企業が求めている人材像と、現実との間に隔たるギャップ。それを埋めようとする「たくましさ」こそが、現代を生きる社会人に必須の素養であると井上氏は語ります。国内有数のメーカーの人事担当者として重ねてきた経験をもとに、就活にあたってのアドバイスをお話しいただきました。

現在、企業を取り巻く環境は激しく変化しています。今後の経営の大きな流れとして重要といわれる3つのトレンドから見てみましょう。
まず、先進国から新興国へ事業展開がシフトしていること。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など、これから人口が増えて経済成長が見込まれる地域でのビジネスが重視されています。これは日本社会の少子化とも無関係ではありません。人口が減少して縮小していくマーケットでは生き残っていけず、世界に出ていくしかないという理由です。
次に、新たな消費者の出現です。インターネットが普及し、ネット通販の利用者が急速に増えてきました。また、日本では高齢化の進展によってシニア層のマーケットが拡大しつつあります。ビジネスのターゲットとして、彼らの存在がきわめて重要になっているのです。
最後に、環境保全に関わるビジネスの拡大です。環境問題への社会的な意識が高まり、地球にやさしい商品やサービスが強く求められるようになってきました。
このような変化に柔軟に対応し、難局を成長のチャンスに変えられる人、それがこのグローバル時代において企業が求めている人材像といえるでしょう。
こうした話をすると、果たしてわが子は大丈夫か、と心配される方がいらっしゃるかもしれません。確かに、弊社は激変する環境を生き抜いていくため、社員に以下のような人材を求めています。
常に問題意識を持ち、それを克服するために努力を怠らない人です。弊社の採用面接でも、これまでに何かトラブルを抱えたことがあるか、それをどうやって克服したか、経験を踏まえて語ってもらい、チャレンジする意欲を見せてもらうことがあります。
高度な専門知識やスキルを持つ人です。専門性そのものだけでなく、それをどうやって身につけたのかというプロセスもたいへん重要です。これまで何をどのようにがんばって取り組んできたのか、学生時代の積み重ねが大切になります。
高度な英語の力や海外経験の豊富さという文字通りの国際性というよりは、自分とは異なる価値観を持つ人とのコミュニケーションが上手な人です。また、将来に海外で働く意思があるかということも、企業によっては重要になります。
自分ができることは何かを考え、周りの人に伝え、伝わらなくても伝えようと努力し、信頼を得る人です。会社は人と人が集まって仕事をする場所です。多くの人に信頼される、その人と一緒に働きたいと思わせる人を企業は求めています。
礼儀作法や公共心などをしっかりと身につけている人であり、公私のけじめがついていて生活のルールを守っている人です。コンプライアンスの時代だからこそ、倫理観はとても重要な素養といえます。
ただし、これらのすべてを高い水準で兼ね備えている人など多くはいません。人材像はあくまで理想ですが、大切なのは、理想と現実とのギャップを埋めようと努力するバイタリティであり、この人なら将来ギャップを小さくできるだろうと思わせるポテンシャルです。
実際、入社後に満足して働いている人は、理想と現実のギャップを乗り越えようと頑張っている人です。自分の頭で考え、目標を明確に設定し、前向きに仕事に取り組んでいるような…。例えば、なかには内向的な性格の人もいるでしょう。それでも明るく振る舞おうと努力している人は、周りの人もきちんと評価してくれるもの。そうした努力を重ねている人は、充実感を持ってイキイキと働いていると感じます。
井上 直樹(いのうえ・なおき) 花王株式会社人材開発部門人材開発部長。1983年4月、花王株式会社に入社、人事本部能力開発部に配属。栃木事業場、和歌山事業場の工場・研究所の人事労務を経て、本社人事開発センター人事グループにて人事制度改革プロジェクトを担当。2000年より人事部門調査企画課長、人事部門人事課長を歴任し、2004年より人材開発部門人材開発部長に就任。組織開発・雇用採用・能力開発・報酬処遇・研修など人材開発に関わる全般を担当している。
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