社会学修士。1960年新潟県生まれ。1983年東京大学文学部社会学科卒業。1990年東京大学社会学研究科博士課程修了。千葉大学、信州大学を経て2004年から現職。「何か変だなという気持ちを無理に割り切らないで、なぜかと考え続けていきたい」
 
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取材こぼれ話
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取材こぼれ話

とつとつと語られる一言が重たかったです。世界で起こっているのに、日本では取り上げられていないこともたくさんあるのだと。例として、2004年ノーベル賞平和学賞候補となった南アフリカのゲイ活動家ザッキー・アハマットがいかに日本で知られていないかを教えていただきました。自分なりにテーマを持って現代社会を見つめ、現代史を追いかけていかなければならないのだという先生の一言が胸に響きました。まずは、自分のテーマ探しからやらなくては!

トークセッションを初めて取り入れた今回の取材。写真は先端総合学術研究科の図書室で撮影しました。その図書室には、先端研が扱うテーマに通じる興味深い書籍がごろごろしていました。写真を撮影しながら、自然な雰囲気が出るようにいろんなお話をします。取材者が子育て真っ只中ということもあり、今回の撮影でも子育ての話に花が咲きました。

AERAの発売日と立岩先生のお誕生日が近かったことから、朝日新聞出版広告局の方に先に松原先生、後に立岩先生という順に掲載をお願いしました。本当は、先に立岩先生に登場いただく予定でした。

前編では「生存」ということにギリギリで接している人たちがたくさんいること、そういった人たちがどうやって生きていくかに関わる様々なことを考えるのが「生存学」だと紹介しました。後編では、より具体的なお話を展開しようと思います。

例えば聴覚障害の人は、聞こえないから見るしかない。今では音声をコンピュータで文字にするソフトがあります。そうした技術が、実際にはどう使えるのだろうか。目の見えない人にも、文字を自動で点字にしたり、音声にすることも可能です。そうしたテクノロジーはある意味で決して難しいものではありませんが、日常生活という現場で使いまわしていこうとすると数々の問題が発生します。ソフトの精度だけではなく、情報流通の面では、著作権法によって許可が必要になるなど、社会や制度的な問題が出てくるわけです。視覚障害者に出版社がテキストデータをどの程度無償で提供してくれるのかなどを調査・分析した報告書も発表しました(生存学研究センター報告6)。

生存学は、経済学などのように大きな前提や命題はありません。テーマによって最適な手法や理論を駆使していこうというのが基本スタイル。メディアでは、少数派の声はまだ小さいですよね。そうしたマイナーな声や皆さんに知ってほしいことをインターネットのホームページを通じてどんどん発信しています。調査報告を出したから、情報を発信したから世の中が簡単に変わるわけではありません。ただ、情報を発信することで、それぞれのスタンスで様々な意見や事実を言っていただくことを大切にしたい。僕たちのホームページには膨大な情報が集まり、かなり実践的なレベルに達していると僕は判断しています。

生きるのが難しい時には、技術を使えば少しは生きやすくなる。であるなら、使い勝手をできる限り良くした方がいい。そのためには何を解決すべきなのか。また、解決のためにどのような視点が必要なのかを当事者の意見(技法)を尊重しながら拾い上げていく。世界で起こっていることでも、拾われていないことはたくさんあります。そういったものを拾い上げて発信していく。これも「生存学」の使命なのです。

AERA 2009年8月24日号掲載 (朝日新聞出版)