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児玉 耕太

「MOTは社会に貢献するための科学を作り上げる研究科です。」

MOT教員 児玉 耕太 准教授

テクノロジー・マネジメント研究科

児玉 耕太こだま こうた准教授

九州大学薬学部、九州大学大学院薬学研究科修士課程、博士課程を修了後、 2000年にサントリー株式会社入社。2003年より理化学研究所ゲノム科学総合研究センタージュニア・リサーチ・アソシエイトとして研究に従事。福岡大学薬学部助教、北海道大学創成研究機構特任准教授、北海道大学薬学研究院特任准教授などを経て、2016年より立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科准教授に着任。2018年より同副研究科長を務め、2016年より北海道大学薬学研究院客員准教授を兼任する。

「先生がMOTに携わるようになったのはなぜですか。」

社会とつながる学問である薬学を活かして、社会に貢献したい。

 私はもともと薬学部出身です。薬学は専門性が高い学問分野で、経営などビジネスに関わる部分を学ぶ分野はかつて存在しませんでした。学生時代はもっぱら、化学領域の研究ばかり行っていました。海洋天然物化学という分野の研究でウミウシから薬用成分を抽出して構造解析をするという基礎研究です。しかし、薬学は応用化学の領域であり、社会とのつながりは欠かせない学問です。技術経営とまでいかずとも、どこかで研究とビジネスのつながりは意識していたのだと思います。

 最近では、薬学部や医学部などの医療系学部を卒業後スタートアップで創薬のビジネスに携わるといったケースが増えてきています。そういった背景から、薬学研究者も経営スキルやビジネススキルを学ばないといけないという思いが強くなったのが、MOTに携わるようになった一つのきっかけです。私自身スタートアップの経験があり、前職の北海道大学でもビジネス系のカリキュラムを担当していたこともあって、現職に就くことになりました。 現在は薬学というよりはより広いヘルスケア領域の技術分野の研究を行っています。社会とつながる学問を通して、社会に貢献していきたいと考えたことが、MOTに取り組み始めた経緯ですね。

「現在の研究内容について教えてください。」

科学技術とビジネスをつなぎ、イノベーションを起こすための研究を。

 現在は、科学技術とビジネスをどうつないでイノベーションを起こすかという研究を、理論と実践の両側面を含めて行っています。

理論研究では、医薬品業界の動向分析を行っています。医薬品開発は秘密保持性が非常に高く、基本的には一つの会社の中で、外に情報を出さずに開発が進められます。そのため、これまでは業界の動向が外部からなかなか見えてきませんでした。しかし最近ではオープンイノベーションと呼ばれる、企業同士が連携して研究開発や製品開発を行う仕組みが広がっています。そのような動きを企業のプレスリリースや論文や特許情報などから収集・分析し、業界の動向を解析しています。このような情報は、特に製薬会社の開発担当者やヘルスケアスタートアップに投資する投資家などにとっては非常に有益です。我々の分析した情報を活用してもらうことで、日本のヘルスケア領域がさらに活性化してほしいと考えています。

 実践研究では、スマートデバイスなどのIoTデバイスを活用して、主にwell-beingを測定するためのヘルスケア関連製品の研究開発を行っています。医療機器ベースのスマートウォッチやスマートウェアを使って人間のバイタルデータ等を収集し、活用する研究ですね。well-beingとは「よく生きること」という語訳の通り、幸福な状態ややりがいのあふれる状態を指します。人間の気持ちや心の指標といわないまでも、よりよく生きるための指標として活用できるようにすることが目的です。現在は国土交通省や環境省のプロジェクトとして、ゼネコンなどの関連企業との産学連携研究も実施しています。現場の作業者にスマートウェアを着てもらい、バイタル(血圧や心拍数、血中酸素濃度など)データや行動データを採取しながら、労働生産性の測定を行うというものです。ビジネスで言うところのヒューマンリソースマネジメント(HRM)ですね。この研究を今後は医薬品・医療機器の開発にも応用していきたいと考えています。医薬品の治験では、これまで医師の診察時にのみ医薬品の効果を測っていましたが、スマートデバイスを活用すれば、被験者が医師に受診しなくてもデータを採取できるようになります。より精密なデータの測定につながり、効率的な医薬品開発にも一役買うのではと考えています。

 このような研究を進めていくことで、医薬品・ヘルスケア業界の新たなビジネスモデルを創出していくのが目標ですね。

「MOTの学びとはどういうものだと考えていますか。」

学問を学ぶのでもビジネスをするのでもなく、“社会のための学問を科学する”学び。

 立命館MOTは大学院ですので、一方的な知識の教授ではなく、教員と学生が互いに知識やリソースを出し合い教え合って学んでいくというのが理想の姿だと考えています。本研究科は社会人学生が多く、大学院の中でも特に異なる背景をもった人が集まってくる研究科です。多様な知識や背景を持つ人々が集まって、教員と学生が一緒に研究をする場であるといえるでしょう。学問分野としても技術経営はかなり幅広いので、非常に奥が深いと思っています。

 我々教員のミッションは、「技術経営というサイエンスを教える」ことです。技術経営はその名の通り、テクノロジーとビジネスの分野をつなぐという意味で、ビジネスに非常に深く関連しています。その一方で、科学性も非常に重要です。立命館MOTで実際にビジネスができると思われる方がたまにいらっしゃいますが、立命館MOTはあくまで研究大学院ですので、科学する場所なのです。実際のビジネスは、個々人が大学の外で自己責任にて行わなければなりません。ただ、学生のやりたいという積極性にはできる限り応える環境が整っていますし、教員も大学を離れた一個人としては可能な限り応援します。自分で考え、行動しようとする学生に対して、私たち教員はアドバイスを惜しみません。

 出身学部の文系・理系に関係なくぜひMOTにチャレンジしてほしいと思います。私個人の研究のスコープはヘルスケアですが、研究手法としては、経済・経営学分野でよく使われるデータサイエンスですので、指導する学生の研究範囲はヘルスケアに留まりません。文系・理系の垣根なく、幅広い分野の専門領域を擁しているところが本学MOTの特徴の一つです。ビジネスと科学は社会と切っても切れないものですから、一つの分野にこだわらず、広く社会に貢献するためのサイエンスを作り上げることを考えてほしいですね。つまり、「学問のための学問を科学する」のではなく、「社会のための学問を科学する」ということです。ビジネスに直結するデータサイエンスを学びたい方の挑戦をお待ちしています。