RBSセミナー

第12回RBSセミナー「『シェア』が変えるこれからの働き方、暮らし方、ビジネス」

日時:
 2021年1月16日(土) 13:30~16:30
会場:
 立命館大阪梅田キャンパス
ゲスト講師:
 株式会社アドレス 代表取締役   
 佐別当 隆志(さべっとう・たかし) 氏
 
  株式会社日本総合研究所 調査部 主席研究員   
 藻谷 浩介(もたに・こうすけ) 氏
コーディネーター:
 立命館大学ビジネススクール
 牧田 正裕 教授

2021年1月16日(土)、「『シェア』が変えるこれからの働き方、暮らし方、ビジネス」をテーマに、第12回RBSセミナーが開催された(オンライン開催)。
ミレニアル世代を中心に「シェア」が急速に普及する中、今回のコロナ禍はどのような影響を与えるのか。いや、それよりも、「シェア」という考え方は社会の方向性やビジョンを指し示しており、「シェア」にこそ、これからの働き方や暮らし方、そしてビジネスを考える上でのヒントがあるのではないか。ビジネススクールのセミナーらしからぬテーマを設定し、佐別当氏とともに日本を代表するエコノミストである藻谷氏にお声がけしたのは、こういう問題意識からであった。

experience-seminar-190907-02 「シェアリングエコノミーが変える、働き方、暮らし方」と題する佐別当氏の講演は、まず、同氏が夫婦と娘の3人のための家族フロア、シェアハウスとゲストハウスのフロア、共有リビング・キッチンがひとつになった一軒家「Miraie(ミライエ)」に暮らしており、ここでアーチストなど様々な人たちとの交流が繰り広げられていることの紹介からスタートする。
佐別当氏は、今回のコロナ禍がシェアリングエコノミーの市場規模に与える影響はプラスとマイナス両面あり、民泊などの対面型サービスに対してはマイナスだが、オンラインで完結するサービスや外出回避につながる食事宅配等はプラスに動いており、十分に成長の余地があるとの見通しを述べた。そして、シェアリングエコノミーの拡大により、経済活動の主たるプレイヤーが企業から個人にシフトしていく可能性があるという。シェアリングエコノミーのもう一つの可能性は、それ自体が社会課題の解決を指向している点にある。例えば、各人が好きな時にスキルを提供して収入を得るという働き方は今後ますます増えていくであろうが、これにより多様な人たちが社会に参加するようになる等、SDGsの実現に向けて「シェア」は大きな力を発揮すると力説する。
ところで、佐別当氏は2018年12月に会社を設立し、定額制(月額4万円~)で全国どこでも住み放題の多拠点「コリビング」サービスADDress(アドレス)を展開している。「コリビング」とはシェアハウスとシェアオフィスを一つにした形態である。ADDressが目指すのは「都市か地方か」ではなく「都市と地方」に暮らすスタイルである。ADDressが入った地域では、「家守」と呼ぶ管理者がハブとなり、多拠点居住者と地域住民との間で交流が生まれているという。今まさにADDress により、都市と地方の人口をシェアする形で、全国に分散型の共同体を創る壮大な社会実験が展開されている。それは同氏の言葉を借りていえば、従来の観光でも移住でもない、「関係人口」の増大による「全国創生」の取り組みでもある。

experience-seminar-190907-03 次に「暮らしと仕事の『世界まちかど地政学』」と題する藻谷氏の講演は、可住地人口密度が高い日本などアジア諸国でコロナの感染が欧米より遅いのは、アジアでは空間を「シェア」する習慣が定着し、住み分けのノウハウを持っているからではないか、という興味深い持論から始まった。そして同氏は参加者に次のように問いかけた。「400年後に残っているものは何か? それは400年前からあった田畑、寺社、庭園など受け継がれ「シェア」されてきたもの。『シェア』が本当に広がっていくのか疑う人は、逆に『個人所有』が本当に当たり前なのかを疑った方がいい。道路は? 医療は? 教育は? 福祉は? 友人は?文化は? 言語は?…」。
藻谷氏のプレゼンテーションを要約しておこう。日本は、国際競争力が落ちたというが、海外からの金利配当で稼いだ結果、G20の中で経常収支はトップ3に入る(2019年)。にもかかわらず「不景気」感が漂っているのは、お金が「シェア」されず「所有」されていることによる。株価は高いが、内需は20年以上横ばい状態が続いている。日本では、現役世代の減少により、消費は増えない一方で、世界で最も工場の機械化・自動化が進んでしまった結果、生産は落ちていない。働き手が減り、企業が払う人件費の総額も減るために、現役世代をターゲットにした製品は値崩れしていく。カネ余りのなか、経済の制約条件はお金ではなく、国民が消費に使える「国民総時間」であるが、所有には時間がかかるため、所有せずに「シェア」する方が合理的になってくる。消費を引き出すトリガーとして集客交流はますます重要になる。旅行は食住の「シェア」であり、今後とも盛んになる。アフターコロナになれば、インバウンは必ず復活してくる。ただし、コロナ禍の教訓として、高単価で少数を相手にする高付加価値型のビジネスへの転換が不可欠となる。

通常とは異なるオンライン開催のため、参加者からの質問は少なかったが、参加者アンケートでは満足度の高さをうかがわせる感想が多数寄せられた。今回のセミナーは、「シェア」が決してオルタナティブなモデルではなく、ライフスタイルの変化に導かれる形で新しいビジネスの創造をもたらす大きな可能性を持っていることを、参加者に印象づけるものであった。「シェア」を切り口に、社会的課題の解決に向けたビジネスについて共有できた点で有意義なセミナーであったといえよう。

当日資料抜粋(佐別当氏)
当日資料抜粋(藻谷氏)