キーワードから見る現代

Q ニートとは何ですか。

A ニート(Not in Education, Employment, or Training)は、本来イギリスで用いられた言葉であり、16歳から18歳までで、義務教育終了後、進学も仕事もしていない、職業訓練も受けていない 若者を指します。日本の場合は、「仕事をせず、失業者として求職活動もしていない非労働力のうち、15歳から34歳で卒業者かつ未婚で、通学や家事を行っ ていない者」(労働経済白書)とされていますが、非常に曖昧で数値化しにくい概念です。就業意欲をもっている失業者や専業主婦は除外されていることが日本 の特徴です。また、ニートのなかには、「ひきこもり」も含まれます。2004年厚生労働省が初めて行った集計では、52万人と推計されており、「かなりの 数にのぼる少数派(Significant minority)」(玄田有史・曲沼 美恵『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』幻冬舎)となりつつあります。

Q ニートが増加している背景には
  どのようなことが挙げられますか。

A ニートは、しばしば個人の「意欲」や「甘え」の問題としてメディアなどで取り上げられますが、「フリーター」問題と 同様、ニートが増加する背景には、新規学卒者の一斉・一括採用の抑制、即戦力志向、あるいは終身雇用制度の崩壊といった、歴然とした産業構造の問題が存在 するということを認識しなければならないと思います。さらに、学校から職業生活への「移行(transition)」システムの機能不全、「パラサイト・ シングル」に象徴されるような家族関係の問題、ソーシャル・ネットワークの枯渇化、地域社会における居場所の喪失、あるいは自分自身に対する自信喪失と いった問題も存在しています。既存の社会システムのひずみや矛盾といったものが、これからの生き方を模索している若者に集中して顕在化していると考えられ ます。若者を「社会的弱者」に転落させるような社会(宮本みち子『若者が<社会的弱者>に転落する』洋泉社)であってはならないと思います。

Q ニートが今後増加した場合、
  社会にどのような影響を及ぼしますか。

A わたし自身、思春期保健相談士として学生から相談を受けた経験から、彼女・彼らにとって、就職の問題、人間関係の問 題、家族の問題等はすべて、自分の生き方と密接にかかわるひと続きの問題です。そういう意味で、「ジョブカフェ」の拡充や「若者自立塾」といった限定的な 就業支援政策、あるいは個別分断的な対応策だけでは限界があります。すでに70年代後半から80年代にかけて若者の失業が増加傾向にあった欧米諸国では、 若者をトータルに支援する必要性がすでに指摘されており、たとえばイギリスでは、Youth省を設置し、世代全体への包括的な政策に取り組んでいます。そ して何よりも、ニートの問題を、若者世代の問題ではなく、ニートを通じて顕在化している社会システム全体の問題として位置づけ、新しい社会システムへの 「過渡期」として捉えることが重要であると考えています。既存の社会モデルの尺度による「勝ち組」「負け組」といった二分法としてでもなく、あるいはいた ずらに若者バッシングに走るのでもなく、新しい働き方のスタイル、人間関係のあり方、ひいては社会・政治参加のあり方を模索する契機=チャンスとして、巨 視的に問題を捉えることが重要ではないでしょうか。


371_keyword.eps
斎藤 真緒
(2005年4月より立命館大学産業社会学部助教授に就任予 定)
衣笠総合研究機構 斎藤真緒先生
ポストドクトラルフェロー(人間科学研究所)


専門分野/家族社会学
■主な著書・論文
●『子育てサークル共同のチカラ―京都の子育て
  ネットワーク当事者性と地域福祉の視点から』
 (共編著、2003年、文理閣)
●『ケアをめぐるアポリア―「ケア」の理論的
  系譜』
 (単著、2003年、『人間科学研究』、
  立命館大学人間科学研究所)
●『親性の「個人化」―家族の分析視角としての
 「個人化」論の可能性』
 (単著、2000年、『立命館産業社会論集』、
  立命館大学産業社会学会)


Copyright(c) Ritsumeikan univ. All rights reserved.