イノベーションの実践

2015年12月5日(土)

株式会社島津製作所本社
イノベーションの実践
濱田 初美 教授
訪問先
旧豊郷小学校、伊藤忠兵衛旧邸(伊藤忠兵衛記念館)

伊藤忠商事のDNA

 第2回目の訪問先は、三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)で有名な近江商人を源流とする総合商社:伊藤忠商事株式会社の創業の地(生家)を訪問した。初代伊藤忠兵衛が暮らし、二代伊藤忠兵衛が生まれた所である。院生によるレポート抜粋から、当日の様子をご紹介する。

 歴史のある企業は大抵素晴らしい社是や企業理念が存在する。しかしその理念は実践されてこそ意味がある。伊藤忠商事は正に企業理念に忠実に歩み、様々な戦略を実践し結果を出してきた企業と言えよう。今回伊藤忠兵衛記念館を見て感じたのが「生粋の近江商人魂の源泉」である。欧米人の中には貧しく見えるかもしれない館であるが、その佇まいは質素ではあるが実に効率的にできている。どの部屋も風通しが良く全体を見渡しやすい構成となっており、正に社会全体を見渡す企業風土はここから生まれたのが理解できる。

 他社とは異なる一本筋の通った企業理念は歴代の社長が各時代に様々な形で発信されてきたことで守られてきたと言える。同社の強みは「オーナーシップの継承」と「人的資産の有効活用」である。オーナーのみならず、社員一人ひとりの「個」の強さを発揮できる環境作りにある。そしてステークホルダーやマーケットの持続的成長も視野に入れた事業活動、まさしく「三方よし」の精神が今日の企業風土を作り上げたのは言うまでもない。

 またこの理念を150年以上継承できたのは「不易流行」を核とした事業戦略にある。例えばリスクの事業分野ごとの見直しは的確であり、近年の非資源分野の拡大に見られる事業ポートフォリオの調整は過去の繊維商社時代の失敗体験を糧にしてこそ可能であったと考察できる。ここにきて同社の業績は順調に推移しており、競合他社に打ち勝ちリーダー企業としての地位を確実なものとしていく事と予想される。現在の戦略については非の打ち所が無いというのが妥当であろう。

 ではこれからの10年を見据えてどのようなリスク対策が必要であろうか。チャイナショックや中東問題などこれからバブル崩壊を超える経済環境を引き起こす可能性がある問題が多く存在する。これらのリスクに対応すべく様々な戦略は各社が検討しているであろう。しかし商社同士が手を組んで大型リスクに対応できる環境づくりは現状困難である。競合との競争原理が働くからこそ成長があるのであり、プロジェクトで手を組むことはあっても、規模的に限定的なものとなるのはいわば当然である。しかし緊急性の高い大きな景気変動や戦乱などに即時対応できる連携的なBCPやグローバル戦略を準備しておく時期に来ているのではないだろうか。そこで指揮をとる企業はまさしく「三方よし」を実践してきた伊藤忠商事しか無い。各社から人選を行い、包括的に戦略を策定していくにはファシリテーターの存在が重要である。その役割をまずは伊藤忠商事の社員が担当する。そして「三方よし」の理念を浸透させていく中でファシリテーターを各社持ち回り制に移行する。そして日本の商社全体にも伊藤忠兵衛の理念を少しずつ理解させていくことで、日本全体の国力向上につなげる事が可能であると考える。欧米や中国などの大国に対する日本の威厳を取り戻し、これから起こりうる動乱に対応すべく準備は今から行っておく必要性が高いと考える。(C・K)