教育理念

広い視野で社会の問題を見つめ、探究し、解決方法を提言できる人間を育成します。

問題指向・実践指向の学問

政策科学部が育成する人材 — 3つのポリシー
We Cultivate Human Potential

政策科学部では、4年間のカリキュラムを通して育成する人材について、3つのポリシーを定めました。その3つのポリシーとは、まずどのような学生を受け入れ、どのような教育を行い、そして社会の様々な場面で活躍できる人材として送りだすべきか、についての指針を示しています。

政策科学—それは、私たちの時代が求める新しい学問
Policy Science: A New Discipline Required for Our Times

政策科学部が開設されたのは1994年のことです。1990年代は、バブル経済が崩壊したあとの時代であり、政治、行政、経済など様々な分野で解決すべき問題が山積し、それまで欧米諸国への「キャッチアップ(追いつき追いこせ)」と経済成長を目標にひた走ってきた日本に、新たな指針の発見を迫った時代でした。

日本社会にとっての新しい指針の発見—これは、21世紀を迎えた今もなお問われ続けている大きな問題です。この大きな問題は、複雑で総合的な性格をもっています。ボーダレスの時代とかグローバル化の時代と言われるように、国内問題と国際問題の間に区別をつけることが難しくなっています。環境汚染の問題は国境を超えて拡がり、日本から遠く離れた地域の紛争や戦争が国会での論戦の主題となっています。ここで大事なことは、私たちの世界、私たちの時代に起こっている様々な問題が、どれもこれもお互いに関連しあい、影響しあっているということです。戦争、環境、飢餓、高齢化、雇用、犯罪—どの問題も放置するわけにはいきません。これらの問題の背後には苦しんだり、悲しんだり、悩んだりしているたくさんの人びとがいるからです。その苦しみ、悲しみ、悩みを少しでも和らげるためにはどうしたらよいのか。

そうした問題を理解し、その問題を解決する道を探るためには、複眼的で総合的な視野が必要です。広い視野をもって現代世界、現代社会の問題を理解し、これを解決できる人材が必要です。そのような人材を育成するために生まれたのが政策科学部です。

問題指向の学問
Policy Science as a Problem-oriented Discipline

政策科学は問題指向の学問と言われます。これはどういうことでしょうか。そう難しい話ではありません。私たちの身のまわりには様々な問題があります。そして、その問題にどう対処し、これをどう解決すればよいのか。問題には個人的なものもあれば、社会的なものもあります。「今月はお金がたりない」とか「成績が思うようにあがらない」とか「アルバイト先がみつからない」とか—これは個人的な問題です。問題とは、「困っている」とか「苦痛を感じている」とか「不安である」とか、そういった状況のことを言います。政策科学が扱うのは、社会的な問題です。つまり、社会の中に何か共通のことがらで「困っている」、「苦痛を感じている」、「不安である」といった状況にある人びとが複数いる事態のことを言います。

問題に対処するというのはどういうことでしょう。個人的な問題の場合には、新聞や雑誌によく出ている「人生相談」のコーナーがよい例になります。悩みや問題を抱えた人がいまどんな状況にあるのかを正確に知ることが人生相談の出発点です(事実の認識)。そして、どうしてその困った状況に陥ったのかを探ります(原因の探求)。こうして相手の事情を理解したあとで、助言やアドバイスを伝えます(解決策の提示)。

社会的な問題を解決する場合もこれとよく似た推理をします。共通の悩みや苦しみをもった人びとについて、正確な事実を認識し、悩みや苦しみの原因を調査し、そのような状況を克服するための方法を助言します。これら一連の作業を政策分析とか政策提言と呼びます。政策科学は、このような政策分析と政策提言を行なうための学術研究のことです。政策科学が「問題指向の学問」と呼ばれるのはそのためです。

