1983 京都大学医学部 卒業 1990 京都大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程 修了
ごく微量で生体の働きを調節するホルモンに興味を持って大学院に進学しました。蛍光法を用いた高感度酵素免疫測定法(EIA)を確立し、当時流行だったラジオイムノアッセイ法の1000倍高感度に成長ホルモン(GH)が測定出来る様になりました。「それまで測れなかったものが測れる」、わくわくして、まず尿中のGHを測ってみました。GH分泌不全の小人症の診断、GH分泌過剰の先端巨大症の患者の治療後の経過など臨床応用が可能になりました。隣の研究室の同僚が免疫の研究をしており、リンパ球を培養した後の捨てた培地を少しもらってGHを試しに測ってみたら、免疫細胞がホルモンを分泌していることを初めて見つけました。プロラクチン(PRL)は妊娠や下垂体腫瘍で血中濃度が上昇します。妊娠でもなく、下垂体腫瘍も無いのに通常の100倍も血中PRL値が高い患者の主治医になりました。「いったいどうなっているんやろ?」教科書には載っていません。いろいろ実験して「マクロプロラクチン血症」という新しい病態を見つけました。あれこれ考える前にまず手を動かして実験していた頃が懐かしいです。
薬物の適正使用に関する研究
ホルモンに対する抗体陽性患者の血液検査を正しく評価して最適な薬物治療を提案出来るシステムを確立し、それを臨床現場に還元して患者の健康増進に役立てる研究を行っています。
(1) 生理不順や不妊症で産婦人科を受診すると必ずプロラクチン(PRL)が測定されます。甲状腺の異常が疑われると甲状腺刺激ホルモン(TSH)が測定されます。その検査結果によって薬物治療方針が決定されるからです。ところがホルモン自己抗体が関与するマクロプロラクチン血症やマクロTSH血症では、PRLやTSHの血中濃度が高く出てしまいます。 そのため、誤診されると不必要な薬物治療が一生涯続いたり、場合によっては脳外科で不必要な手術までされることもあります。本研究室では、全国から送られてくる疑わしい症例を診断し、臨床現場に結果を還元して社会に貢献していきたいと思っています。 (2) インスリン使用中の糖尿病患者でインスリンに対する抗体が産生され、高血糖や低血糖をきたすことが知られています。抗体と反応しにくいインスリン製剤を調べる判定システムを確立し、患者に最も合ったインスリンを提案できればと思います。 (3) レプチンやアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、肥満や動脈硬化の抑制作用などがあります。これらホルモンの分泌調節や生物作用の研究を進め、創薬の種を見つけたいと思っています。
疾患と薬物治療を深く理解し、患者の健康相談が出来る薬剤師の養成
教育面では「疾患と薬物治療を深く理解して患者の健康相談が出来る薬剤師の養成」を目指しています。 高齢化がすすむ日本では、患者の健康管理を自宅や近所の薬局でする流れになってきています。薬剤師が健康相談窓口になって患者の訴えを聞き、病院に行くべきかOTC薬のセルフメディケーションでよいかを判断する必要があります。 そのためには、血圧測定など基本的なフィジカルアセスメントが出来なくてはなりませんので、「医療薬学実習」でシュミレーションロボット(フィジ子とフィジ夫)を使って学びます。また、「薬物治療学1、2、3」では各種疾患の病態と薬物治療をとにかく分かり易く教えています。 「卒業研究」は考える力をつけるうえで非常に大切です。みなさんがこれまで繰り返してきた「教科書を理解して暗記して試験で正解を書く」学習と全く違います。正解は無い事の方が多いです。自分で考えて実験し、失敗してその理由を考えて次に何をするのか考える。その繰り返しが卒業研究で、結果ではなく考えるプロセスを学びます。苦労する分、結果が出た時はとても嬉しいです。 アドバイザーの会では、一緒に昼ご飯やおやつを食べ、バスケットをして楽しんでいます。