■ 「歴史都市京都の安心安全3Dマップ」の目的
私たちが住む身近な世界には、自然災害や人的災害など様々なリスクがあります。これまでは様々な種類のリスクをばらばらに発信していましたが、市民が安全に暮らしていくためには、これらのリスクを1つの地図上に統合し、地理的に情報を共有する必要があります。そこで開発したのが、安心安全3Dマップです。これは地理上の具体的な位置や視点から多岐に渡る身近なリスクを確認できるマルチリスクマップです。
■ このプロジェクトの内容紹介
この「歴史都市京都の安心安全マップ」は、様々な人に身近なリスクを共有してもらうため、地図を使った情報発信手段として開発されました。この安心安全3Dマップには、京都の町並みの3次元の画像が表示されていて、マウスを利用して拡大縮小が自由にでき、京都の町並みを全体的に把握できます。拡大していけば、建物などがリアルな画像として立ち上がり、自分が立っている位置に応じて情報を送ってきます。ウェブで発信されているため、自宅などいつでもどこでも見ることができます。空間検索もかけることができ、自分がいる所から一番近い避難所の収容人数や電話番号のリストを調べることも可能です。
■ 普通の地図とどう違うのですか?
普通の地図に比べ、非常にリアルな感覚で町並みを眺められる点が大きな違いです。これに様々なリスクの情報を重ねてみると、災害や犯罪に対する備えをわかりやすく共有できるという発想なのです。例えば、自分が住んでいる身近な地域が過去に浸水の経験があるかどうかは転入者にはなかなか分かりません。しかし、このマップで過去の水害の被災情報を身近な景観と照らし合わせながら調べると、具体的にどの地域で浸水リスクがあるのかが分かります。
自治体・消防局などがハザードマップを発行していますが、なかなか見てもらえないのが現状です。安心安全3Dマップで、町並みを眺めるという楽しみが、ハザードマップを見るきっかけになってくれれば良いと思います。
もちろん、3次元の地図は「おもしろい」だけではありません。土砂災害・土石流が起こりやすい地域は、地形が目の前で見えてはじめてリスクがよくわかるのです。こうした災害では、2次元では表せない、3次元の景観をモデル化したことで初めてリスクを確かめることができます。また、1枚の裏表の地図で表すにはどうしても限界がありますが、電子的な地図ではもっと多くの情報を発信することができる点も優れています。
■ 犯罪への備えにはどう活用できるのでしょうか?
最近では、全国的に安心安全なまちづくりが話題になっています。この安心安全3Dマップでは、京都府警が毎年公開している犯罪統計書に載せられた犯罪の統計を解析し、それをもとに密度を計算し、データ化しています。
画面上では特定の場所の具体的な犯罪の件数を見ることができます。これによって、自分が住んでいる地域や、働いている地域の過去の犯罪歴を確かめることもできます。犯罪と災害の両方のリスクを具体的な景観と関連づけながら確認できるのです。
■ このプロジェクトが生まれた背景を教えてください。
技術的な背景としては、もともと立命館大学は21世紀COEプロジェクト(京都アート・エンタテインメント創成研究)で、デジタルマップを活用して情報を分析・視覚化・配信できる3次元GIS(地理情報システム、コンピューターで地図を扱うためのシステム)について研究していました。その成果の一部とリスク回避の発想をかけ合わせて、安心安全3Dマップが生まれました。
個人的な動機としては、私は空間統計学・空間分析を専門としており、最近は保健医療や健康リスクに対する地理的データ分析に注目しています。例えば、どこでがんの死亡率が高いか、HIVの流行の動向は今後どのように推移するのかなどのテーマで、こうした研究では、かなり複雑な統計的・数学的なテクニックが必要です。
しかし重要なことは、分析結果をいかにわかりやすく伝えるか、ということです。サイエンティフィック・ヴィジュアライゼーションとしばしば呼ばれますが、自分たちが研究した成果をいかに可視化し、分かりやすいものとし、犯罪や健康などのリスクを多くの人に伝え、情報を共有してもらうことが大きな課題なのです。
■ 今後のビジョンは?
犯罪や災害に加えて、これから手広く取り組んでいきたいのは交通事故・健康リスクの問題との融合ですね。地域の安全を推進するWHO(世界保健機構)のセーフ・コミュニティという基準があり、その認証を京都府が目指しています。そのサポートができるよう、犯罪・災害・交通事故などのリスクを総合的にモニタリングして、具体的な手立てを講じていく情報基盤に発展させられたらと思っています。地域の活動においても、インターネットやタッチパネルを利用し、講習会などでディスカッションするための材料として、いろんな面から地域の安心安全に活かしてもらえたらと願っています。
これからも、社会にいかに活用してもらえるかを考えながら、現場の方や多方面の専門家の方々とも連携し、新しい地理情報処理技術の開発に取り組んでいきたいと思っています。
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