ゲストスピーカー

2015年12月5日(土)

イノベーションの実践
濱田 初美 教授
ゲスト
伊藤忠商事株式会社 I.H.G.Sグローバル人材開発部
シニアアドバイザー
遠藤 和人

企業DNAの浸透と継承

講義風景1 立命館大学経営大学院(RBS)は、伊藤忠商事の遠藤和人氏を招聘し、イノベーションの実践の特別講義を同社創業の地(滋賀県犬上郡豊郷町)で行った。当日の内容を出席した院生のレポートより紹介する。

 1858年、伊藤忠商事は伊藤忠兵衛氏により豊郷町で創業、まもなく創立160年を迎える。創業者は、九州へ“持ち下り商い”の際に福岡の浄土真宗万行寺の高僧から仏の教えを受けられ「商売は菩薩の業」との言葉を残されている。商いを通じて社会貢献を提唱、これが近江商人の精神として広く知られる「三方よし」にも繋がる。「革新と慈悲」の心を持って商売に取り組み、初代の意思を引き継ぐ二代目忠兵衛氏が「遺訓五箇条」を残されている。紅忠で働く社員が常に守るべき価値観が同社の礎となり、その精神が現在の経営陣にも脈々と受け継がれている。このことこそが、現在の繁栄を裏打ちすると感じられた。

講義風景1  伊藤忠商事は2016年3月期の純利益で大手商社5社中トップに立つ見通しである。想定よりも1年前倒しとなるようだが、虎視眈々と奪首を狙っていた。資源分野では、電力や製鉄に大口顧客を持つ三菱商事や三井物産に比べると力不足が否めないため、非資源分野に経営資源を集中させると同時に、管理を徹底して赤字事業を減少させてきた。これらが連続最高益に繋がり現在の原動力となっている。
 商社を取り囲む経営環境変化を敏感に察知し、着実に戦略を実行に移してきたからこそ、市場の暴落というダウンサイドリスクも乗り切り、競合他社が苦境に陥る中で、逆風をチャンスに結びつけることができた。岡藤社長の洞察力がいかんなく発揮され胆力を持って実行、社員に影響力を伝播した結果だといえよう。

 豊郷町を訪問するにあたり、事前にホームページや文献等を調べ、伊藤忠商事が丸紅と袂を分けた企業であることを再認識し、今でも何か繋がりがないかと調べていくと、伊藤忠丸紅鉄鋼㈱に辿り着いた。通称「紅忠」と呼ばれる伊藤忠丸紅鉄鋼、調べている際には、特段、気にも留めていなかったが、遠藤部長のお話を拝聴し、初代伊藤忠兵衛が大阪に開店した繊維問屋の社名が「紅忠」であったとお聞きし、声をあげそうになる自分がいた。
 これぞ、まさしく将来への布石ではないか。伊藤忠兵衛記念館から豊郷駅への帰り道に、遠藤部長に総合商社の再編について、率直な質問をさせていただいた。やはり、5大商社がそれぞれ思惑を持っており、競合の動向をよくみているとのことだった。
 私は、当期純利益トップに立ったこのタイミングにおいて、再編への先鞭をつけるべきではないかと考える。各社の動向を伺っている中であるからこそ、いち早く動きだすことにより、競争優位性を得ることができるのではなかろうか。
 伊藤忠と丸紅の鉄鋼製品分野を統合して設立された鉄鋼専門商社である伊藤忠丸紅鉄鋼が設立15年を迎えシナジー効果を発揮しているのと同様に、伊藤忠本体と丸紅本体との統合も、同じくシナジー効果を発揮できるものと想定する。「紅忠」との通称が一般的になっているのも、www.benichu.comというドメインが既に獲得できているのも、統合へのハードルが低く、他の商社の統合よりも効用が発揮されるものと考える。

講義風景1  現地での講義終盤で、岡藤社長が制定されたCorporate Messageに感銘を受けた。「ひとりの商人、無数の使命」、変化する顧客や社会からの要請に応えることで、「商い」の光に広がる豊かさを提供する。
この“商”の言葉を様々な字に読み替えることで、自らに数かぎりない使命が与えられていると感じ、様々な場面で心の糧とすることができる。
 初代、二代目伊藤忠兵衛、そして初代夫人から脈々と受け継がれる近江商人の基本理念と、伊藤忠商事内で発展し続けてきた企業理念を歴代の経営者が咀嚼・反芻し、また自らの口で社員にメッセージを発し続ける。ここに私は伊藤忠商事の「真の強さ」の根源を見た。(R・K)

以上