輝いています、ときの人 #145 ボルダリングW杯2009で日本人男性では2人目となる銀メダル獲得 村岡達哉(むらおか・たつや)さん(理工学研究科 博士課程前期課程 創造理工学専攻 電子システムコース 2回生)
運命を変えた出会い。自分の肉体と意思でどんな傾斜も乗り越えられる
体をのけぞらないと見上げられないような急斜面を、自分ひとりの手足の力や技術のみを頼りに登るボルダリング。
フリークライミングの1つであるボルダリングのワールドカップ(W杯)が国内で初めて行われた今年の4月、
日本人男性では2人目となる銀メダルを見事勝ち取った大学院理工学研究科の村岡達哉さん。
試合を終えるたびに自分と向かい合い、上達の方法を考えながら練習してきたという村岡さんに、
ボルダリングの魅力やこれまでの歩みを伺った。
(2009年7月31日掲載)
Q

ボルダリングという競技の魅力について教えてください。

村岡

ロッククライミングには、ロープなど安全確保のための道具しか使用せず、登る人の手足の力や技術のみで岩や壁を登るフリークライミングというジャンルがあります。通常、大会で行われるフリークライミング競技には、「リード」、「ボルダー」、「スピード」の3種目がありますが、ボルダリングはこの中のボルダーと呼ばれる種目にあたります。救命用のロープを使用せず、4m程度の岩や壁を対象とし、かなりの瞬発力を必要とするのが特徴です。競技のボルダーとは4~5mの人工的な壁に幾つか用意された難しい課題を、いくつ登れるかを競う種目です。とにかく、一番難しい壁を登れた者が、一番強いというシンプルでわかりやすいところが魅力ですし、非常に困難な壁を自分の力のみで登ることで、何物にもかえ難い達成感が味わえます。

 

フリークライミングとの出会いは高校1年生の時。所属していた滋賀県立守山高校山岳部のトレーニングの一環でクライミングジムに行ったのがきっかけでした。はじめは全く登れませんでしたが、2日、3日とやるうちに少しずつ登れるようになって、少し前にはできなかったことが目に見える形でできるようになる感覚に強く引き込まれました。そこからジムに通いつめ、練習を重ねていきました。自分の力・技術を磨くことにより、それまで登れなかったところが着実に登れるようになることがこの競技の魅力の一つです。

 

 

 

Q

そこから、どんな経緯を経てボルダリングをやっていかれることになったのですか?

村岡

大学入学後、1回生まではリード(※1)をやっていました。初めて大会に出た時も、国体で3位を取ったのも、種目はリードでした。
ただ、高校から始めた自分は、もっと早く始めている他の選手と比べて経験が少なく、高校を卒業してから、なかなか思うように結果が出ず悩んでいました。そんな中、ボルダリングをやる機会があり、リードよりも楽しいと感じました。
この競技は自分に合っていたようで、2006年度の第2回ボルダリングジャパンカップでは強豪選手やプロ選手も出場していた中で優勝することができました。

 

その後も国内の大会に挑戦し、修士課程前期生の時にスイスで行われたW杯で初めて世界に挑みました。会場では外国人選手の強いオーラに圧倒されました。国内の大会とは全く違う雰囲気、そして想像を超えた体格差を前に萎縮してしまい、実力を出し切ることができませんでした。これが世界の壁なんだと強く感じました。
その悔しさから、外国人選手に負けない体を作るため、まず世界大会後はウェイトトレーニングに重点を置き、基礎的な部分を強化していきました。
そして、徐々に負荷を上げ、クライミングに特化したトレーニングに移行し、最終的にはかなり質の高い練習を行う事で、世界で通ずる体や筋肉をつくっていきました。

 

この競技をやっていく上で、どうしても避けられないのが、指や腕・肩の故障です。ただ練習を3日間も休んでしまうと、すぐに他の筋肉が衰えてくるので、故障した部分が治ってもすぐに練習に取り組めるように、他の場所の筋肉を鍛えることは怠らないようにしています。

 

今年4月、埼玉県加須市で行われた国内初のW杯はリベンジでした。前回、不十分だった減量にも成功し、心の準備もしっかりして挑みました。予選、準決勝、決勝が2日間かけて行われました。プレッシャーと緊張に押しつぶされそうになりましたが、約40名の参加者の中から準決勝に残り、更には6名の決勝進出者に選ばれた時は、とても嬉しかったですね。体格差が歴然と力の差に出るボルダー男子競技は、日本人が決勝に進むこと自体が珍しいことなんです。

 

決勝を迎えた日もトレーニングの成果が出たのか、それほど力の差を感じませんでした。みんな強いので「楽しんで、思い切り競技に取り組もう」と思いました。結果2位になれて、よかったと思う反面、驚きもありましたね。昨年、あれだけ感じた純粋な力の差も、トレーニングの成果が出たのか、それほど感じませんでした。とにかく勝ちたいという一貫した気持ちを持っていたからこそ厳しい練習に耐えられ結果に繋がったのだと思います。

 

※1「リード」とは・・2人1組になり、ロープを使って壁に設置してある金具に自分でロープをセットしながら登るクライミングです。
Q

銀メダル獲得、本当におめでとうございます。見事、トッププレイヤーになった村岡さんにとってボルダリングとはどういう存在ですか? また、学生のみなさんへのメッセージもお願いします。

村岡

ボルダリングは、1つ間違うと怪我をする危険が伴う競技ですが、味わうスリル感と制御感、登れた時の達成感は格別です。卒業して、社会人になっても続けていきたいと思います。

 

またボルダリングは僕にたくさんの成長を与えてくれました。
始めたころは指導者やコーチと呼べる人はいなかったので、見よう見まねで上達する方法を探る内に、自分で考える力がつきました。競技を通じて幅広い年齢層の人々と出会い、一緒に練習メニューを組んだり、体づくりをしたり、食事メニューなどを相談したりする過程で、コミュニケーション力も身についたと思います。

 

ボルダリングに出会ったからこそ、充実した日々を過ごすことができています。本当に、これは運命の出会いだったと感じています。こうした出会いは、絶対に誰にでもあります。ただ、それがどこにあるかは分かりません。だからこそ、少しでも興味があれば何にでも挑戦してみてください。合わなければやめることもできます。まずは、踏み出すこと。諦めない、負けない気持ちで頑張ってください。

取材・文/川口菜摘(経済学部4回生)
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