2017.04.25

実ほど頭を垂れる稲穂かな

 寒かった今年の冬から一気に温かくなり、学内を彩った桜も風と共に潔く散り、葉を大きく広げようとしています。本年度も前期セメスターが始まり3週間が経過しましたので、各講義ともより深い内容へと入っているのではないでしょうか。

 私の出身地である高知は、春が駆け足で過ぎ去り、ゴールデンウィーク前後には初夏を感じさせる日々が始まります。昔は米の「二期作」で知られておりましたが(我々が小学校時代は社会の教科書には必ず掲載されていました)、減反政策等により現在は二期作を行う農家はほぼ見られなくなりました。それでも台風襲来に備えて8月収穫を目標に、3月末には田を耕し整地して、4月中には田植えを完了するところが多いです。


 私の前職の学校(高知県中部の中学校)では、校区の水田を借りて米づくりを行い、収穫した米を地域のお祭りや地元の量販店で販売する体験学習プログラムをキャリア教育の一環として行っています。4月初めに地域の協力者の方々と稲作の流れを確認し、地域の農家の方に「特別授業」をお願いし、田植えや収穫までの作業を学習します。4月中旬、地域の幼稚園児や小学生と共に中学生が中心となり田植えを行います(教員も校長を筆頭に率先して水田に入ります)。水温む水田に素足で入る時の泥の感触。足の指の間を泥が「にゅるっ」っと通り抜けるなんともこそばゆい感覚があります。


 生徒全員が水田に入り、苗を片手に植えていくのですが、みんなで協力して横のラインを合わせ、一歩ずつ足場を確認して慎重に田植えをします。全身泥だらけになりますが、熱心に、そして楽しそうに作業を進めていきます。2時間程度で田植えが終わると、水田近くの用水路で泥を落とすのですが、この用水路の水は近くを流れる「仁淀川」から引かれており、江戸時代の土佐藩家老・野中兼山の指揮のもと造られた歴史遺産です。

 季節が進み、7月頃には稲の穂が大きくなり、8月には黄金色になり稲の穂は大きく頭(こうべ)を垂れますので、夏休み、生徒総出で鎌を持ち、一束一束汗を流しながら刈っていきます。乾燥、脱穀、精米と生徒が地域の協力者と一緒に作業を行い、5Kgの袋に詰めていきます。
なぜ、この話を書いたのかと言いますと、私の座右の銘は「実(みのる)ほど、頭を垂れる稲穂かな」です。生徒にも全校集会で稲作の体験を通じてこの格言の意味を話します。成長するにつれ、自分の足りないものを自覚し、他者に敬意を払いつつ、足りないものを身に付ける謙虚な姿勢で人と接しなければならない。私自身そうあらねばならないと、常に言い聞かせている言葉です。
学校や社会で多くの事を学び、多くの人との出会いがありますが、自分を冷静に客観的に見る事を怠らず、自分自身を向上させるために真摯な態度で人と接する人間でありたいと思っています