パナソニック電工株式会社に入社後は、美容・健康器具を手がける電器事業本部の中で、数年先に発売される製品の先行開発を担当する部署に配属されました。学生・院生時代の研究で得た知識や経験を、いかに応用して製品化につなげるか、これはメーカーで働く技術者の大きな課題です。機械と人間の関わりを考える上で、大学での研究は参考になりますが、商品開発には新たな技術や知識、実験データなどが必要です。企業に入っても日々、勉強し、研究し続ける毎日でした。
一方で、修士課程で始めた研究が中途半端なまま、卒業してしまったこともあり、納得のいくまでとことん研究を続けて、専門を究めたいという思いが入社当初からありました。そのことを上司に相談し、博士課程で学ぶ許可を得ることができました。そこで平日は社会人として働き、週末は川村研究室に戻り、博士課程の研究に打ち込みました。休みがなく体力的に辛かったですし、頭の切り替えも簡単ではありませんでしたが、川村先生の後押しや周囲の理解に支えられ、ついに博士号を取得することができました。社会人としての生活、博士課程の研究という2つの生活。さらに博士課程は1人での研究だったので、自走力はずいぶん鍛えられましたね。現在の仕事でも、1人で試作と実験をくり返して定期的に報告書を書くことが多いので、この自走力が生かされています
2005年から今年の夏までは、マッサージチェア「リアルプロ」の開発に携わっていました。基礎研究から製品化まで関わり続けたので、とても思い入れの強い製品です。製品化となるとプロジェクトチームで動くため、1人でも納期に遅れないように仕事を進めなければならず、基礎研究とは別の厳しさがあります。私はマッサージチェアの「もみ」に関係する回路やマイコンの開発を担当。最初はロボットにて動作検証をし、次に商品化に向けてマッサージチェアに落とし込みました。日によっては、自分で動きを確かめるために10時間近くマッサージチェアに座り続けた日もありましたね。マッサージチェアにずっと座っていられるなんて、うらやましいと思われるかもしれませんが、10時間も座っていると辛いものですよ(笑)他にも苦労はたくさんありましたが、商品に自分の担当した部分が盛り込まれ、モニターテストで自分の作った製品が一般の方に高く評価されたときは、非常に嬉しかったですね。
私にとって「働く」とは、さまざまな挑戦を通して経験を積み、楽しく成長することです。企業に勤めていると、自分の仕事がお客様や社会への貢献につながるので、大学での研究とは違ったやりがいを感じることができます。将来は、マッサージチェア以外の領域にもロボティクスの技術を応用して、より快適な暮らしを実現できるように頑張りたいですね。 |