工学博士。1968年生まれ。1993年京都大学大学院修士課程修了。2002年から同大学大学院地球環境学堂助教授。2003年から立命館大学COE推進機構特別招聘教授を兼任した後に現職。
趣味は、登山や社寺の拝観・ツーリング。京都市内を縦横無尽に走り回る。学生時代は、新旧の建築見学や、仲間と設計競技への応募で過ごす。文部科学省が重点支援するグローバルCOEプログラムに選定された「歴史都市を守る『文化遺産防災学』」推進拠点のリーダー。
 
 
Q and A
1995年の阪神・淡路大震災です。まちなみが、一瞬にして灰燼に帰してしまったのを目の当たりにして......(→続きを読む)
Q1

AERAでご紹介した研究を始められたきっかけは何ですか?

研究を始めたきっかけは1995年の阪神・淡路大震災です。地域にとって大切な木造の歴史的まちなみが、地震火災によって一瞬にして灰燼に帰してしまったのを目の当たりにし、文化と記憶の拠り所である文化遺産と歴史都市を、災害から守り次世代へと引き継ぐことの重要性を痛感したことが動機となりました。

Q2

今までに運命の出会いはありましたか?

まず京都大学での学生時代からの恩師、小林正美先生です。風土の自然水利で木造都市を火災から守る環境防災水利の考え方を通して、豊かな水と緑のある美しいまちは安全でもあるという哲学を教えていただきました。また立命館大学の土岐憲三先生には、NPO災害から文化財を守る会の活動を通して出会いがあり、京都市清水周辺地域での防災水利整備事業の実現化や、グローバルCOEプログラムの推進にもたいへんなご尽力をいただいています。

Q3

最近の気になるニュースは何ですか?

昨年お隣の韓国で起こった南大門の焼失や、中国の地震災害を始めとする、各地の文化遺産の被災のニュースです。一刻も早く実践的な対策を進めなくてはならないという焦りを感じます。

Q4

最近、何かオススメはありますか?

個人的な習慣ですが、月に1~2回程度山歩きに出かけています。新鮮な空気と美しい景観の中を無心になって歩くことで、気分も晴れ、体中が浄化される思いがします。山を下りた後のビールがおいしいので、ダイエットにはなっていませんが…

Q5

休日はどのように過ごされていますか?

たっぷり睡眠をとり、家族と過ごしたり、山歩きへ出かけたり、オートバイの整備をしたり、なるべく仕事を離れた時間を過ごすように心がけています。要するに「ぐうたら」しているというのが正直なところです。

Q6

先生が未来に残したいものは何ですか?

やはり先人達の記憶と文化が結晶となった文化遺産と歴史都市です。おこがましいかも知れませんが、今の私たちの創り出すものが未来の文化遺産として残るような仕事ができればと思っています。

Q7

院生に聞きました 先生ってどんな方ですか?

栗山直也さん
立命館大学大学院 理工学研究科 修士1回生
環境防災設計学(大窪)研究室所属

私は大学院から大窪先生にご教授いただいておりますが、先生を一言で表すなら「アクティブ」という言葉がピッタリではないかと思います。特に研究活動では、現地調査を重んじておられ、研究室外での活動がとても多いです。ここでは日常の学生生活では体験できないようなことを体験させていただき、毎回発見の連続です。常に学生の先頭に立っておられる大窪先生の行動力にはただただ感心するばかりです。

2008年2月10日夜、韓国の国宝第1号である南大門(崇礼門)が出火。わずか5時間で2階部分が完全に焼け落ちてしまった。「周囲は道路にもかかわらず、消防側は文化財を適切に消す方法が分からない。保存する側も焼けた時の対処法がなかった。こんな悲劇を絶対に繰り返してはいけないのです」

これはそれこそ対岸の火事ではない。わが国では近い将来の大規模地震が予測されており、国宝や重要文化財が集中する京都でも、その多くが震度6強以上になるという。すでに清水寺などで地域一体の防災体制が進められているが、これと並行して「歴史都市を守る文化遺産防災学」に取り組んでいるのが大窪健之だ。

「阪神・淡路大震災の現場で、この自然災害は人間の長い労苦を一瞬で壊滅させると痛感。だから、少しでも被害を少なくする『減災』の発想が大切。それなら明日から出来ること、地域あるいは一人でも出来ることがある。それを積み重ねることが、実は最も確実な防災なのです」

今の目標はアジアを中心とした各地でも応用出来る災害対策のパッケージ・プランの作成だ。様々な文化風土や状況に合わせて、最適な「減災」対策を選択出来るという壮大な試みだが、既にユネスコ認可で文化遺産防災の国際研修を実施しているという。

「阪神・淡路大震災の時には、消防車が到着しても水道が機能しなかった。その経験が教えたのは、地域に根ざした水路や井戸などの水源の重要性です。今では都市インフラの発達で衰退しましたが、災害対策の機能を付加すれば、かつての水と緑の環境も再生可能。そうした美しい街は防災的にも安全な街になるわけです」

では質問。文化遺産が燃えていたら、水をかけて消そうとしてもいいのだろうか。

「ためらって焼けたら絶対に再生出来ないので、最小限濡れて済むなら良しとすべき。適切な判断力も含めて、文化遺産の保存と防災に寄与する専門的な人材育成も私たちの課題なのです」

AERA 2008年12月29日・2009年1月5日合併号掲載(朝日新聞出版)