ゲストスピーカー

2018年07月22日(日)

企業分析
奥村 陽一 教授
ゲスト
P&Eディレクションズ 代表取締役
島田 直樹

戦略分析の方法

 7月22日(日),戦略コンサルティングファーム:P&Eディレクションズ代表取締役の島田直樹氏を迎えて,「戦略分析の方法」と題してお話を伺いました。

講義風景1  VUCAの時代S&P構成企業の平均年齢が年々低下しており,今では10才になっています。現状維持では企業成長が難しい時代だということです。MITスローン校のクスマノ教授は,既存事業を深化と新規事業の探索を同時に追求する「両利きの経営」が必要だと言います。

 まず既存事業の変革ですが,アンゾフの成長マトリスク(製品軸・市場軸)という従来の基軸に加えて,今日では第3軸として「売り方・儲け方」(=ビジネスモデル、特に代金の取り方)に着目することが有効です。例えば食用油を売っている会社なら,家庭で天麩羅を揚げなくなったことへの対応だけでなく,「新鮮な油使い放題」(月額会費制)というサービスをコンビニに提供するなど,思い切った「売り方」に転換するなどの方法があります。近年、既存事業の深化を図った例としては,ゲーマーからファミリーに顧客軸を移した任天堂や,柿の種・ハッピーターンの製品軸を拡張した亀田製菓,伝統工芸品の多様な売り方を開発した中川政七商店などがあります。

 新規事業を創造するには,目の付け所,事業の立ち上げ,事業の育て方,心構えといった点で工夫が必要になります。例えば,単独で開業している整体院は街のあちこちにありますが,これを「KARADA FACTORY」として束ねて全国で350店舗も展開している企業があります。こうした多数乱戦状態の業界では,ブランド化と標準化・効率化・チェーン化を上手く組み合わせて企業成長を成功させることができます。新規事業の立ち上げ方にも工夫が要ります。凸版印刷では自らの強みを「ソリューション力」「加工技術」というような名詞ではなく,「彩る」という動詞で定義したおかげで,印刷にこだわらない新規事業の創造に成功しました。第3軸のビジネスモデルを考えてみることも重要です。既存事業のサブスクリプション(~し放題ビジネス)化を推進する,ZUORAという会社をご存じでしょうか。音楽聞き放題,動画見放題など,スマホではこのようなビジネスモデルが花盛りです。ゲームについては,フリーミアム(無料+プレミアム課金)という代金徴収法が支配的になっています。持続的な成長を遂げている企業は,差別化要因と標準化・効率化要因とを上手く掛け合わせたビジネスモデル(儲け方)を確立しています。また,隣地への進出を繰り返すアマゾンのようなピボット展開も,成功しやすいパターンです。

 このように自己革新と事業創造との両利きの経営を行うには,自社を客観的にとらえる眼が最も重要です。日本企業はもの造りへのこだわりが強すぎて,自社を客観視できていない経営者が多いように思います。

講義風景1  こうした戦略を体系的に展開するには,事業戦略,経営インフラ(制度・仕組み),知識創造,社員意識といった4つの要素を相互に機能させる必要があります。企業文化のベクトル合わせを行うためにはMVV(ミッション・ヴィジョン・バリュー)を確立した上で,さらに行動規範や社内用語集を作成しておくことが有効です。事業戦略のベクトル合わせは,「中期経営計画」が担っています。MVVと中計は,いわば成長のための「羅針盤」です。例えばアップルでは,すでに1988年にナレッジナビゲーターという「自社の21世紀像」を描いて公表しています。またセールスフォース・ドットコムという企業では,社長と社員が半分ずつプレゼンテーションを作成することになっており,できるだけ多く人の手垢が付いた計画づくりに力を入れています。方向性が定まれば次に重要なのが中計の実行ですが,それはPDCAとKPIが担保しています。これに個々人の目標と評価が結びついていたら理想的です。会社の力は結局,「個人の力の総和」と「組織力」の掛け算で決まるからです。組織力の水準はコミュニケーション力に規定されるので,そのために風通しの良い組織づくりに工夫を凝らすことが重要になります。社内用語集を活用して,言葉の定義をきちんとしておくことも重要です。このように4つの要素の機能を高め戦略を一気通貫で実行できる組織をつくることが,戦略の体系的展開を成功させる上でのカギとなります。

 講演では,島田先生が今春執筆された『経営戦略 理論と実践』(丸善プラネット)の第2~4章のエッセンスを豊富な事例やパターンを通じて論じていただきました。質問にも答えていただき,戦略分析を行う上で多くの示唆を得ることができました。(了)