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青山 敦

「テクノロジーと社会の関わりから、“ビジネスが成り立つ仕組み”を学んでください。」

MOT教員 青山 敦 教授

テクノロジー・マネジメント研究科

青山 敦あおやま あつし教授

京都大学大学院化学工学専攻修了後、三菱総合研究所で、社会の要求と先端技術を結ぶシステムズアプローチの研究に従事。1994年に米国パデュー大学よりPh.Dを授与される。1995年より英国ロンドン大学インペリアルカレッジ研究員、1999年から2005年まで、東京工業大学資源化学研究所助教授。2005年より立命館大学MOT大学院教授を務める。化学工学会前安全部会長。立命館大学稲盛経営哲学研究センター長(2015年)。京セラ株式会社 社外取締役(2016年)。

「ご自身の研究内容について教えてください。」

ICTで社会にイノベーションを起こし、ビジネス化することをテーマに研究しています。

 私は修士課程・博士課程を通じプロセスシステム工学を専攻し、化学プラントにおける生産スケジューリングやプロセス制御を研究していました。やがて、化学プラント全体の安全管理や維持管理にも目を向けるようになりました。安全管理は、お金を無尽蔵にかけて安全を確保しさえすればいいというものではありません。経営資源を適切に配分することで、生産性の確保とリスクの許容範囲内への維持を両立させることで生産活動を持続可能にするリスクベースの考え方が重要です。「化学プラントを持続可能にする」ことは、技術を活用することで生産性を高め、現場の安全を確保・維持し、周辺住民の安心を担保する、プロセス産業というビジネスが「成り立つ」ための仕組みを考えることです。すなわち技術・ビジネス・社会の関係を探求することです。

 現在、私が特に注目しているのは情報通信技術(ICT)です。人工知能や5Gなどの情報通信技術は、他の技術やディシプリンとの組み合わせによって価値が高まる特徴があります。ICTの進化スピードには目を見張るものがあり、画像/音声/テキスト/バイタルデータ/センサーデータを含む多様な情報を大量/高速/安価に距離の制限なく人や機械から収集し複雑な処理を行い、その結果を人や機械に送ることが可能になりつつあります。このようなICTの特徴を活かしたイノベーションをシステマティックに創出しビジネスを持続可能にする方法を研究しています。また、人工知能やロボットの社会受容性の研究を行っています。たとえば、高齢者介護において、人工知能やロボットを活用したサービスが事業者/従業員/高齢者/高齢者の家族/地域社会に受け入れられるための仕様・条件を解明し、情報系の研究者にフィードバックすることで、研究テーマの選定に反映させることが可能になります。人工知能研究において、日本は研究資金や研究者数ではアメリカや中国に到底かないません。同じことをやっていたら日本は負けてしまう。人工知能の社会への受容という観点を導入することで、アメリカや中国が等閑視している重要な研究テーマを発見しニッチにフォーカスすることで優位性を確保する戦略です。

 また、ICTを活用してビジネスマネジメントそのものを革新する研究も行っています。今、最も注目しているのは自然言語処理と行動科学です。計算機による自然言語処理によって企業内に存在する膨大な情報資源を高度に活用することができます。また、ICTと行動科学を組み合わせることで、人々を良い方向に誘導して、従業員にとっても、顧客にとっても、社会にとっても良い経営が可能になると考えています。

「立命館MOTの特徴は何だと考えていますか。」

実践を通して「企業とは何か」を理解できる仕組みがあることです。

 立命館MOTの教育と研究の特徴は、常にビジネスや社会とのつながりを考えていることです。たとえば、学生が、講義で学んだ理論を企業活動の場で実践することで、理解を深める長期インターンシップ「プラクティカム」という仕組みがあります。これは、学生のグループが受け入れ企業の持つMOT的課題を企業側担当者とともに半年かけて解決しようというものです。一般的なインターンシップとは違い、実際に企業が抱えている困りごとに直接触れるので、「企業」というものを深く知ることができるのが一番のポイントです。学生の中には、企業とは自分の好きな仕事をやらせてくれて給料をくれる社会福祉みたいなものと思っている人もいますが、そうではなく、各企業は独自の社会的意義・使命や生き残りのための戦略・戦術を持ち、その実現のために従業員を雇用するのだという、マネジメントの視点に気づけるのが非常に大きなメリットです。

 プラクティカムでは、グループワークやプレゼンテーションによってコミュニケーション能力を鍛える機会が多くあります。コミュニケーション能力とは、友人と仲良くできることではなく、自分と違う価値観や立場の人に自分の考えを伝え、相手の考えを理解する力です。プラクティカムで接するのは30~50歳代のマネジャーやベテランの技術者です。課題解決には、彼らの問題意識や思考を理解し、また自分のアイデアを共有しないといけないので、コミュニケーション能力がとても重要なのです。プラクティカムを経験した学生は、見違えるほど視野が広がり、成長します。就職活動においても、自分が、企業の持つ課題を解決し企業を発展させるためにどのような貢献ができるかという意識を持って臨むことができます。

「MOTで学ぶ学生たちに期待することは何ですか。」

社会への問題意識を持ち、深く広く、納得できるまで考える力をつけてほしいです。

 立命館MOTで身につけてほしい力は、「受け手側の視点を持つ」、「社会全体を俯瞰して成り立つかを考える」、「モデルベースで考える」の3つです。

 1つ目は、「受け手側の視点を持つ」ということ。よく混同されるのですが、「機能」と「価値」は異なるものです。例えばテレビがカラーで映るのは機能であって価値ではない。それが価値かどうか決めるのは受け手側です。価値の本質を理解してそれを中心としたものの見方をすることがビジネスには重要です。

 2つ目は、「社会全体を俯瞰して成り立つかを考える」力です。ビジネスが成立するには、関わる人々それぞれが価値を感じること、Win-winである必要があります。誰かが損をするような仕組みであれば破綻するでしょう。ビジネスは自然発生的にできるものではなくデザインするもの。全体を俯瞰して最適化するものだという意識を持ってほしいです。

 3つ目は、「モデルベースで考える」力です。ビジネスを設計したら、成立可能性を検証する必要があります。実際に試してから失敗すると害が大きいので、モデルをベースに常にシミュレーションして最適化し、現実にフィードバックするという方法を学んでほしいですね。既存のビジネスでも、今一度モデルを立てて見直すと改善できることは多々あります。理論だけで終わらせず、社会に実装するところまで意識して考える力をつけてほしいです。

 今MOTを学ぼうと考えている学生さんたちは、技術と社会の関係についての問題意識を持っているという時点ですでに一歩リードしています。自分で深く考えて、世の中で常識とされていることを疑い、納得できるまで調べ、考える人に、ぜひ来ていただきたいですね。授業でも、私の発言をそのまま信じるなとよく言っています。教員の言葉は一面の真実かもしれませんが、条件が違えば成立しない可能性をはらんでいます。常に問題意識を持ち、自分自身で考察する力を身につけ、社会をよりよくするためにその力を活かせる人材が、ここから巣立ってくれることを期待しています。