Q 国内外を問わず、PFIという手法の導入が目立つようになってきていますが、これはどのようなものなのでしょうか。
A  これまで政府や地方自治体は、自らが実施主体として様々な公共サービスの提供を行ってきました。これに対して、PFIは、投資(有形固定資産の建設)を伴う公共サービス提供において、民間の技術やノウハウを最大限に活用する仕組みであると言えます。具体的には、必要な資金調達を含めて、設計、建設、維持管理、サービスの提供を「民」が直接行い、それに対して「官」は一定の金額を契約期間を通じて毎年、行政サービスを「購入」することになり、民間事業者にサービス購入代金を支払います。これまで日本の給食事業などで普及している民間委託方式とは投資を伴うという点で異なります。政府や地方自治体がこの手法を取り入れる場合、当然のことですが、従来の方法でサービスの提供を行う場合よりも、低コストで事業が可能、ということがポイントになっています。PFIは、1992年にイギリスで始まり、行政改革のグローバル化の波に乗ってオーストラリアをはじめとして海外諸国にも広まりました。日本では、1999年9月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が施行されてから地方自治体を中心に取り組まれるようになっています。
Q コストが安くなるということですが、PFIが注目されている理由はコストのメリットだけでしょうか?
A  現実には、「官」は計画の段階で従来通り自らが実施主体として事業を行った場合の費用を試算し、安くなる見通しがあるかどうかを、まず判断します。そしてコスト的にも低く押さえることができる可能性がある場合に、「民」に対して基準を設定して公募するというのが一般的です。ここでポイントになるのは、民間企業等が持つ技術力やノウハウを活かして、どれだけの創意工夫がされているか、どれだけ公共サービスとして質の高いサービスが提供できるか、といった点も「官」側は評価するということです。したがって、安かろう悪かろう、といった低コストで抑えるための廉価サービスを求めるのではなく、公的セクターに民間の競争原理を導入して、事業の効率化をはかり、利用者に最良のサービスが提供されるようにできることがPFIのメリットといえます。「官」と「民」は契約を結びますが、そこにはその事業についてサービスの提供を行う上での基準や条件が記載されるだけでなく、基準を上回る業績を達成した場合、追加的な報酬を支払う、あるいは基準に満たない業績の場合、支払い額を削減するといったインセンティブを盛り込むことが可能です。「官」と「民」のこれまでの関係が変化し、「官」が行政サービスの購入者となっていきます。うまく機能すれば「官」と「民」の「守備範囲」の見直しが進み、「民」の領域が増大して経済の活性化につながっていくでしょう。また、日本企業がイギリスにおけるPFIプロジェクトでの受注実績をあげているように、国境を越えて発注先が広がっていく可能性があります。
Q PFI導入に際して注意すべき点は、どのようなことでしょうか?
A  一つは、当初あらゆるリスクを予想して官民のリスク分担を明確にして契約を結ぶわけですが、それでも見込まれた金額を越える高コストのアクシデントが発生した場合、あるいは事業者が倒産した場合、第三セクターと異なり、税金の投入が常に避けられるかというと必ずしも明確でない部分がある、という点です。契約通りに事業が進まない場合の対応策を事前に準備して、その際の手立てを講じておく必要があります。
 二つ目は、「官」は「民」に将来にわたって一定金額を支払う約束をする「債務負担行為」を行うために、歳入の増大が簡単に見込めない中で財政の硬直化が進みかねない、という点です。過去の契約が将来の財政裁量の余地を狭めてしまう可能性があります。当初、財源が確保できていなくてもサービスの購入が始められるところは、クレジット・カードによる分割払いに似ている面があります。
 三つ目は、日本の法制度とPFIの仕組みが合致していない点があるということです。日本では、今のところケース・バイ・ケースで対応しています。
 四つ目は、PFIは広い意味での行政活動のアウトソーシングなので、PFI導入により、「官」の中に余剰人員が生じることが予想されます。この人たちの処遇についての検討も必要になります。
 PFI導入は、その目的の追求のために、日本の現行制度との非合致性をどう克服するか、どこまで制度変更をすべきかという重要な問題を投げかけています。

岸 道雄 助教授 岸 道雄 助教授
専門分野:公共経済学、行財政改革

■主な著書・論文

●「NPMによる自治体改革〜日本型ニューパブリックマネジメントの展開〜」
(共著・2001年経済産業調査会)
●「行政改革をどう進めるか」
(共著・1998年日本放送出版協会)
●「Private Finance Initiative:日本への導入に向けての視点」
(「FRI Review」Vol.2 No.3、1998年)


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