ただし、個人の問題と社会的な問題とでは大きく異なる面もあります。個人の問題を解決するときでも、いろいろ葛藤することがありますよね。「成績が思うようにあがらない」—ならば、勉強時間を増やすとか、そういう手だてが考えられます。けれども、観たい映画がある、サッカーの試合を観戦したい、コンサートに行きたい、どうしよう…。社会問題の場合は、この葛藤がもっと複雑になります。

社会や世界に暮らす人びとは、みな同じことを考え、願い、求めているわけではありません。利害が対立したり、価値観(大切だと思うことがらの優先順位) が違っていたり、実に様々です。美しい自然環境の中で暮らすことが最高の人生だと考える人もいれば、都心で便利な消費生活を送ることが幸福だと考える人もいます。ですから、すべての人びとが同じ程度に、同時に満足できるような解決策というのは、なかなか見つからない—これが社会的な問題のむずかしさであり、政策科学という学問が必要とされる理由でもあります。

実践指向の学問
Policy Science as a Praxis-oriented Discipline

社会にはさまざまな問題があります。そうした問題について勉強し、知識も身につけたとします。しかし、政策科学の学びはそれで完結するわけではありません。政策科学の学びには次のステップがあります—その問題を解決するにはどうしたらよいのか。どのようなアクションを起こせばその問題を解決できるのか。

私たちは大気汚染の進行を黙ってみているわけにはいきません。毎年、大雨が降るといつも同じ地域が洪水の被害にあうような状況を放置しておくわけにはいきません。どんどん会社の売上が落ちている。その様子をただ観察しているようでは、その会社は倒産してしまうでしょう。もちろん、私たちの社会には、大きな問題、難しい問題が山積しています。すぐに解決できそうにない問題が数多くあります。それでも、私たちはその問題の解決に向けて努力を重ねます。人間の歴史とは、そうした努力の積み重ねだといってもよいでしょう。不都合なこと、不幸な事態、人びとが被る苦痛や悲しみを、少しずつ解消してきたのが私たちの歴史だといってよいでしょう。

では、問題解決のために何かアクションを起こす、そのために必要な学びとはいったいどのようなものでしょうか。

1. 問題解決の知識

問題を解決するためには、その問題がどのようなものであり、何が原因でその問題が起こっているかを知らなければなりません(問題の認識)。ある商品の売上が落ちている—なぜだろうと考えます。これが原因の探求です。どこかその製品に使いにくいところ、不便なところがあるのかもしれません。他社の類似製品と較べて価格が高いのかもしれません。あるいはまた、消費者はもうその製品に興味をもたなくなってしまったのかもしれません。おそらく私たちは、何が原因なのかを調べるでしょう(調査)。そして、売上を落としている原因がわかったら、その原因を取り除くためにどうすればよいのかを考えるでしょう(解決手段の探求と選択)。

生産コストをおさえて製品価格を下げる、デザインを一新する、機能を充実させる、もっと使いやすくする、(消費者が興味をもたなくなってしまったのであれば) 思い切ってその製品の生産をやめてしまう。いずれも、売上が落ちているという問題を解決するための方法であり手段です。

問題の認識から、原因の探求、解決手段の探求と選択までのこのような一連の知的営みが、政策科学における「知る」あるいは「学ぶこと」ということです。そして「何かを知る」ことは「何かをする」ことと表裏の関係にあることが多いのです。美味しい料理をつくるために、一生懸命、料理の本を読む。資産を増やすために、株式市場や金融商品のことを勉強する。すぐれない体調をよくするために、健康によい食事や食品のことを調べる。やりたい仕事につくために勉強する。すべて、「知る」ことは「する」ことに結び付いています。政策科学では「する」の部分が「問題の解決」「問題解決へ向けた前進」にあたります。政治や行政や法律、経済の動きや経営戦略、都市問題や環境問題、国際社会の動き、最新の情報技術—これらの知識を問題解決に「活かす」ことが政策科学の学びの特徴です。

