本性質を備えていて、体内時計研究分野のみならず、生命科学、化学・物理分野からも注目されています。

当研究室では、シアノバクテリアの3つの時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCによる試験管内の概日時計再構成系を用いて、体内時計のしくみを明らかにすることを目指しています。試験管の中で、24時間のリズムを発生するタンパク質はKaiタンパク質の他に知られていません。そんなユニークな実験系を使って研究を進めています。

中心振動体であるKaiCは、2つのATP分解酵素(ATPase)からなります。ATP依存的な六量体を形成し、2つのリングが重なったような構造をしています。時計であるKaiCもATPをエネルギーとして働いていますが、時計が使うエネルギーは驚くほど小さいことがわかりました。さらにKaiCのATPase活性が24時間という周期長を決めています。この温度補償された極めて弱いATPase活性が時計の速さに比例することは、概日リズムの発生機構の基盤がATPaseにあることを意味しています(4)。

(1) Kondo et al. PNAS 1993
(2) Ishiura et al. Science 1998
(3) Nakajima et al. Science 2005
(4) Terauchi et al. PNAS 2007

Cyanobacteria are the simplest organisms that exhibit circadian rhythms. The three clock genes kaiA, kaiB and kaiC are essential for circadian clock activities in the cyanobacterium Synechococcus elongatus PCC 7942 (Ishiura et al., 1998). The circadian clock of Synechococcus is currently the solo circadian system that can be reconstituted in vitro. Mixing of the purified KaiA, KaiB and KaiC with ATP and incubating the mixture at 30ºC result in stable oscillations in the phosphorylation state of KaiC for many days (Nakajima et al., 2005). This oscillator has been analysed as a model of a self-sustaining biological clock and provides a unique model for sub-molecular studies of biological clocks.

KaiC is a double-domain adenosine triphosphatase (ATPase) consisting of an N-terminal domain (CI) and a C-terminal domain (CII). Further biochemical studies revealed an extremely low but temperature-compensated ATPase activity of KaiC that correlates with the circadian frequency (Terauchi et al., 2007). The process by which the KaiC ATPase defines the frequency is key to understanding the circadian pacemaker.

光合成生物の環境応答 Adaptation in photosynthesis microbe

シアノバクテリアは、地球上の様々な環境下に生息しています。適応能力に優れたシアノバクテリアの環境応答の仕組みを明らかにしたいと考えています。例えば、光環境はシアノバクテリアにとって極めて重要であり、様々な光応答機構が細胞内に存在します。
また、シアノバクテリアには水田や河口の泥の中など嫌気的な環境で生育しているものもいます。このような低酸素環境での適応機構の一端も明らかにしたいと考え研究を進めています。バクテリアの運動に関わる分子機構解析も進めています。

光合成 Photosynthesis (浅井)

光合成は太陽光を化学エネルギーに変換する多段階の光化学反応です。30億年以上も前から存在しており、地球上の全ての生命を支える最も重要な生命活動です。人類は未だこれを超える光エネルギー変換システムを獲得できていません。
本研究室では、光合成の反応メカニズムや進化的な成り立ちを研究しています。モデル生物として原始的な光合成生物であるシアノバクテリアや光合成細菌 を利用し、光合成に必要な色素やタンパク質の構造と機能の研究、太古の光合成を再現する実験進化学的な研究を行っています。

シアノバクテリア Cyanobacteria

シアノバクテリアは、光合成をする原核生物です。ラン藻(藍藻)ともよばれ、約27億年前にはすでに地球上に存在したといわれています。シアノバクテリアは地球に酸素をもたらし、その後の生命の進化に大きな影響を与えました。またシアノバクテリアは長い年月をかけ様々な環境に適応して生き延びる戦略を身につけています。現在の植物がもつ葉緑体の祖先は、シアノバクテリアです。

形質転換が容易で全ゲノム配列が決定されているシアノバクテリアが研究の現場ではよく用いられます。光合成研究などには Synechocystis sp. PCC 6803が、時計の研究にはSynechococcus elongatus PCC 7942が使われることが多いです。



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