2009年1月12日

イスラエル-ハマス紛争に国際世論で人道的歯止めを

 立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長 安斎育郎

立命館大学国際平和ミュージアム館長    高杉巴彦

 イスラエルとパレスチナ自治区との間で激しい戦闘が続き、ガザ地区で多数の子どもや一般市民が傷つき、命を奪われている。着火すると骨まで熔かすという白燐弾も使われているとの情報もあり、戦闘はいっそう非人道的な様相を呈している。

 イスラエルとパレスチナの対立は根深く、深刻である。とりわけ、現在戦場の観を呈しているガザ地区は、1517年のオスマン帝国による支配以来、複雑な歴史を刻んできた。ナポレオンに率いられたフランス帝国の一時的支配を除き、第一次世界大戦までの400年の間、オスマン帝国が支配していたが、第一次世界大戦後は、新たに発足した国際連盟の承認のもとで、イギリスが委任統治体制を布いた。しかし、1920年代の一時的な沈静期を経て、1929年にはアラブ人の暴動で多数のユダヤ人が殺される事件が起こった。そして、1930年代から第2次世界大戦期にかけては、ユダヤ人が未曾有の受難の時期を体験し、第二次世界大戦後の1948年、国際連合のもとで、パレスチナの地にアラブ人を押しのける形でユダヤ人国家イスラエルが建国され、結果として多数のアラブ人が難民化した。イスラエルと周辺アラブ諸国との間に第1次中東戦争が勃発し、ガザはエジプトによって占領された。イスラエル建国で難民化したパレスチナのアラブ人は「パレスチナ解放機構(PLO)」を組織し、対イスラエル闘争を展開した。ガザは、1967年の第3次中東戦争によってイスラエルに占領され、多数のイスラエル人が入植した。その後、PLOは、ファタハの指導者ヤーセル・アラファト議長の下で、「反ユダヤ主義」から「多民族・多宗教共存国家の樹立」に向かい、1974年には国連オブザーバーの資格も認められ、PLOはパレスチナを公的に代表する機関として認知されるに至ったが、1982年のレバノン戦争でイスラエルの侵攻を受けた。87年末にはガザでのイスラエル人とパレスチナ人の衝突を機にインティファーダ(民衆蜂起)が起こったが、PLOは翌88年、「イスラエルと共存するヨルダン川西岸地区とガザ地区へのパレスチナ国家建設」へと転換し、パレスチナ国民評議会が独立宣言を採択するに至った。1993年、ノルウェーの仲介で、「イスラエルとPLOが相互に承認しあい、ヨルダン川西岸地区とガザ地区をパレスチナ暫定自治区とする」ことを定めたオスロ合意が成立、イスラエルとの間で「パレスチナ暫定自治協定」が締結され、ガザ地区は、パレスチナ自治政府の統治下に置かれることになった。ガザの治安はパレスチナ自治政府によって維持されているが、一方、航空管制権や沿岸航行権はイスラエルがもっているという変則的な実態となっており、1998年に開港したガザ国際空港はイスラエルによって破壊されるなど、緊張関係はその後も厳しく続いている。自治政府発足後も「ユダヤ人入植者保護」を理由にイスラエル軍が駐留を続け、しばしば空爆を行なった。2005年8月までにイスラエルはユダヤ人入植地を撤去し、すべての陸軍部隊をガザ地区から撤退させたが、過激派のハマスがパレスチナ自治政府の与党の座につくとイスラエルは態度を硬化させ、断続的な軍事緊張関係の果てに、2008年12月から2009年1月にかけてハマスのロケット弾攻撃と、イスラエル軍の大規模な空襲と地上侵攻という悲劇的な事態に発展した。

 対立する当事者は、それぞれの行為を正当化する。上に述べたように、紛争の背景には長い歴史的な事情がある。大局的には、多様性を容認する平和的共存の方向がめざされてきたとはいえ、歴史の中で刻み込まれてきた怨念の深みを埋めることは容易ではなく、常に一触即発の緊張を孕んでいる。両者の平和的共存を保証する国家関係の構築は、国連を含む国際的な共同関係の中で忍耐強く追求されるべきだが、その過程で対立する当事者が軍事的手段に訴え、結果として多数の一般市民や子どもたちを巻き込んで、その命を奪うような事態が起こることは何としても避けられなければなるまい。立命館大学国際平和ミュージアムが、「緊急ミニ展示:ガザの悲劇」を急遽企画したのもこうした思いからであって、一方の紛争当事者の立場から他方を糾弾ないし非難するためではない。日本国憲法第9条は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」ことを定めている。武力行使は、双方の対立感情をますます増長させ、事態を平和的に解決する道をいっそう遠のかせる。ハマスに対する支持が広がっていると伝えられていることも、暴力が平和を生み出さないことを示しているが、私たちは、攻勢を強めているイスラエルにも、「良心的兵役拒否」や「和平支持」の動きがあることを知っている。私たちは、国際世論を背景に武力行使を直ちに停止させ、和平プロセスが精力的に追求されるべきことを強く求める。

 上の通り、声明する。