2. 問題解決の意欲

ときに何となく気持ちが沈んでいたりして、何もやる気が起きなくなってしまうことはありませんか。きっと誰にでもこういうことはあるでしょうね。そんなときは、本当に何もする気持ちになれません。宿題がたくさんでていても、まあいいやなんて思ってしまったり、友達が誘いにきても、面倒なので断ったり。こういうときは、とくに何とかしなければならない問題があっても、放っておいたりしませんか。

問題解決は知識だけではどうにもなりません。いま目の前にある問題を何とかしようという気持ちがなければ、問題解決は前進しません。毎年、洪水の被害にあう地域の住民は、自分の家を守るために工夫をしたり、役所に陳情にいったりするでしょう。河川の護岸工事をしてもらうために署名活動をするかもしれません。問題解決のアクションを促すのは「意欲」です。より快適で安全な生活がしたいという意欲です。問題解決には実践(つまり「自らやってみる」ということ) が必要です。いくら知識があっても、この「やってみる」という気持ちがなければ、事態はいつまでたっても変わらず、改善されないでしょう。政策科学は、「知識」を「実践」に結びつけるところに特徴があります。

3. 問題解決の経験

では、問題解決の意欲というのはどこから生まれてくるのでしょうか。もちろん、その問題が自分の生活に直に関係している場合は、他人事ではありませんから、問題解決の意欲は自ずと生まれてくるでしょう。けれども、直接自分に関係のあることにしか関心を向けないのであれば、それは学問研究にはなりません。また実は、私たちには共感の能力があります。直接自分には及ばなかった被害や不幸を悲しんだり、それらに憤ったり、何とかしなければと使命感をもったりすることができます。私たちは遠い国で貧困に苦しみ、非人道的な扱いをされている人びとに共感することができます。私たちは、大きな事故で家族を失った人びととともに悲しむことができます。

広い視野からさまざまな社会問題に接近するために必要なのは経験を広げることです。学問のはじまりは「驚き」であると述べた哲学者がいます。この哲学者が言おうとしたことは、学問研究に向かうにあたって、実際に見たり、聞いたりする、そうした経験がいかに大切かということです。私たち一人一人の個人生活で経験できることは、ごく限られています。毎日、同じ時間に起きて、ご飯を食べて、身支度をし、学校や会社へ同じ経路で向かい、同じ時間に帰宅する。日常生活はそんなものです。

政策科学部では、経験を広げる機会として学びを位置づけています。政策科学部では、いま動きつつある政策問題の現場に出かけたり、政策問題の最前線で問題解決に取り組んでいる人々の話をきいたり、ときには政策問題の解決に参加したり、そういった学び方を重視しています。こうした学びの資源や教材は教室の中にはありません。大学のキャンパスの中にもありません。教室の外、キャンパスの外に政策科学の学びの素材があるのです。政策科学部が、フィールドスタディーを重視している理由はここにあります。それは、現に動きつつある政策問題とともに学ぶということです。これもまた政策科学が実践的な学問であると言われる理由です。

政策科学部の教育研究上の目的と教育目標
Educational Aim and Goals of the Faculty

すこし、解説が長くなりましたが、政策科学部の教育上の目的は、「問題解決指向的な精神を備えた政策実践力と政策構想力を持った人材を育成する」というようにまとめることができます。

