■ 「リアリティメディア」という言葉は初めて耳にしましたが,どのような研究をされているのですか?
学科が「メディア情報学科」なので,3年前に研究室を立ち上げる時,新しく造った言葉です。「情感豊かに,違和感のない形態で,かつ魅力的にアピールできる情報伝達・提示の手段・方法(メディア)」のことを指しています。現実世界とコンピュータグラフィックス(以下CG)などで構築した仮想世界を融合する「複合現実感」(Mixed Reality; MR)を中心に,ものに触れる感覚を重視したヒューマンインタフェースの研究をしています。
■ メディア技術の中でも,MRという技術を扱うメリットを教えてください。
コンピュータ内に仮想環境を作って体験する「バーチャルリアリティ」の研究は随分発展しましたが,リアリティの表現には限界があるし,コストもかかります。それなら,我々が生活する現実世界に電子的に生成したサイバー世界の情報を重ねて使った方が役に立つし,新たな応用も拓けると考えました。MRは,新しい情報提示技術として,産業界では製品のデザイン検証にも使われているし,昨年の「愛知万博」では企業パビリオンのアトラクションにも使われました。それには,私たちの研究室の成果が利用されています。
■ 具体的には、どのような研究テーマがあるのですか?
情報コミュニケーション学科の柴田史久助教授(モバイルコンピューティング研究室[→リンク])と共同運営していますが,現在5つのグループに分かれて研究しています。まず,屋内で据置型で使われていたMR技術を,携帯電話やPDAといったモバイル機器に搭載し,屋外でも使えるようにする「モバイル複合現実感システム」の基本的枠組の研究。それから,従来の視覚的なMRを,聴覚や触覚も併用した「三感融合型MR」に発展させる基礎的な研究を行っています。
応用的な研究としては,防災対策と映画制作支援を取り上げています。前者は,21世紀COEプログラム[→リンク]に参加して,災害のシミュレーション結果を可視化して模型の町並みに重ね合わせたり,災害後の復旧支援にMRを使う研究をしています。後者は,昨年10月から始まった「MR-PreViz」という研究プロジェクトで,現実のロケ地やオープンセットをバックにCG映像を現場で合成する技術を用いて,映画制作を支援するツール作りをめざしています。
■ MR-PreVizプロジェクトが,動き出したきっかけは何だったのですか?
立命館に来る前から,余技で映画評論もやっていたせいですかね(笑)。最先端・最高峰の映像技術はハリウッドで生み出されているので,MRで現実と仮想の融合技術を向上させるには,映画の実写とCGの合成技術を学ぶのが一番だったのです。映画でのCG合成は時間をかけて平気ですが,我々のMRは実時間でそれを実行しなければならない。数々のメイキング映像を観ているうちに,特殊視覚効果の映画評論[→リンク]も始めてしまいました。MR技術もかなり進歩したので,今度は逆に映画制作を支援するツールにMRが使えないかと考えたわけです。
■ 広い分野にまたがった技術的に高い研究を手がけておられるようですが,どのような工夫をされていますか?
MR-PreVizプロジェクトは,京大と奈良先端大との共同研究で,来年度衣笠にできる映像学部の先生方もプロジェクトメンバーです。研究拠点として,朱雀キャンパスに「MR創像ラボラトリ」を設けました。聴覚的MR技術には,メディア情報学科の西浦敬信助教授(音情報処理研究室[→リンク])にも参加してもらっています。もともと全研究テーマで木村朝子先生(助教授)と一緒に研究していますが,前述のように柴田史久先生とも共同運営しています。専門が少し違う先生方から,刺激を受けて幅広い研究ができるのが私たちの研究室の特長です。
理工学部情報学科から情報理工学部になって,各学科の専門性が高まりましたが,その反面,情報科学の基礎を学ぶ時間が少し減ったことを懸念しています。私たちの研究室では,メディア情報学科と情報コミュニケーション学科,それぞれの学生実験でやった内容を,「卒業研究1」(3回生後期)でクロスして体験するように配慮しています。こうすることで,学生の知識の幅を広げることができ,自分たちで考えてシステムやツールを作り上げる力がつくと考えています。
■ 学生へのメッセージをお願いします。
理系の学生なら,卒論や修論を学生生活の最大のイベントと考え,毎日研究室に来て研究する癖をつけることです。体育系のクラブで,毎日練習するのと同じですね。先生のため,研究室のために研究するのではなく,自分のために研究室の機材が用意されていて,研究仲間がいると考えるべきですね。
映画やゲームと聞くと楽しそうな印象を受けますが,どんな技術であっても,その要素となる新しい手法は,大変難しい地道な実験の積み重ねの結果です。いろいろな研究機材に触れて,みんなと一緒になって研究をすることこそ,理系の醍醐味です。「楽して」卒業しようとせず,是非「楽しく」充実した研究室生活を送れるようになってください! |