シンポジウムの様子
 

竹内常一氏(國學院大學教授)
 
 
連続講演・シンポジウム第3回「『自分探し』とはなにか――『自己実現』幻想を問う」開催
 
 2004年11月12日(金)、立命館大学衣笠キャンパス 創思館カンファレンスルームにおいて、立命館大学人間科学研究所公開企画3 連続講演・シンポジウム「大人と子どもは出会えるか――良い子とは誰か」の最終回、「『自分探し』とはなにか――『自己実現』幻想を問う」が開催された。今回も、これらの問題への関心の広さを物語るように、学生・院生・研究者の他、現場の先生方や親御さんなど、140人を超える参加があった。

 第一部では、第一回目に引き続き竹内常一氏(國學院大學教授)が講演を行った。今回、竹内氏が全体を通して強調したのは、「人間は、親をはじめとする自分の中の他者を考えながら関わっている」という点である。たとえば、教師にとって子どもを受け入れるというのは、自分が受け入れられているかということであり、子どもたち自身も、思いもかけない関係づくりの中で、互いに生きやすい関係が芽吹いているというのである。
 第二部では、遠藤昌子氏(伏見工業高校定時制養護教諭)と村本邦子氏(立命館大学大学院応用人間科学研究科教授)という現場実践豊富な2名を加えパネルディスカッションが展開された。

 遠藤氏は、現代が中高生、とりわけ定時制生徒にとって生きやすい社会ではないとした上で、「依存もムカつきも引き受け」、生徒が自分の中で学校を考える機会を援助していく保健室の実践について、現場の悩みや戸惑いを含めて語った。
 村本氏は、自己へのこだわりは特権性と裏腹であること、希望を持てず今を刹那的に生きる子どもと、リスクを犯さないようにコツコツ頑張りながらも恐れや不安を持っている子どもの二極化が起こっていることなどを指摘。またトラウマ研究の立場から、「傷つき」と上手に付き合うこと、自分探しは居心地のいい場所に落ち着くのではなく、そこから出て行くことにより自分の世界と出会うことであるなど、フロアからの質疑への応答も交えて語った。

 今回のシンポジウムでは、自己実現幻想の背景にある中教審方針や言葉による意思疎通の困難さに見られる国語教育の問題点など、今日の教育への言及も多くみられた。
 第二部後半では、参加者の身近な疑問やご意見を踏まえながら論議が進められるなど最後を飾るにふさわしい充実した内容となった。

 なお、今回の連続講演・シンポジウムの記録は近日中に、「学術フロンティア推進事業プロジェクト研究シリーズH(号数は予定)」として刊行される予定。
詳細はこちら