永橋 為介  先生
産業社会学部准教授
_ 持続可能な社会は、どのようにして創造できるのでしょうか? この問いに対する答えは一つではありません。さらには、環境問題を考えていく際には経済や人種、福祉、地域コミュニティなど、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。
解決のヒントとなるのが「ひとづくり」、「関係づくり」に基づいた「環境まちづくり」と提唱する産業社会学部准教授の永橋為介先生。国内外で展開されている数々の事例が紹介され、受講生が「持続可能な環境」をつくるための作法を学ぶ「環境形成論」に密着取材してきました。
   
 

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講義の様子

 

産業社会学部 「環境形成論」

「環境と経済、そして社会的公正の3つを同時に満たすことが、持続可能な地域社会には大切」 永橋先生は講義の冒頭でこう述べられていました。

今回の授業ではケーススタディのモデルとして、アメリカ・バークレーにあるエディブル・スクール・ヤードが紹介されていました。これは小学生や中学生が自ら畑を耕し、青空教室で農業を学んでいるという事例です。 「野菜はどこから来るの?」という問いに対し、「スーパーから」と答えた子供たち。子供たちの周りを「命を生み出す場」にしてあげたいとの思いから、コンクリートを壊し、花や野菜を育てるようになったエピソードが紹介されていました。人工的な建築物に代わって無農薬の畑が増えることにより、水循環や生物の多様性をはじめとした環境面でも効果がある。自分達で作った野菜を自分達で食べる地産地消の体験にもなり、二酸化炭素の発生抑制の学習にもつながる。そして、その野菜を使った料理パーティーを通じたコミュニケーションにより、生徒たちの間に存在していた人種の壁を越え、他の文化を知るきっかけが生まれた。これらのエピソードなどを題材に、授業中は学生同士でディスカッションを行うなど、身近なところから環境を考えるために参加型の授業が行われていました。

     
   
Q_

永橋先生の担当されている『環境形成論』とは、どのような講義なのですか?

   
永橋先生_

私の担当する「環境形成論」という授業のメインテーマは、「持続可能な環境づくりのためのさまざまな実践ケースからその発想法や方法論を学ぶ」ことです。成功事例からだけでなく失敗事例からも学びます。環境、経済、そして人種や福祉などを多角的な視点から学んでいき、学生の思考力の向上を目指しています。環境問題解決には、強制力ではなく、自発的な喜び、楽しむ心が必要となります。つまり「きめつけない、おしつけない、おさえつけない」ことが大切なのです。ライフスタイルや考え方は人それぞれであり、実はいろいろな選択肢があります。そこで、授業中も「自分はどう思うか?」「自分ならどう考えるか?」という投げかけを大切にし、参加型の授業を行っています。

   
Q_

環境問題は、さまざまな要素の関わり合いで解決していかなくてはならないのですね。では、その具体的な方法を知るためには、どのように考えていけばよいのでしょうか?

   
永橋先生_

持続可能な環境を作るには、環境・経済・社会的公正、そしてこの3つの要素をつなぐための「作法」を身につけることが大切になると考えています。例えば、この講義では以前、商店街の再生を題材にし、その作法について考えました。現在の私たちの身の回りの状況を考えてみましょう。スーパーで売られている食品の多くには、トレーやビニール袋などが使われていますが、これらの商品を包装する類のものは、最終的にはゴミとなります。つまり、消費者である私たちは食品と一緒にゴミを買わされているんです。

一方で、商店街、たとえば個人商店の八百屋さんで地場産の野菜を買ったとしましょう。そこではトレーやラップはめったに使われません。ものを修理する専門店もあるので、消費と廃棄を繰り返すのではなく、循環型のライフサイクルが形成され、結果的に環境にも「良い場所」であると言えます。つまりフードマイレージ(※)の値を下げ、地産地消を実現し、そもそもゴミを出さないモノの買い方・売り方の提案が、商店街からできるのです。商店街が本来持つ地域とのつながりを活かした再生戦略の一つです。エコノミー(経済)に良いことは、エコロジー(環境)にも良い世界は確かにあるのです。今あるものの見方や捉え方を少し変えると新しい発想や「やるき」が生まれます。持続可能な社会を作り出す方法や発想、そしてそれを実践する確信とツボのようなものを、この講義を通じて学んで欲しいと思います。

*フードマイレージとは、食料 (=food)の 輸送距離 (=mileage)という意味で、重量×距離であらわす数値のこと

   
Q_

では、この講義を通じて永橋先生から学生のみなさんに伝えたいメッセージを教えてください。

   
永橋先生_

この「環境形成論」は参加型授業です。お互いに学び合うやりとりを大事にしています。この「やりとり」を通して「聴く」力、問題解決への兆しを見つけるための「眺める」力、そして考えたことを表現するための「表現方法」を身につけてほしいと思っています。環境問題を自分の身近なところから解決する策を見つけ出すことにも役立ちます。環境問題をシングルイシューとして捉えてしまうと、実践がしんどくなる場合もあります。環境問題の解決や持続可能な環境づくりは、強制力によって展開されるものではなく、環境に良いことは、自分の身体、心、友情、お財布、家庭そして他の国々の人々、特に第3世界の人々(今は先進国の内部にも貧困・格差がありますね)、そして未来の世代、ひいては地球にもやさしい、という一石三鳥、四鳥のやわらかい発想で展開していきたいですね。私自身も、この授業を通じ、学生とともに、学んでいきたいです。

   
   
   
 
 

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受講生に聞きました

老平裕南

 さん
(産業社会学部 2回生)
 

私は以前から環境問題に興味があり、この講義の受講を決めました。人と人との関係性が環境問題を解決していくという視点が、とても新鮮でした。 環境問題を解決するという共通の命題のために、世代や人種の違いをどうまとめ、解決していくか、問題を双方向な立場から考えなければならないと実感しています。 特に、商店街の活性化についての授業は、とても興味深かったです。この講義を通じ、地域などの身近な題材から環境で必要な基礎を考えるきっかけを学んでいます。

 
取材・文安藤 賀菜子(文学部2回生)