さらに、政策実践力と政策構想力を持った人材を育成するため、次のような教育目標を掲げています。

  1. 戦略的指向を備えつつ、時間的・空間的に対象を俯瞰した政策研究に基づいて構想を示すことができる。
  2. 「目的志向的・総合的」な社会科学の素養を有する。
  3. 現代の「政策課題」の体系的な研究のために、「文明史」的な視野と「グローバル」な視野を有する。
  4. 資料読解力、論理的思考力、プレゼンテーション能力、文章作成力を有する。
  5. 社会的現実の数理的理解と計量的処理を重視し、「情報科学的」手法の活用を図ることができる。
  6. 平和と民主主義、人権、公共性などの人類の普遍的な「価値規範」に立つことができる。
  7. 市民社会の成熟による社会的決定における「参加」理念を重視する態度を身につける。
  8. 「問題解決志向的」なマインドを持ち、新たな社会科学的素養を備えたゼネラリストの資質を有する。
  9. 目的志向的、実践的な社会科学としての「地域的・社会的ネットワーク」の形成を目指すことができる。
  10. 幅広い世代からなり多様な価値観をもつ社会において、健全なリーダーシップによって共同研究を成功へと導き、他社のキャリア形成を支援することができる。
  11. 国際的なコミュニティ・エクスチェンジ型学習と多言語学習の経験を通じて、世界的な展開を開始するに足るバイタリティを獲得することができる。

キャリア創造の学びと政策科学−「学ぶこと」と「実践すること」
Learning toward Career Making: Learning and Praxis

「政策科学」は、大学教育の新しい分野です。政策科学部のカリキュラムがどのような理念によって編成されているのかに関しては前述のとおりですが、これを別の表現でいうならば、キャリア形成を念頭においた学びを実現しているといえるでしょう。

政策科学の学びは実践的な学びです。これは何を意味するでしょうか。私たちの知識は大きく二つに分けられます。少しむずかしい言い方かもしれませんが、一つは「理論知」、もう一つは「実践知」です。「理論知」は本を読んで知ったり、講義を聴いて知ったりしたことのすべてが含まれます。小学校、中学校、高校、そして大学の授業を通じて身につけてきたものの多くはこれにあたります。

では「実践知」とは何でしょう。身近な例で考えてみましょう。自転車に乗れるようになったり、テニスやスキーなどのスポーツが上手になったり、料理ができるようになったりするとき、私たちはそれをどのように学ぶのでしょうか。もちろん、テニスやスキーなどスポーツの技術について解説した本があります。料理でもクッキングブックといった本があります。スポーツでも料理でも初心者は、そうした本を読むところから始めるかもしれません。しかし、本を読んだだけでは、スポーツも料理もなかなか上達しません。上達するためには「身体で覚える」「経験を重ねる」「失敗から学ぶ」…こういったことが必要です。このようにして学ばれた知識、経験や体験の中で培われた知恵—これが「実践知」です。

大学教育では今、就職のためのキャリア形成に注目が集まっています。政策科学部でのキャリア形成は、単なる就職活動や進路選択のための支援のことではありません。政策科学部のキャリア形成は、上に述べた「実践知」を身につけることと表裏の関係にあります。

キャリア形成における重要なポイントは、「キャリアを造る:知識を生かす学び」という点です。

私たちは大学で様々な知識を学びます。その知識は、社会でどのように役立ち、どのように活用されているのか、また、どのように役立て、どのように活用させられるのか。こういう視点で捉えなおされた学びを「コンテクスチュアルな学び」と呼びます。政策科学部では、この「コンテクスチュアルな学び」を充実させるために様々な取組みを進めています。いくつか紹介しましょう。

社会研究はもともと現実社会の様々な課題を解決するための知識を提供するために生まれてきたものです。では、どのような課題があるのでしょう。課題とは、人々が苦しみ、悩み、そこからの救いを願う問題から生まれてくるものです。では、苦しき、悩み、救いを求めている人々はどこにいるのか…人はすべて地域社会の一員です。地域社会は解決すべき課題や問題の「坩堝(るつぼ)」だといってよいでしょう。政策科学部が実施する「コミュニティ・エクスチェンジ」学習は、多様なレベルのコミュニティで実際に学び、その経験を国際的な視野で考えるというコンセプトに基づいた学びの方法です。日本の政策課題は、海外の政策課題と共通する面があります。日本が一方的に外国を支援するのではなく、日本国内外におけるコミュニティ経験の相互利用を促進する学習プロセスは政策科学の学びにとって重要です。