輝いています、ときの人 #104 前川亜希子さん(国際関係学部2回生)「ゆきのまち幻想文学賞」大賞受賞者
3度目の正直!「河童」のおかげで掴んだ文学賞
雪をテーマにし、雪の幻想性を表現した小さな物語を募集する、「ゆきのまち幻想文学賞」。
今回、国内外から寄せられた計794点の作品の中から大賞を見事に受賞した前川亜希子さん(国際関係学部2回生)。
高校生の頃からこの文学賞にチャレンジし、3回目の応募で大賞を受賞された前川さんにお話を伺った。
(2008年5月22日掲載)
Q

「ゆきのまち幻想文学賞」大賞受賞おめでとうございます。「ゆきのまち幻想文学賞」とはどのような賞なのですか?また、今回作品を応募しようと思ったきっかけは何だったのですか?

前川

「ゆきのまち幻想文学賞」とは青森県にある企画集団、「プリズム」が主催する文学賞で今回で18回目になります。今回は国内外から784点の応募があったそうです。実は私がこの賞に応募したのは今回が3回目なんです。以前も最終選考までは残ったのですが、受賞までは至らなかったので今回大賞を受賞できて本当に嬉しいです。

 

小学生の頃に宮崎駿監督の映画「耳をすませば」を見たことがきっかけで、そのころから絵本めいたものを書き始めました。そして中学生のときの担任の先生にこの賞の話を聞き、高校生のときに初めて応募しました。国語教師である父や、俳句を生きがいとしていた祖母の影響も大きかったと思います。

 

今回大賞をいただいたのは、「河童と見た空」という作品で、今住んでいる京都と地元の青森を舞台にしたものです。実家近くの神社で河童が出るという噂があり、そのこともヒントにしました。作品の内容は悩みを持つある女性が、「河童」と名乗る少年との交流を通して前向きに生きていこうとするもので、空を見あげることで涙はこぼれにくくなり、上を向いて生きていけるんだということを雪に託して表現しました。どんなに不幸な状況にあっても、考え方や生き方次第で幸せに変わるんだ、ということを描きたかったんです。

雪の残る八甲田
Q

前川さんは普段どのようにして作品を作っているのですか? また、魅力的な小説を書くためにどのようなことをされていますか?

前川

インスピレーションを受けることが「はじまり」ではないかと思います。たとえば、カフェでゆったり過ごす時間、友だちとの何気ない会話、休日の一人旅。大学の講義の中にもたくさんのヒントが転がっているし、朝早くや夕暮れ時に散歩をして、空の色や花なんかをぼんやり眺めるのも好きです。実際に書き始めるときには、あったかい紅茶をいれて、ゆったりした音楽をかけて、ソファでノートパソコンを開くことが多いです。意識して「作ろう」というよりも、気が向いたときに、好きなことを綴る方が、いいものが書ける気がするからです。

 

2回生になり学部の勉強が大変になりましたが、夢を叶えるためにも、できる限り時間を割くようにしています。普段の生活の一瞬一瞬で、胸の内がぽっと温かくなることもあれば、どうしようもなく切ない夜もある。わたしの場合、文章を書くというのは、パズルを埋めていく作業に似ています。時々に感じたことを書き残したメモをもとにつなぎ合わせて作品を作っていくからです。実は今回の作品の主人公がある朝突然、地元に帰りたくなるという部分も私自身の体験がもとになっているんですよ。作品の長さにもよりますが、今回の作品は比較的短期間で書き上げました。3時間くらいで書きあげて、2日間かけて構成し直しました。

 

 

 

 

また、受験の際に国際関係学部を選んだのは、自分の世界を広げたかったからです。高校生のときは外国語科に所属していて、ロシア語を勉強したり、修学旅行でアメリカへ渡ったりと、普段の授業の中に「異文化」があった。そこから得たものがとても大きかったのです。大学に入ってからは、スペイン語を学び、今年からアラビア語の勉強も始めました。同じ意味の言葉でも言語が違うと雰囲気が変わってくるので、語学の授業はできるだけ多く取りたいですね。また、文化を学ぶ授業には特に力を入れたいと思っています。

 

そういった意味でも、今受講している京都歴史回廊プログラムは特に、私の夢を手助けしてくれる授業だと思います。

 
Q

自分の経験やインスピレーションをベースに書く前川さんにとって周りの環境や大学は、アイデアの宝庫なんですね。受賞されてからの心境や今後の目標などを教えて下さい。

前川

今回の大賞受賞を家族や周りの方もすごく喜んでくれました。私に「書く」ことの楽しさを教えてくれたのも、その「普通」ではない夢を応援し続けてくれたのも家族です。慣れない大学生活をせわしなく過ごしていたためか、全く作品を書けない時期もありました。けれども、友達の厳しくて優しい言葉のおかげで、自分の傲りや甘え、そして、こころの中に確かに息づいている「書きたい」気持ちに気がついて、そこからこの物語を書き始めたのです。今回の大賞受賞は私一人の力ではなく、家族や友達の支えがあったからだと感謝しています。実は今回の作品に登場する「河童」は私のことを支えてくれる人たちの優しさやあたたかさを象徴したものなのです。これをふまえて作品を読んでもらえばと思います。

 

一時はエッセイストを目指そうかと思った時期もありました。わたしには物語は書けないと思っていたのです。しかし、授賞式で審査員の方に「作品の読後感が良く、言葉に透明感がある」との講評をいただき、創作意欲に火がつきました。受賞後、すでに3~4作品も書いたくらいです。来年以降は「ゆきのまち幻想文学賞」の受賞者を対象にした長編部門にも挑戦するつもりです。また、将来は作家になれたらいいな、と思っています。そのためにも、大学生のうちはいろいろな経験を通して世界観を広げたいです。そして、いつかは日本語の作品だけでなく、外国語の作品にも挑戦してみたい、とも思います。春休みに異文化セミナーでスペインに行ったのですが、ホストファミリーや外国にいる友人にも、作品を読んでもらいたいです。

 

大切なのはたぶん、好きだと思うことにまっすぐ素直に進むこと。私にはその気持ちと周りの応援があったので、この賞をいただけたと思うのです。これからもたくさんの場所へ足を運び、友人や新しい出会いを大切にしながら、読んだ人のこころに幸せの気持ちがほんのり残るような、そんな物語を書くのが私の夢です。

 

 

Link 前川さんの受賞作「河童と見た空」はこちらから読むことができます(提供:ゆきのまち通信)
Link ゆきのまち通信(企画集団ぷりずむ)ホームページ
取材・文/土山由衣(法学部2回生)
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