研究内容


 脳のなりたちや機能や病態を、神経細胞の性質を観察することによって理解することをめざしています。

 私たちが生命をつないで行くために必須な活動や、「ひと」としての人格ともつながる高度な精神活動は、精緻に構築された脳神経回路に負うところが大きいと考えられます。 細胞が長い神経突起をのばし、標的となる細胞と接着すること(シナプス結合)で、神経回路が編み上げられて行きます。
 われわれのからだが形作られて行く過程で生じた神経細胞(ニューロン)が、突起を伸ばすことで神経回路形成が始まります。まず突起誘引・反発作用を示す物質が働いて突起誘導が進行し、つぎに出会った突起同士が細胞接着分子で結合することで完成します。このようにシナプスの細胞膜同士が鍵と鍵穴の関係で接着することで神経回路形成のプログラムが実行されるわけです。私たちは、鍵と鍵穴にあたる細胞接着分子、なかでもカドヘリンの働きを中心に、シナプスや神経回路のなりたちを観察しています。
 神経回路が成立したあとでも、シナプス形成過程の一部をくりかえすことで、シナプス結合の強化・抑圧やつなぎかえが起きます。このようなメカニズムが記憶や学習、さらには薬物依存やリハビリで得られる機能回復といった、われわれの脳が持つ豊かな適応力の基盤となっていることが想像されます。われわれは、これらの過程にカドヘリンが関与する可能性を検討してきました。研究を進める中で、カドヘリンが思いのほかダイナミックにシナプスの生理機能にかかわることがわかりつつあります。
 またカドヘリン遺伝子の異常は、自閉症などの疾患感受性に関連しています。このようなシナプスの接着関連分子の動態を、新たな治療標的としての期待を込めて、病態や薬物治療の中で観察して行きたいと考えています。